
ガザ地区ラファ:イブラヒム・ハスーナさんは、破壊された家のがれきの上を重い足取りで歩きながら、家族が日々の瞬間を過ごしてきた場所を指差した。母親と義理の姉が寝ていた場所、5歳の姪と遊んだ場所、1歳の甥が初めて歩いたとき助けてあげた場所。
ハスーナさんの家族は全員亡くなった。両親、2人の兄、兄嫁のうち1人とその3人の子どもたちだ。激しい空爆で家はがれきと化し、家族たちはその下敷きとなった。12日の夜明け前にイスラエルの戦闘機がラファ全域に実施したこの空爆は、軍の部隊を援護するためのものだった。この部隊は、ガザ南部の国境沿いにあるラファの別の場所で人質2人を救出する作戦を遂行していた。
この空爆で、少なくとも74人のパレスチナ人が死亡し、広範囲に広がる建物やテントが完全に破壊された。こうした建物にはガザ全域からラファに逃れてきた家族が避難していた。
パレスチナ人権センターの研究員がラファの病院から集めたリストによると、死者の中には27人の子どもと22人の女性が含まれていた。イスラエルの攻撃は多くの女性や子どもたちの人命を奪っている。ガザ地区保健省の12日の発表によれば、パレスチナの子どもや10代の若者が1万2300人以上今回の紛争で亡くなっているという。
30歳のイブラヒムさんと両親、兄弟たちは1ヶ月前にラファに到着した。ガザ北部の自宅から避難した後、戦闘から逃れるために何度も引っ越しを繰り返した末のことだった。一家はラファの東側にある平屋の小さな家を借りた。
「あの子たちとは仲が良かったんです」。兄のカラムさんの子どもたちについてイブラヒムさんはそう語った。家の中では、戦争から気をそらすためにトランプやかくれんぼで子どもたちと遊んでいたのだという。双子の女の子のスザンさんとセドラさんは「幼稚園に行けるの?」、「故郷の幼稚園の先生は生きているのか死んでいるのか」とよく尋ねていたという。
空爆が起きたのは家族が喜びを分かち合っているときだった。一家は鶏を3羽手に入れたばかりだったのだ。戦争が始まって4ヵ月以上経ってから初めて食べる鶏だった。
「子どもたちは大喜びでした」とイブラヒムさんは言う。一家は缶詰にうんざりしていた。缶詰がイスラエルの包囲下で一家が手に入れられる主な食料だったのだ。イスラエルはガザへの人道支援を少しずつしか認めていない。
一家は11日の夜にチキンを食べる予定だった。しかし、イブラヒムさんはラファとは反対方向に住む友人を昼間訪ね、その友人が泊まっていくよう勧めたのだ。イブラヒムさんが家に電話すると、彼も一緒に食べられるように一家は大切な食事を延期することに決めたのだった。イブラヒムさんの母スザンさんは鶏を隣の家の冷蔵庫に入れた。
12日午前2時過ぎ、一家が住む近所で空爆があったという電話が友人たちからかかってくるようになった。家族とは電話では連絡が取れず、歩いたりバイクに乗せてもらったりして家に帰り着いた。イブラヒムさんは無惨に破壊された現場を目の当たりにしたという。
彼が最初に見たのは、通りから隣のモスクのドアに投げ飛ばされた女性の腕だった。それは母親の腕だった。彼はがれきを掘り起こして人体の一部を引き抜いた。
その後、アブ・ユセフ・アル・ナジャール病院を訪れて、エンジニアだった父親のファウジさんと母親の遺体の身元確認をした。弟のモハメッドさんの遺体には頭部がなかったが、身につけている衣服には見覚えがあった。
病院の職員が持ってきてくれた袋の中には、兄のカラムさん一家の遺体の一部が入っていた。イブラヒムさんによれば、姪のスザンさんの遺体の一部を見て身元を確認できたのはイヤリングとブレスレットがあったからだという。姉妹はいつもこのアクセサリーを巡って喧嘩をしていた。
イブラヒムさんは13日、がれきと化した自宅の周りを歩きながらAP通信の取材に答えた。彼は子どもたちが騒ぐ声で朝に目が覚めることがあったが「自分にはそれが心地よかったんです」と振り返った。
彼はがれきの一部を指差した。彼はこう語る。そこで甥のマレックと一緒に座って「日向ぼっこをしたり、ちょっと歩かせたりしていましたね。少し歩いてくれるだけで生命の喜びを感じるんです」
イスラエルによれば、この砲撃は、イスラエル人の人質2人をアパートから救出してガザから脱出する部隊を援護するためのものだという。ラファにある特定の場所が砲撃の標的になった理由について軍はコメントしていないが、イスラエル当局は、ハマスが住宅地の中心で活動したことが原因で民間人に犠牲者が出たとしてハマスを非難している。
この急襲作戦で多くの死者が出たことによって不安が高まっている。イスラエルはハマス壊滅作戦でラファを攻撃すると宣言したが、これを最後まで遂行した場合何が起きるのだろうという不安だ。数十万人が避難したため、現在ラファとその周辺には、ガザ地区の全人口230万人のうち半分以上が住んでいる。
ガザ地区保健省によれば、イスラエルがガザで遂行した作戦によって、すでに2万8000人以上のパレスチナ人が死亡し、その70%以上が女性と子どもだという。この数字は民間人と戦闘員を区別していない。
武装勢力が民間人を中心に約1200人を殺害した10月7日のイスラエル攻撃後、イスラエルは、ガザからハマスをせん滅し、依然ハマスの手にある100人以上の人質を必ず取り返すと宣言してきた。
AP