
ロンドン/アムステルダム:西は海岸に面したナクーラから東は国連管理下のブルーラインに隣接するフラまで、レバノン南部のイスラエルとの国境沿いを訪れる人々を長年にわたって迎えてきたのは、緑に覆われた山々の目の覚めるような眺めだった。
しかし、オークや松、リンゴ、オリーブの木で覆われていたこの風景の大部分は、今日、不毛の地となっている。イスラエル軍が、武装組織ヒズボラから樹木被覆を奪うために、丘陵地帯に雨のように降らせたという白リン弾によって焦土と化してしまったのだ。
ヒズボラの指導者であるハッサン・ナスラッラー師は、ベイルートのアシュラ広場からライブ配信された演説で、10月7日の(ハマスによる)襲撃を賞賛したが、自身の影響下にある信奉者らがイスラエルとハマスの戦争に全面的な参加を果たしたと発表するまでには至らなかった。
ジオロケーション分析:オンライン画像と衛星画像を照合した画像資料を用いて、正確な地理位置を獲得し、2回の白リン弾攻撃によって影響を被った地上箇所を特定。
ブルーライン沿いに駐留する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)による冷静さを求める緊急の呼びかけにも関わらず、イスラエルとヒズボラの間の小競り合いの始まりの痕跡は既に風景の中に目に見える形で刻みつけられている。
レバノンの環境省に近い情報筋によると、約4万ヘクタールの緑地と農地が、そこに点在していた4万本のオリーブの木と共に、最近数週間の内に国境のレバノン側で焼き払われたという。
主要対象箇所の俯瞰図:イスラエル軍の攻撃による火災の影響を受けた地上箇所を収めた時系列画像のナクーラ地域内の位置を示した図。
「イスラエル軍の意図は、明らかに、目前の全てを焼き尽くして視界を確保することです。そのようにして、ヒズボラやレバノン軍が樹木や茂みの背後に隠れられないようにしようとしているわけです」と、レバノン議会の議員でベイルート・アメリカン大学の化学教授を務めるナジャット・オン・サリバ氏はアラブニュースに語った。
人権監視団体のアムネスティ・インターナショナルによると、イスラエル国防軍は白リンを充填した砲弾を焼夷兵器としてレバノン国内の標的に対して使用している。
「イスラエル軍は国際人道法に反して白リン弾を見境なく使用しました。これはこの上なく恐ろしいことです」と、アムネスティ・インターナショナルの中東アフリカ地域副責任者であるアヤ・マジズーブ氏は火曜日に発表された報告者の中で述べている。
「レバノンのデイラという町で10月16日に白リンが不法に使用された結果、民間人の命が著しい危険にさらされ、その多くが入院したり避難を余儀なくされ、また、家屋や車両が炎上しました」
アラブニュースは、先進的なオープンソースのインテリジェンスツールを用いて、環境活動家や地域の住民から提供された動画や画像を独自に検証した。この作業工程には、画像や映像の地理的位置の特定、記録の今日性の確認のための時系列分析、そしてオープンアクセスの衛生画像を用いた相互参照などが含まれた。
これらの画像を衛星画像に基づいた地図に重ね合わせ、火災などの事象の色のスペクトルを分析することで、画像が捉えた場所や時日、出来事を確認し、情報の正確性と信頼性を担保することがアラブニュースにとって可能となる。
イスラエル軍は、焼夷弾は煙幕を張るためにのみ使用しており、民間人を標的とすることはないと主張している。イスラエル軍は、10月にAP通信に宛てた声明で、通常使用している種類の煙幕弾の中に「白リンは含まれていない」と述べたものの、状況によっては白リンを充填したものを使用する可能性を除外しなかった。
白リンは空気中の酸素に接すると非常に高い温度を発して燃え上がり、暗闇に隠れた標的を照らし出す。また、燃焼時には濃密な白い煙を発生させるため、軍事作戦において煙幕として頻繁に用いられるが、吸い込んだ場合には生命に関わるほどの毒性を有している。
アムネスティの報告書によると、白リンに曝露した人々は、「呼吸器損傷や臓器不全、その他の恐ろしい、人生を変えてしまうような健康被害を受け、その中には治療が非常に困難で、処置において水の使用が不可である火傷も含まれる」という。
レバノン国民議会のサリバ議員は、この白リンという化学薬品が人体に及ぼす影響を解説した。「白リンは皮膚を溶解できます。つまり、皮膚を溶かして骨にまで至るということです。これは第3度や第4度の火傷よりも深刻なものです」と、サリバ議員はアラブニュースに語った。
「初日には何も感じないかもしれません。しかし、2日目には腹痛と嘔吐が起こり、体内に白リンがあることが分かるようになります。そして、白リンから身体を守るためにできることはほとんど何もないのです」
サリバ議員は、レバノン保健省は白リンに接触した患者の治療のための準備を進めており、また、同省はイスラエルとの国境近くや他の標的となっている地域に居住する人々向けの啓蒙活動を開始したと述べた。
アムネスティの報告書には、白リン弾による攻撃が行われたとされるデイラやヤリネ、マルワヒンといった町や村の近傍の病院で治療を受けた人々の体験が詳述されている。
「一晩中、そして今朝(10月17日)まで町を覆った大量の白煙のせいで、私たちは自らの手すら見ることができませんでした」と、レバノンの民間防衛の地域責任者はアムネスティに語った。
白リンは、人間の健康や公共インフラに直接的な被害を与えるだけに留まらず、環境にも長期的な悪影響を及ぼし得る。レバノンの肥沃な丘陵地帯で何世代にもわたって耕作を行ってきた農村地域に、白リンは壊滅的な打撃を与えつつあるのだ。
「イスラエルは、意図的に、生態系をズタズタに引き裂き、何百年にもわたって大切にされてきた土地を破壊しようとしているのです」と、レバノン南部の野生動物と文化遺産の保護を目的とする市民団体である「グリーン・サウザナーズ」の責任者であるヒシャム・ユネス氏はアラブニュースに語った。
「現在起こっているのは、伝統と文化の破壊なのです。現時点において大きな危険であり、それにも増して将来に大きな悪影響を及ぼすことになるのです」
レバノン南部は、2006年のイスラエルとヒズボラによる大規模な戦闘の際、生態系に甚大な被害を受けた。森林・開発・保全協会の2007年の調査では、千ヘクタール以上の森林やオリーブ園が爆発物と森林への延焼により破壊されたことが明らかとなった。
UNIFILが2010年にこの地域で大規模な森林再生プロジェクトを開始したが、被害が修復され始めるまでに4年を要した。今回は、しかし、レバノンはそれほど容易に立ち直ることが出来ないかもしれない。
「私たちは、ベイルート港の爆発から立ち直っていません。それに加えて、2006年の戦争からも立ち直ってはいないのです」と、サリバ議員はレバノンの首都の一地区全体に壊滅的な被害を与えた2020年8月4日のベイルート港爆発事故に言及して語った。
既に史上最悪の金融危機や新型コロナ禍、議員らによる新政府樹立を阻む政治的麻痺状態に陥っていたレバノンの苦境を、ベイルート港爆発事故はさらに深刻化したのだ。
レバノンの脆弱性とイスラエルの軍事的優位性を勘案すると、レバノン国民とその環境を災害や破壊から救い得るのは外交しかないというのが、サリバ議員の持論である。
「犯罪的な兵器や禁止されている兵器を、イスラエルは所構わず使用してきたように私は思います。イスラエルは、私たちにも容赦することはないでしょう。それなので、外交努力を尽くすことでレバノンをこの惨状から救う方法があるのであれば、そうすべきだと私は思うのです」
「私たちは歴史的な瞬間を迎えています。レバノンを戦争から救うためには、いかなる好機であれ、時機であれ、無駄にするべきではありません」