
レベッカ・アン・プロクター
ドバイ:火曜日の夜、首都の大部分を破壊した爆発から数時間の内に、重傷を負った人々がベイルートのクレメンソー・メディカルセンターに続々と運ばれて来ていた。
粉々になったガラスと室内の落下物で、アパートの中でケガをした人もいたし、エレベーターに乗っていたり、階段を上っていたりした途中で爆発に遭い、重傷を負った人もいた。さらには、路上にいたところで、石積みレンガやがれきが落下してきて流血した人もいる。
水曜日の遅くまでに、ベイルート港での爆発で負傷した人の数は5,000人に達し、死者数は135人を超えた。
「あちこち血まみれだった」とクレマンソー・メディカルセンターの心臓専門医であるワリド・アラミ医師は、非番の看護師と医師全員に直ちに出勤するよう依頼しながら、その晩の病院での出来事を回想してベイルートのアラブニュースに語った。
彼は、多数の患者、その多くは子供たちが、ガラスの破片によって目をケガして、それによる視力の喪失に苦しんでいると述べた。
「私は58歳で、2006年のレバノン侵攻では内戦も経験し、患者の治療もした。そんな私でも、今回のような情景は見たことがない」とアラミは言った。「これほど広範囲の破壊を引き起こした爆発は経験したことがない」
彼は更に次のように述べている:「2006年のイスラエルとの戦争以来、今回のような悲惨な状況に直面することが無かったが、それを考えれば、我々はこの危機にうまく対応できている。非常に短い時間で多くの死傷者に対処出来ている」
爆発は、レバノンの医療システムにとって最悪と言っていいタイミングで起きている。レバノンの医療は現在、同国の経済崩壊、電力不足、そして新型コロナウイルス感染症の第2波のために、何ヶ月もの間苦境にある。
レバノンは、パンデミックが「危険な反転の兆候」を見せていると保健相が警告後の7月30日に、2週間の都市封鎖を始めている。しかしこの火曜日、ベイルートの病院は全く予期していなかった健康上の緊急事態に直面している。
この突然の状況で対応の前線に立つこととなったのは、ベイルート・アメリカン大学医療センターの外科医であるラムジ・アラミ医師だった。
「ベイルートのほとんどの病院のように、我々は昨晩てんてこ舞いだった」と彼はアラブニュースに語っている。「押し寄せる患者全員に対応できず、多くの人々に帰ってもらうしかなく、スタッフ一同にとってそれは本当に忸怩たる思いをさせられました。我々は廊下を開放して、とにかく重傷者はいつでも運び込めるようにしました」
「我々が昨晩していたことを説明する術が見つかりません。我々は廊下や床の上など、あらゆる場所で患者を治療していました。早い段階で停電があったため、暗闇の中でも患者の治療を続けました。我々が何を経験し、何を見たのかは簡単に言い表せません」
彼は、最も深刻なケースでは脳損傷をはじめ、頭部の損傷があったと述べる。
「爆発の強さのために、人々は様々な位置から投げ出され、空中に放り出され、また壁に投げつけられたりしました。患者には多くの裂傷、切り傷、粉々になったガラスによる出血が見られました」
医療センターでは、55件の重症者を一晩で処置しました。重傷でない人々は、近くの小規模な病院、その他に送られました。
爆発によりベイルートの一部の病院には電力が届かなくなり、損傷した発電機を稼働させることもできない状態に置かれました。
ビブロスに本拠を置くサミール・チャリータ医師は、患者が30キロ離れたベイルートから来院し始めた頃には、病院の受け入れ能力も不足気味であったと当時の様子を語った。
レバノンは助けが必要な時に見捨てられていたわけでは無い。湾岸協力会議(GCC)諸国からの援助を運ぶ飛行機はラフィックハリリ空港に着陸した。 EUは、約100人の消防士とその他の捜索救助支援を送ると述べている。
ドナルド・トランプ大統領は、米国は「レバノンを支援する準備ができている」と語り、レバノンと正確にはまだ戦争状態にあるイスラエルは、「人道的および医療的援助」で隣国を支援すると述べた。
また、多くのレバノン人は、災害の責任者である政治家や官僚は、責任に直面すべきだと述べている。
「破壊の規模は、ベイルートの悲しい歴史の中でも前例のない程である」と元経済貿易相で、ナセル・サイディ&アソシエイツの創設者、ナセル・サイディは、ベイルートでアラブニュースに語った。
「地球規模では、これは広島と長崎に次ぐ規模の強力な爆発であり、ハリファックス(1917)や2,300トンの硝酸アンモニウムが爆発したテキサスシティ(1947)の爆発事故よりも壊滅的なものだった」と彼は説明する。
「その結果として生じた人命の損失と居住者の負傷は深い怒りを生み出している。硝酸アンモニウムは、2014年からベイルート港で保管されており、明らかに危険な状態が放置されていた。これは起こるべきして起きた災害である」
「これは、港湾、税関、治安当局、司法当局および政府を管轄する当局および官僚による犯罪的怠慢の事例である。警告はされていたが、無視されていた。正義と説明責任がなければならない」
サイディは、爆発が経済、銀行、金融のメルトダウン、通貨の下落、インフレの高まりを深めると警告した。港の破壊は、レバノンの食品、医薬品、そして必需品の輸入に打撃を与えるのは必須である。
「人道的ニーズに対処するだけでなく、政治改革を推進するために国際援助が必要である」と彼は述べた。「ディアブ政府は過去の悪い統治の蓄積を非難し続けることはできない」