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ガザ地区に広がるハマスのトンネル網によって、イスラエルの地上侵攻は一層リスキーになる

2016年7月20日、ガザ市内でハマスが主催した若者向けサマーキャンプでの武器展示中、軍事訓練に使われるトンネル内に入っていくパレスチナの若者。(AP通信/ファイル)
2016年7月20日、ガザ市内でハマスが主催した若者向けサマーキャンプでの武器展示中、軍事訓練に使われるトンネル内に入っていくパレスチナの若者。(AP通信/ファイル)
2012年11月29日、ガザ地区とエジプトを結ぶ密輸トンネルに国境のエジプト側から入っていくパレスチナ人男性。トンネルはラファにあり、爆撃を受けた後修繕された。(AFP/ファイル)
2012年11月29日、ガザ地区とエジプトを結ぶ密輸トンネルに国境のエジプト側から入っていくパレスチナ人男性。トンネルはラファにあり、爆撃を受けた後修繕された。(AFP/ファイル)
2013年8月27日、ガザ地区南部にあるエジプトとの国境下にある密輸用トンネル内部から同僚に話しかけるパレスチナ人労働者。(AFP/ファイル)
2013年8月27日、ガザ地区南部にあるエジプトとの国境下にある密輸用トンネル内部から同僚に話しかけるパレスチナ人労働者。(AFP/ファイル)
2013年8月27日、ガザ地区南部にあるエジプトとの国境下を通る密輸用トンネル内へロープで下りていくパレスチナ人労働者。(AFP/ファイル)
2013年8月27日、ガザ地区南部にあるエジプトとの国境下を通る密輸用トンネル内へロープで下りていくパレスチナ人労働者。(AFP/ファイル)
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30 Oct 2023 02:10:57 GMT9
30 Oct 2023 02:10:57 GMT9
  • 武装組織ハマスが築いた広大な迷路のようなトンネルは、人口密度の高い区域全域に広がっている。
  • イスラエルがハマスを壊滅させるには、このトンネルを掃討し破壊することがきわめて重要となる。

エルサレム:イスラエルとハマスとの紛争がかつてない規模の被害を出している中、イスラエルによるガザ地区への地上侵攻が迫っている。双方の兵士、そして海沿いのガザ地区で足止めされている230万人のパレスチナ人にとって、最大の脅威の一つは地下深くに存在する。

武装組織ハマスが築いた広大な迷路のようなトンネルは、人口密度の高い地区全域に広がっており、その中にはハマス兵士やロケット兵器庫、そして10月7日に行われたイスラエルへの空前の攻撃以降捕らえられた200人を超える人質が隠されている。

イスラエルがハマスを壊滅させるには、このトンネルを掃討し破壊することがきわめて重要となる。しかし人口密度の高い都市部での戦闘や地下での移動は、イスラエル軍の技術的優位の一部を損ない、ハマスに地上でも地下でも有利な状況をもたらす可能性がある。

「私はいつもこう言っています。顔を殴られるのを待ちながら通りを歩いているようなものだと」とジョン・スペンサー氏は語る。彼は米陸軍の退役少佐で、ウェストポイントにある現代戦争研究所で市街戦について研究している。

彼はさらに、市街戦の防御側には「自軍の配置を考える時間と、無数の隠れ場所があります。戦闘を始めるタイミングを自分たちで決めることができ、自分たちは姿を隠したまま相手を補足できます」と述べた。

土曜日の夜間、イスラエル軍は航空機を用いてガザ北部にある150のハマスの地下目標を攻撃したと述べた。地下目標は、トンネルや戦闘用の空間、およびその他の地下インフラであると述べられている。イスラエルが地下トンネルに対して実施した中では最大規模とみられるこの攻撃は、イスラエルがガザ地区における地上作戦を強化しつつある中で行われた。

過去の事例が示すこと
坑道戦は歴史を通じて繰り返し行われてきた。古くはローマ帝国が古代ギリシャの都市アンブラキアに坑道戦を仕掛けたし、2022年にはウクライナの兵士が、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所地下にある長さ24kmの旧ソ連時代のトンネル内で、およそ80日間にわたってロシア軍を押しとどめた。

その理由は明快である。トンネル内での戦闘は陸上戦の中でも最も困難な部類とされているからだ。トンネルや洞窟郡の中で断固として抵抗してくる敵方には奇襲の機会がふんだんにあるため、戦闘を始める場所を自分で決められるし、多くの場合どう戦闘を終えるかも決められる。

ガザ地区はその好例だ。ここには、イスラエルが「地下鉄」と呼ぶハマスのトンネル網がある。

2007年にハマスがガザ地区の支配権を握った後、イスラエルとエジプトは制裁としてガザ地区を封鎖したが、その時ハマスは武器やその他の禁制品をエジプトから密輸するためのトンネル網建設を拡大した。その後エジプトは両国をまたぐトンネルの大部分を閉鎖したが、ハマスはなおもガザ全域に広がる広大な地下トンネル網を有していると考えられている。そのトンネルを使えば、イスラエルのドローンに見つかることなく武器や物資、兵員を輸送できる。

ハマスの政治指導者であるヤヒヤ・シンワール氏は2021年、ハマスが500kmのトンネル網を有していると主張した。ガザ地区自体の面積はわずか360平方kmと、おおよそワシントンDCの2倍の広さにとどまる。

「彼らはハマスのトンネルを100km破壊したと言い始めた。しかし我々がガザ地区に有するトンネルの長さは500kmを超える」と、イスラエルとの11日間の戦闘後にシンワール氏は述べた。

「彼らの言うことが事実だとしても、破壊されたトンネルは全体のわずか20%にすぎない」。

イスラエル軍は、遅くとも2001年にはこの脅威について知っていた。この年、ハマスはトンネルを使い、イスラエルの国境検問所の下で爆発物を起爆させた。2004年以降、イスラエル軍のサムール(イタチ)部隊は、時に遠隔操作のロボットを活用して、トンネルの発見と破壊に注力してきた。内部に侵入する人員は酸素やマスクその他の装備品を身につける。

イスラエルは過去に空爆や地上からの爆破でトンネルを破壊してきた。しかしハマスを完全に排除するには、これらのトンネルを一掃する必要がある。ハマスの戦闘員はトンネルを使い、進行してくるイスラエルの歩兵の背後を取れるのだ。

2014年の戦争では、ハマスの戦闘員がトンネルを通ってイスラエル内に潜入し、少なくとも11人のイスラエル兵を殺害した。他には、イスラエルの士官であるハダール・ゴルディン小隊長がガザ地区のトンネルに引きずり込まれて殺害された事例もある。ゴルディン小隊長の遺体はそれ以来ハマスの手中にある。

2014年の戦争に従軍した元イスラエル兵のアリエル・バーンシュタイン氏は、ガザ地区北部での市街戦を「奇襲、罠、潜伏場所、スナイパー」が入り混じったものだと表現した。

トンネルに入ると方向感覚と現実感が失われ、生じた死角を突いてハマスの戦闘員がどこからともなく奇襲してきたと彼は振り返る。

「幽霊と戦っているような気分でした。相手の姿が見えないのです」と彼は言った。

イスラエルのヨアフ・ガラント国防相は金曜日、地上侵攻には困難が予想されると述べ、ハマスの広大なトンネル網を壊滅させるには「長い時間を要するだろう」と警告した。イスラエルは戦略の一環として、戦争勃発以来ガザ地区へのあらゆる燃料輸送を停止させた。ガラント国防相は、ハマスがトンネル網へ空気を送る発電機に必要な燃料を接収するだろうと発言した。「空気の供給には石油が必要です。そして石油の獲得には私たちが頼りです」と彼は述べた。

イスラエル軍は金曜日、地下目標に対する「非常に有意義な」空爆を実行したとも述べた。

一般的に、現代の軍隊がトンネルを崩すためには、入念な空爆が頼りだ。ガザ地区の保健省によれば、戦争勃発以来、イスラエルによるガザ地区への攻撃で7300人を超える死者が出たという。しかしそうした攻撃では、地下トンネル網に限定的な損害しか与えられない。

ベトナム戦争で戦った米軍は、クチトンネルと呼ばれる120kmに上るトンネル網の掃討に手を焼いた。当時の南ベトナムのサイゴン近郊にあるトンネルの中では、狭い曲がり角やブービートラップ、時には何も見えない暗闇が米軍兵士を待ち構えていた。B-52による絶え間ない爆撃でもこのトンネルを壊滅できなかった。2022年、ロシア軍がアゾフスタリ製鉄所を攻撃した際も、トンネルを崩すには至らなかった。

トンネルの堅牢さを物語るかのような出来事として、アメリカは2017年、アフガニスタン国内のダーイシュのトンネル網に対して、「全ての爆弾の母」と呼ばれる大型爆弾を使用した。これは米軍が戦闘で使用した通常兵器としては最大のものだ。

さらなる複雑性をもたらす要因

しかしこれまでの事例における侵攻軍はいずれも、今のイスラエルがハマスのトンネル網に関して抱える課題には直面してこなかった。ハマスは10月7日の攻撃以来、200人ほどを人質に取り、1400人以上を殺害してきた。

ハマスは月曜日、85歳のヨケヴェド・リフシッツ氏を開放したが、これはハマスがトンネル内に人質を捕らえているという疑惑の裏付けとなった。リフシッツ氏によれば、彼女はハマスの戦闘員によって、彼女が言うところの「クモの巣のような」トンネル網に連れ去られたという。

ニューヨークにあるセキュリティーシンクタンクであるスーファン・センターによれば、人質が閉じ込められたトンネルの掃討は「ゆっくりと、かつ秩序だった手法」で行われる公算が大きく、それに当たってイスラエル側はロボットやその他の諜報活動に頼って、トンネルの構造把握や仕掛けられているかもしれない罠の探知を行うことになるという。

「攻撃が綿密に計画されていたことを考えると、ハマスは次のフェーズに向けた計画立案にかなりの時間をかけ、ガザ地区で大規模な戦闘準備を行う公算が高い」と、スーファン・センターはブリーフィングに記した。「人質が人間の盾として使われれば、戦闘の複雑性は一層増すことになる」。

イスラエル兵がこれから直面する戦闘も、閉鎖空間内での恐怖に満ちたものになるかもしれない。イスラエルのライヒマン大学の教授で、地下戦闘に関する著書も執筆しているダフネ・リシュモン・バラク氏は、イスラエル軍が持つ技術的優位の多くが失われ、ハマス側が有利になると警告している。

「トンネルに入れば、中はとても狭く、暗くてじめじめしています。そしてすぐさま空間と時間の感覚が失われます」と、リシュモン・バラク氏はAP通信に語った。「わからないことが恐ろしくなります。あの角にいるのは誰なのか? 待ち伏せがあるのか? そして誰も助けに来てはくれません。トンネルの外や自分の部隊との連絡はほとんど取れません」。

地下の戦場で、イスラエル兵士は、意図せず人質を殺しかねない銃撃戦を余儀なくされるかもしれない。罠の爆弾が起爆し、兵士と人質が両方生き埋めになる可能性もあるとリシュモン・バラク氏は言う。

こうしたリスクがあってもなお、イスラエルが軍事目標を達成するにはトンネルの破壊が必須であると彼女は述べた。

「果たすべきことがあり、それを果たすのは今なのです」と彼女は言った。

AP通信

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