Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter
  • Home
  • 中東
  • ガザ地区でのハマスとの戦争における方針を巡って、イスラエル政府高官の間に不協和音

ガザ地区でのハマスとの戦争における方針を巡って、イスラエル政府高官の間に不協和音

武装組織ハマスによる2023年10月7日の惨酷な襲撃で拉致された人質の即時解放を訴える抗議活動で、人質たちの近親者たちと支持者たちが道路を封鎖した。イスラエル、テルアビブ。2024年1月18日。(ロイター通信)
武装組織ハマスによる2023年10月7日の惨酷な襲撃で拉致された人質の即時解放を訴える抗議活動で、人質たちの近親者たちと支持者たちが道路を封鎖した。イスラエル、テルアビブ。2024年1月18日。(ロイター通信)
Short Url:
21 Jan 2024 05:01:54 GMT9
21 Jan 2024 05:01:54 GMT9
  • イスラエル国防軍の元参謀総長であるガディ・エイゼンコット立法府議員が、ガザ地区で武装組織ハマスに拘束されている人質の解放には停戦以外に方法が無く、現在が交渉の時だと述べた
  • エイゼンコット議員は、イスラエル軍がハマスに対して決定的な打撃を与えたとの見方を否定した

エルサレム:ベンヤミン・ネタニヤフ首相が米国の攻撃規模縮小の要請を拒否する一方、イスラエル戦時内閣のメンバーの一人が、ハマスに拘束されている人質の解放には停戦以外に方策が無いと述べ、イスラエルの戦略に疑義を呈した。

イスラエル国防軍(IDF)の元参謀総長であるガディ・エイゼンコット立法府議員のコメントは、現在4ヶ月目に入ったハマスとの戦争の方向性を巡ってイスラエル高官の間で生じている見解の不一致の最新の形跡である。

エイゼンコット議員は、戦争経過について初めて公式声明を発表し、停戦以外の方策で数十人に及ぶ人質を解放できるとの主張は「幻想」の流布に相当すると述べた。これは、5人から成る戦時内閣を率い、戦争継続によって人質が解放されると主張するベンヤミン・ネタニヤフ首相に対する暗黙の批判である。

エイゼンコット議員の声明は、人質たちの近親者の一部が抗議活動を激化させている中で発表された。こうした抗議活動は、解放へ向けて状況を好転させられない政府への不満の高まりの表れである。

2022年10月7日の野外音楽祭「トライブ・オブ・ノヴァ」で武装組織ハマスに拉致されて以来ガザ地区で拘束されているイダン氏を息子に持つエリ・シュティヴィ氏は、1月19日の夜、地中海沿岸の町カイザリアのネタニヤフ首相の私邸前でハンガーストライキを開始した。シュティヴィ氏は、首相が面会の要請に応じるまでは、毎日摂取する食物を(人質が与えられる一日の食物の量と報じられている)ピタ4分の1切れだけにすると宣言した。数十人がシュティヴィ氏に呼応して夜を徹しての抗議活動に参集したと主催者は語った。

その前日には、ライフルを装備したイスラエル警察が、テルアビブの主要幹線道路を封鎖して人質解放の即時合意を要求した抗議活動参加者たちと乱闘になった。イスラエルのメディアによると、警察は7人を一晩拘束したという。

他方、ガザ地区では、開戦以来最長のほぼ8日間に及ぶ停電の後、通信が徐々に復旧し始めている。電話やインターネットが使用不能となっていたことで、ガザ地区の人々はガザ地区内や外界とのコミュニケーションがほとんど出来ず、イスラエルによる空爆が継続する中、人道支援物資の輸送や救助活動に支障が出ていた。

ガザ地区で進行中のIDFの地上作戦中にガザ北部で戦死した自身の息子のガル・メイア・エイゼンコット氏(享年25歳)の葬儀で、イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領に慰められるイスラエルの閣僚で元IDF元参謀総長のガディ・エイゼンコット氏。イスラエル、ヘルズリヤ。2023年12月8日。(ロイター / 資料写真)

ガザ地区の住民たちは、最近1週間、携帯電話の電波を受信しようと苦闘してきた。海岸に赴き何とかパレスチナ以外のネットワークに接続出来たという人々も多かった。イスラエルの空爆で家屋が破壊される中、地中海沿いの狭小な範囲とはいえガザ地区全域の各所に離散している家族も多く、近親者や親戚の安否の確認のためには通信ネットワークは不可欠なのである。

「私の後ろの人たちは、友人たちや家族、愛する人々の安否確認を求めてここに来ました」と、カラム・メズレさんは、ガザ中央部の海岸で岩の上に共に座り、携帯電話で電波を拾おうとしている他の人たちについて語った。

ガザ市から退避して来たハムザ・アルバラシさんは、通信が復旧したといっても、「断続的で安定していない」と語った。

イスラエルの攻撃による日々の死者数や破壊に関する情報のガザ地区外への発信も、停電のおかげで、困難になってしまった。2023年10月7日に前例の無い襲撃を受けたイスラエルはハマス鎮圧を誓い、イスラエルの攻撃は約230万人が居住するガザ地区の大部分を壊滅させた。ハマスの襲撃では、民間人を中心に約1,200人が死亡し、250人が拉致され人質となった。イスラエルは依然として130人以上の人質がガザに残されていると発表したが、全員が生存しているとは考えられていない。

ガザ地区の保健当局によると、最近の歴史の中で最も死者数が多く破壊的な軍事作戦の1つとなっているイスラエルの攻撃によって、25,000人近くのパレスチナ人が死亡し、ガザ地区の人口の80%以上が自宅からの退避を余儀なくされたという。

イスラエルは、また、包囲下のガザ地区への食料や水、燃料などの物資補給をほんの僅かの例外を除いてすべて遮断している。国連職員たちによると、それが人道的災害を引き起こしているという。 

イスラエルと最も緊密な同盟関係にある米国は、この作戦に強力な軍事的および政治的支援を提供したものの、最近は、イスラエルに対して、攻撃を縮小し、戦後のパレスチナ国家樹立に向けた対策を取ることを,増々強く要請するようになってきた。ネタニヤフ首相は、この提案を完全に拒絶している。

ネタニヤフ首相は、1月18日に全国中継された記者会見で、イスラエルが「ヨルダン川以西の全域の治安を維持管理する必要があります」と述べ、二国家解決に反対という自身の長年の考えを改めて示した。

ジョー・バイデン米大統領とネタニヤフ首相は、1月19日、電話会談を行った。戦争終結後のガザ地区についてのビジョンが根本的に相違している両首脳の直接的な意思疎通は、それまで4週間近く途絶えていた。

バイデン米大統領は、1月19日のネタニヤフ首相との電話会談で、パレスチナ人による国家樹立に向けた動きを支援する事に注力する意思を再度表明した。

ネタニヤフ首相、そしてヨアフ・ガラント国防相も、ハマスを制圧するまで戦闘は継続すると述べ、軍事行動によってのみ人質の解放を実現する事が可能だと主張した。

しかし、武力攻勢の進捗スピードが遅いことや国連の国際法廷で提起されている大量虐殺の告発を含む国際的な非難の高まりを鑑みた場合にネタニヤフ首相の目標が現実的か否かについて、評論家たちは疑念を持ち始めている。評論家たちは、ネタニヤフ首相が政府の失敗に対する迫り来る調査を回避し、連立政権を維持し、選挙を先延ばしにしようとしていると同首相を非難するようになった。世論調査の示すところでは、汚職容疑で裁判中のネタニヤフ首相の人気は、この戦争中に急落した。

エイゼンコット立法府議員は、イスラエルのテレビ局チャンネル12の調査番組「Uvda」の取材に対して、イスラエル人の人質は「戦闘の大幅な一時停止につながる合意が成立した場合にのみ生還するでしょう」と述べた。エイゼンコット議員は、人質は明らかに分散して拘束されており、拘束場所の多くは地下トンネル内であるため、劇的な救出作戦が実行される可能性は低いと語った。

2023年12月にガザ地区内での戦闘で息子が殺害されたエイゼンコット議員は、合意以外の手段でも人質解放は可能だと主張することは、「幻想の流布です」と語った。

ガラント国防相は、IDFがガザ地区北部のハマスの指揮系統を無力化し、1月第3週初めにはIDFの相当数の部隊がガザ地区北部から撤退し、現在の戦略的焦点はガザ地区の南半分に置かれていると述べた。

しかし、また、エイゼンコット議員は、IDFがハマスに対して決定的な打撃を既に与えたという見解も否定した。

「イスラエルは依然として戦略的成果を上げていない、若しくは部分的な成果しか上げていません」と、エイゼンコット議員は語った。「我々はハマスを打ち倒すまでには至っていません」

武装組織ハマスは、ガザ地区全域で最も荒廃した地域ですらも反撃を続け、イスラエルに向けてロケット弾を発射している。

エイゼンコット議員は、インタビューの中で、この戦争の初期に、レバノンの民兵組織ヒズボラに対する先制攻撃が開始間際で中止に至ったことも認めた。エイゼンコット議員は、10月11日の閣議でそうした攻撃に反対した1人だったが、叫び過ぎて声が嗄れてしまったと語った。

ヒズボラへの攻撃は「戦略的な過ち」であり、地域戦争を引き起こすことになった可能性が高いとエイゼンコット議員は述べた。

エイゼンコット議員は、また、戦争の方向性についての戦略的決定を早急に下すことが必要で、開戦後即座に最終局面についての議論を開始すべきだったと、ネタニヤフ首相への事実上の批判を口にした。

エイゼンコット議員は、ネタニヤフ首相やガラント国防相、ベニー・ガンツ元国防相、タニヤフ政権の戦略問題担当相のロン・ダーマ―氏たちが名を連ねる戦時内閣に留まるべきかどうかを日々検討していると語った。エイゼンコット議員は、ガンツ元国防相が率いる野党「国家統一」所属の立法府議員である。

エイゼンコット議員は、どのような状況となったら辞任するのかとの質問に、「自分が越えてはならない一線は把握しています」と返答した。「それは、人質と関連しています。人質の解放がこの戦争の目的の1つですが、自分が越えてはならない一線はこの戦争をどのように進めて行くのかにも関わっているのです」

この戦争は、中東全域に波及し、イランの支援を受けた武装組織が米国やイスラエルの標的を攻撃している。レバノンにおけるイスラエルと民兵組織ヒズボラの戦闘は全面戦争へと発展する危険がある。また、イランの支援を受けたイエメンの反政府組織フーシ派は、米国主導の空爆を受けているにも関わらず、国際海運を標的とした攻撃を継続している。

米当局者が匿名を条件に進行中の軍事作戦を語ったとろころによると、反政府組織フーシ派に対して米国は1月19日に6回目の攻撃を実施し、発射準備が完了していた対艦ミサイル発射装置を破壊した。ジョー・バイデン米大統領は、重要性の高い紅海航路の船舶への攻撃は、フーシ派への空爆では依然として阻止出来ていないことを認めた。

AP

特に人気
オススメ

return to top