
ジュネーブ:赤十字国際委員会(ICRC)総裁は19日、同組織の中立性を主張し、批判によってイスラエル・ハマス戦争での活動が難しくなっていると述べた。
スイスに拠点を置くICRCは、紛争における交戦国間の中立的な仲裁、戦争捕虜に対する訪問・支援を行う目的で160年前に創設された。ICRCは今回の紛争で、両陣営から人質や囚人の解放支援を十分に行っていないと批難を受けている。
「ガザとイスラエルに関して我々が受けている圧力は、1年前のウクライナとロシアの時よりも遥かに大きなものとなっています」ジュネーブで行われた円卓会議に出席したICRCのミリアナ・スポリアリッチ総裁は、記者団に対しそう語った。
だがスポリアリッチ氏は、中立性を放棄し「公的な批判を行えば、我々の存在意義が失われてしまう」と述べた。
スポリアリッチ氏は12月上旬にガザ地区を訪問し、先週はイスラエルと占領下にあるヨルダン川西岸地区を訪問した。今回はそうした一連の訪問を終えての会見となった。
スポリアリッチ氏と会談したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、Xで公開した動画でスポリアリッチ氏に対し、「ハマスに対して公的に圧力をかける」よう求めた。
「公的な批判は効果が実証されている手段ではありません」スポリアリッチ氏はそう述べ、「それを実行すれば、我々は常に多くの批判を受けることになるでしょう」と続けた。
「高度なメディア化とソーシャルメディア活動の影響、そこに人工知能(AI)が組み合わさることで、批判が大きな問題になっているだけでなく、現場職員の安全も脅かしています」スポリアリッチ氏はそう述べた。
スポリアリッチ氏は、先日スーダンの首都ハルツームでICRCの人道支援部隊が攻撃を受け、死者を出した件について語った。この活動の目的は、保護のない100人以上の民間人の避難だった。
「スーダンで起きたことはガザで起きたこととは無関係です。一面的な文脈で、中立性を一度あるいは少しだけ放棄するということはできません」
「中立性なしには我々は活動できません。強い信頼がなければ、我々の成功はありません」
ICRCのスポリアリッチ総裁によるガザ地区訪問は、極めて凄惨なガザ戦争勃発を受けてのものである。この戦争は、10月7日にパレスチナの過激派組織ハマスが前代未聞の攻撃を実行したことが発端となって始まった。
イスラエル発表の最新統計によると、ハマスの攻撃による犠牲者の大半は民間人で、約1140人が死亡、約250人が拉致された。
ハマスが運営するガザ地区保健省によると、イスラエルの猛烈な軍事報復による犠牲者の大半は女性および子どもで、その数は1万9660人に上っている。
11月末の一時停戦で人質約100人が解放され、そのうち数十人はICRCの車両で移送された。
だがICRCに対して解放された多数の人質を移送したことに対して称賛の声が送られることはなく、ソーシャルメディア上では「美化されたタクシーサービス」、「Uber」などと激しい批難を受けている。
スポリアリッチ氏はこうした比較を「受け入れがたく、言語道断だ」と述べた。
スポリアリッチ氏は、さらなる人質およびパレスチナの囚人解放がドーハで再開されており、ICRCは交渉には関与せず、中立の仲介役として交渉の円滑な進行を支援していると述べた。
「私自身を含めた我々のハマスとの対話はほぼ毎日行われており、内容は非常に具体的で直接的なものとなっています。これはイスラエル当局との対話でも同じです」
さらにスポリアリッチ氏は、援助国からの支援にもかかわらずICRCは「流動性危機」に瀕しており、人材配置のレベルから厳しく見直しが必要な状況にあると警告した。
「流動性危機は援助の減少ではなく、需要の増加が原因です。なぜならICRCの事業モデルは、危機が起きた際に即刻現地に向かうというものだからです」
AFP