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イスラエルとハマス、地域紛争にエスカレートの懸念 中東はどこまで備えているのか

週末にパレスチナの武装組織ハマスが境界を越えた前例のない規模の攻撃を行った後、イスラエルは、ガザを砲撃、包囲下に置いた。(AFP)
週末にパレスチナの武装組織ハマスが境界を越えた前例のない規模の攻撃を行った後、イスラエルは、ガザを砲撃、包囲下に置いた。(AFP)
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12 Oct 2023 12:10:49 GMT9
12 Oct 2023 12:10:49 GMT9
  • レバノン、シリア、イラク、イエメンの武装集団が参戦すれば、イスラエルは4正面戦争を戦うことになりかねない。
  • 終わりの見えない多国間戦争は、地域に政治的にも経済的にも壊滅的な結果をもたらす可能性がある。

ナディア・アル・ファウル

ドバイ:パレスチナ組織、ハマスの武装勢力によるイスラエル南部への前代未聞の襲撃に対する報復として、イスラエル軍がガザへの攻撃を強化している。これにより、中東でより広範で多面的な紛争が勃発する恐れが高まっている。

専門家によれば、イランとそのイスラム革命防衛隊(IRGC)は数十年にわたって、中東のスンニ派パレスチナ組織だけでなく、シーア派武装勢力にも武器と資金を提供してきたという。その結果、イスラエルは現在、ガザ地区とヨルダン川西岸地区のハマスとパレスチナ・イスラミック・ジハード(PIJ、イスラム聖戦)、それにレバノンとシリアのヒズボラとPIJが加わった、3正面、あるいは4正面戦争の可能性に直面している。

レバノンのヒズボラは8日にロケット弾を発射してイスラエルに最初の一撃を与え、イスラエルの致命的な報復を引き起こした。9日に国境を越えて行われた砲撃戦では、ヒズボラの戦闘員3名、パレスチナ武装勢力2名、イスラエル軍将校1名が死亡した。

米国防総省はヒズボラに対し、第二戦線を開く前に「よく考える」よう警告し、米国はイスラエルの防衛を支援する用意があると述べた。中央軍は、ジェラルド・R・フォード空母打撃群(GRFCSG)を東地中海に派遣し、同地域の空軍飛行隊を増強した。また、さらなる抑止力として、2隻目の空母をイスラエル付近に配備することも検討していると報じられている。

米国防総省はヒズボラに対し、第二戦線を開く前に「よく考える」よう警告し、米国はイスラエルの防衛を支援する用意があると述べた。(AFP)

情勢は緊迫している。ハマスを支援する勢力は、勢いづいていると考えている。しかし、広範な国民の支持がない、イスラエルとの終わりの見えない多国間戦争は、これらのハマス支援国家に政治的にも経済的にも壊滅的な結果をもたらす可能性があると、観測筋は指摘する。

レバノンの場合、ヒズボラもイスラエルも、さまざまな理由から大規模な地域紛争に巻き込まれることは望んでいないとアナリストは見ている。

「双方はある程度の暴力と犠牲は受け入れる意思があるだろう。両当事者は基本的に、これがはるかに広範な戦争にエスカレートすることを望んでいない」と、ベイルートにあるカーネギー中東センターのシニア・エディター、マイケル・ヤング氏はアラブニュースに語った。

「これまで見てきたことは、私が考えていることを証明している。ヒズボラは死傷者を受け入れ、イスラエルは2つの軍事基地が攻撃された事実を受け入れている」

「もちろん、これは危険なゲームであることに変わりはない。いつ制御不能に陥ってもおかしくない」

週末に行われたハマスによるイスラエル攻撃は、この地域での紛争を拡大させる可能性を高めている。(AFP)

2006年に起きたイスラエルとヒズボラの最後の大規模な戦闘は、今後の衝突はゴラン高原付近の小さな紛争地帯に限定されるという暗黙の了解のもとに終結した。

イランと、レバノン、イラク、イエメンにいるシーア派の代理勢力(いわゆる「抵抗の枢軸」のメンバー)たちは、イスラエルの軍事基地といくつかの村や町がハマスの過激派に制圧された、7日の攻撃を強く支持している。イランの国営通信IRNAが8日に伝えたところによると、イブラヒム・ライシ大統領は攻撃開始後、ハマスとPIJの指導者たちと電話会談を行った。

この攻撃を受けて、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は次のように述べた。「ハマスと他の敵は、今後数十年にわたって記憶することになる、重い代償を支払うことになる」。しかし、イスラエルが地上侵攻に踏み切れば、複数の戦線で戦うことになりかねない。

ハマスの軍事部門「アル・カッサム旅団」の最高軍事司令官であるムハンマド・デイフ氏は、レバノン、シリア、イラクのイラン系武装勢力に対し、イスラエル攻撃に参加するよう呼びかけている。

イランと同盟関係にあるイラクとイエメン国内の武装集団は、バイデン政権がイスラエルを支援するために介入すれば、ミサイルやドローンで米国の資産を標的にすると脅している。

イラクの民兵組織「ハシュド・アル・シャアビ」は、米国が紛争に直接関与すれば、イラクにいる米軍を攻撃すると脅している。米国はイラクに2500人、隣国シリアに900人の部隊を派遣し、2014年に両国で広大な領土を掌握したダーイシュに対抗するため、現地部隊に助言を与え、支援する任務に就いている。

イスラエルは現在、ガザ地区とヨルダン川西岸地区のハマスとパレスチナ・イスラミック・ジハード(PIJ、イスラム聖戦)、それにレバノンとシリアのヒズボラとPIJが加わった、3正面、あるいは4正面戦争の可能性に直面している。(AFP)

9日、イランに近い政治・軍事グループ「バドル組織」のリーダーであるイラクの政治家ハディ・アル・アミリ氏はこう語った。「もし彼らが介入してきたら、我々も介入するだろう。我々は米国のすべての標的への攻撃を正当なものとみなすだろう」

バドル組織はイラクの「人民動員隊(PMF)」の大部分を構成しており、イランの支援を受けた多くの派閥を含む準軍事組織である。

10日夜、シリアから発射されたロケットがイスラエルの北部の開けた地に着陸したと報じられている。発射場所は、ヒズボラや他のイラン支持の民兵がバシャール・アサド大統領の承認のもと存在を維持している、イスラエル国境付近であった。

イエメンでは10日、シーア派系フーシ派の指導者が警告を発した。同民兵組織は米国のガザ介入にはドローンやミサイル、その他の軍事オプションで対応すると述べた。

また、同組織は、「抵抗の枢軸」の他のメンバーとの介入を調整する用意があると述べた。

イスラエルによるガザ攻撃が続く中、この紛争で数千人が死亡している。(AFP)

専門家によれば、レバノンのヒズボラを巻き込んで紛争がエスカレートした場合、地域の構図が一変し、イスラエルは半世紀ぶりの規模の安全保障上の課題に直面することになるという。

「我々の歴史、我々の銃、我々のロケットは、あなた方とともにある」と、ヒズボラ高官ハシェム・サフィディン氏は8日、ベイルート東部で開かれたハマスの集会で語った。

たとえそうであっても、ヒズボラはこの機会には火薬を温存しておくことを選ぶかもしれない。現在イスラエルに向けられているヒズボラのロケット弾は、イスラエルがイランに対して先制的な行動をとることへの強い抑止力となっている。

さらに、コストと政治的支持の問題もある。パンデミック、紛争、食糧・燃料価格の高騰に見舞われ、脆弱な財政に悩まされている中東・北アフリカ地域は、紛争の直接的・間接的な影響に耐えられる状態にはないというのが一般的な見方だ。

専門家によれば、西はチュニジア、リビアから東はイエメンに至るまで、アラブ諸国の政治経済は最悪の状況にあるという。6月の国際通貨基金(IMF)のブログ記事によると、財政リスクと金利引き上げや食料・燃料価格の高騰といった対外的な動きが重なり、アラブ世界の低・中所得国の財政は深刻な圧力にさらされている。

レバノンでは、何人かの政治家が、長引く経済危機の中での安定と団結を優先すべきであると訴え、イスラエルとハマスの紛争に国を引きずり込むことを戒めている。

レバノンのアブダラ・ブハーブ外相はヒズボラに対し、無闇に戦闘に参加しないとの確約を求めた。また、ナジーブ・ミカティ首相は治安維持の必要性を強調している。

アナリストによれば、大統領不在のレバノン政府は、ヒズボラの決定にほとんど影響力を持たない。しかし、ヒズボラがどの程度までガザ紛争に関与するかは、イスラエルがハマスとの対決にどこまで踏み込むかにかかっている、と彼らは付け加える。同グループを完全に排除しようとする試みは、地域的なエスカレーションを招く可能性がある。

週末に起こった、ハマスによるイスラエルへの前代未聞の襲撃に対する報復として、イスラエル軍がガザへの攻撃を強化している。(AFP)

「考慮すべき別の要素があると感じている。それは、イスラエルがガザで何をするかだ」と、カーネギー中東センターのヤング氏はアラブニュースに対し語った。「イスラエルがハマスの存亡を脅かすのであれば、それを回避するためにヒズボラが介入することは想定できる」

「しかし、イスラエルがハマスの存亡を脅かすということは、多くの犠牲者を出さずにガザを完全に占領するということを意味する。そのためには、軍が民家に入り込み、ハマスの過激派である何千人もの若者を逮捕しなければならない」

「これはイスラエル側にとって極めて困難な問題だ。そんなことができるだろうか。彼らにとって、ガザ地区に引き込まれるのは最悪の事態だ。そして、イスラエル軍をガザの路上の戦闘に引きずり込むことこそ、イランが望んでいることなのだ」

もしイスラエルが米国の後ろ盾を得て、ハマスの攻撃への関与が疑われるイランと直接対決することになれば、イランはホルムズ海峡を通る石油の流れを妨害することで応戦し、世界市場での原油価格の大暴騰を招く可能性がある。

イスラエルは7日のハマスの前代未聞の攻撃以来、ガザ地区を砲撃している。(AFP)

エネルギー輸出国であるアラブ湾岸諸国を巻き込む戦争が拡大するリスクが高まる中、原油価格は今週、すでに上昇している。

1973年の第四次中東戦争がキャンプ・デービッド合意やイスラエルとエジプトの関係正常化につながったのと同じように、イスラエルとハマスの決定的な衝突がサプライズを生むかもしれないと期待する論者もいる。

エジプトのジャーナリストでコラムニストのアブデラティフ・エル・メナウィ氏は、そのような結果をもたらす可能性に疑問を投げかけた。「これまでの彼らの行動を考えると、パレスチナ人は次に何が起ころうとも、ある程度の『勝利』を誇る権利があるだろう。これは政治プロセスを開始するための資格になりうる」と彼はアラブニュースに語った。「しかし、ハマスとイスラエルの両方が平和のパートナーになることはできるのだろうか?両方の側にはこれを証明するための複数の機会があったはずだ」

「ハマスには、責任を持ってガザを統治する機会があった。彼らの価値を証明し、単なるパレスチナのイスラムマフィアに過ぎないという考えを払拭するために。彼らはガザにおける支配を維持することにのみ関心を持ち、イランの道具として行動することを喜ぶのではなく、パレスチナ自治政府のパートナーとの協力の中で、パレスチナ人のための新しい未来を作ることを主要な目標とするべきだった」

「同時に、『アル・アクサの洪水』作戦は、イスラエルによるパレスチナ領土の不法占拠、人種差別、土地の奪取、入植地の侵犯、パレスチナ人を非人道的な状況に追いやるという政策の結果として予想されるものであり、おそらく今後も続くだろう」

イスラエルとの国境沿いにあるレバノン南部のキアム平原を走る国連レバノン暫定軍(UNIFIL)のパトロール隊。(AFP)

「合理的な人間であれば、爆発以外の結果は期待できない」

ハマスによる致命的な攻撃は、平和な時代への希望を打ち砕き、事態が制御不能に陥ることを懸念させ、すでに経済が不安定な状態にある国々を巻き込む破滅的な紛争の恐怖をもたらした。

この衝突により、パレスチナ人の権利と国家樹立の願望を有意義な形で前進させる和解の可能性が高まったのかどうかは、時間が経ってみなければわからない。

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