ベイルート:レバノンの指導者層はフランスのエマニュエル・マクロン大統領に対して来週中の新政権発足を約束しているがその実現は困難な状況にあり、同盟関係にあるヒズボラへの米国による制裁がその過程をより複雑化させている、とレバノンの政治関係者は語った。
新政権の発足に遅れが生じれば、1975年から90年にかけての内戦以来の深刻な危機にあるレバノンに改革をもたらし、腐敗のない国家の実現を目指すフランスによるイニシアチブへの打撃となる。
フランスからの圧力を受け、なかなか意見のまとまらなかったレバノンの政治家らによって8月31日に指名を受けて首相に就任したムスタファ・アディブ氏は、フランスのロードマップにおいて示された改革に着手するため、2週間以内の内閣発足に取り組んできた。
複数の情報源によると、今後数日以内の政府発足の可能性はあるという。金融危機と、8月4日にベイルートで起きた壊滅的な港での爆発事故の余波に晒されているレバノンにとって、その重要性はこれ以上ないほど高まっている。
この取り組みはただでさえ困難なものだったが、シーア派の議長を務めるナビ・ベリ氏の上級顧問とキリスト教派の政治家に対する米国の制裁により状況はより一層複雑化したと、この問題に詳しい3名の政治関係者らは述べた。
レバノンの新政府発足においては、キリスト教派とイスラム教派のポートフォリオの分配を巡る交渉により、通常であれば数カ月もの時間を要する。
米国による新たな制裁の対象となったのは、元財務大臣でベリ氏の顧問を務めるアリ・ハッサン・カリル氏と、元公共事業大臣で、キリスト教の政治家であるユスフ・フィニャヌス氏だ。
米国政府は、レバノンに改革を求めるという点においてはフランスと目標を共有しているが、イランの支援を受ける重武装のシーア派組織ヒズボラに対する政策ではフランス政府と異なる立場にあると述べている。米国政府はヒズボラをテロ組織とみなしている一方、フランス政府は選挙によって選ばれたシステムの一部と見ている。
一部の論者は、今回の米国による制裁、そして今後さらなる制裁が行われる可能性があるという脅威により政府の発足が促され、ミシェル・アウン大統領が創設したキリスト教派の「自由愛国運動」をはじめとするヒズボラの同盟組織はより協力的な姿勢を見せるだろうと論じている。
しかしレバノンの異なる党派の3名の情報源によると、カリル氏への今回の制裁にショックを受けたベリ氏は、カリル氏を初めて指名した2014年以来財務大臣の指名権を握っており、次の財務大臣の指名に関する態度を硬化させたという。
「お決まりの反応」
これにより、同省をはじめとする各省庁において支援者からの改革を望まれているアディブ首相にとって、それぞれのリーダーシップを変革するという目標の実現はより困難なものとなった。そう述べたのは今回の情報源の1人だが、政治的に繊細な話題であるという理由から、今回は全員が匿名を条件に取材に応じた。
これら複数の省庁は長年に渡って同じ党派の管理下にあり、ベリ氏が次の財務大臣を指名することになった場合、彼らはその権利を手放すことを拒むだろう。
「米国の制裁によって間違いなく事態は複雑化しました」シーア派外の情報源はそう述べた。
「制裁の少し前まではすべてが前向きな状況で、シーア派が政府発足を円滑に進めようと動いていました。しかし制裁が行われた途端に、このお決まりの反応です」同情報源はそう述べた。
現時点での問いは、ベリ氏とヒズボラがフランスのイニシアチブを支持し、レバノンの危機の深刻化を止めるために譲歩するかどうかである。同情報源は、今後の48時間でそのことが明らかになるはずだと述べた。
ロイター通信