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エルドアン氏率いるやっかいな国トルコ NATO同盟国なのになぜ

青き故地政策は、島嶼沿岸について国際社会が認める諸権利を無視し、またエーゲ海および地中海の広大な範囲に所有権を主張するトルコの姿を思い描いている。(Getty Images/資料写真)
青き故地政策は、島嶼沿岸について国際社会が認める諸権利を無視し、またエーゲ海および地中海の広大な範囲に所有権を主張するトルコの姿を思い描いている。(Getty Images/資料写真)
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25 Sep 2020 01:09:58 GMT9
25 Sep 2020 01:09:58 GMT9
  • トルコはいまや、NATO「同盟国」の利益と一致点のない、予測不可能で危険な勢力と目されている
  • 東地中海に広がる豊かな天然ガス鉱床 トルコの急進的な新海軍政策のねらいはまさにそこだとみられる

デイヴィッド・ロマーノ

【ミズーリ】トルコでは海軍の新政策を反映させた「青き故地」なる文言がいま広く用いられている。

青き故地政策は、トルコ海軍の退役少将ジェム・ギュルデニズ(Cem Gürdeniz)氏が発展させた。そこでは島嶼沿岸について国際社会が認める諸権利を無視し、またエーゲ海および地中海の広大な範囲に独占権を主張するトルコの姿が思い描かれている。

トルコによる新領海政策が実行されれば、ギリシャ系キプロス人が得るものはゼロ、エーゲ海に浮かぶギリシャの島々のほとんども対象となるはずだ。

東地中海で新たに発見された豊かな天然ガス鉱床は、トルコ政府による海軍新政策の中軸である可能性がある。結果としてトルコはギリシャ、キプロス、エジプト、イスラエルと対峙することとなる。

トルコが砲艦外交の危険な舞踏に興じつつ紛争海域で航行中のガス探査船のすぐ近くで海軍演習を実施していることを受け、フランスはギリシャなどの国を支援するため地中海へ軍艦数隻を派遣している。

むろんフランスもギリシャも同じNATO(北大西洋条約機構)同盟国ではある。しかし、地中海の領海線をめぐりこの二国とトルコとが続けざまにつばぜり合いを繰り返す上で、そのことはなんら妨げとなっていない。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はフランスに対し、「トルコに干渉するな」と警告を発した。かたやフランスのエマニュエル・マクロン大統領のほうは、トルコは「行動ばかりを重視し、言葉を重んじない」と語り、「トルコが越えてはならぬ一線を定めたところだ」としている。

トルコとNATO加盟の諸国との間の関係がいつもこれほど険悪だったわけではない。トルコが1952年にNATO加盟を認められてから50年の間、トルコは同盟の中軸的役割、模範的役割を果たした。

旧ソ連のグルジア(現ジョージア)やアルメニアと国境を接し黒海へと抜けるボスポラス海峡を支配下に置くトルコは同盟に対して比類なき便益を供与していたし、またNATO加盟国第2の陸軍も提供していた。

2002年以降エルドアン氏が実権を握ったトルコがNATOにおよぼした問題の数々は長大かつ複雑なリストとなっている。(AFP)

見返りにトルコは対ロシアでNATOの庇護を受けていた。ロシアは19世紀以来トルコ最大の外的脅威であった。また、最高クラスのNATOの軍装品や軍事的知見も得ていた。

その間一貫して世俗主義を通したトルコはNATOのため多大な犠牲も払った。NATO軍の重要なレーダー基地はトルコ東部のキュレジク(Kürecik)にあるし、NATO軍・トルコ軍共有のきわめて重要な空軍基地は同国のコニヤ(Konya)およびインジルリク(İncirlik)に所在している。

トルコが部隊を派遣した戦争というと、1950年代前半の朝鮮戦争、1991年の湾岸戦争、1990年代にかけてバルカン半島で展開されたNATO軍による諸作戦、さらにはアフガニスタンでターリバーン(タリバン)を相手に戦われた2002年の戦争もそうだ。

湾岸戦争のときにはトルコは経済的に莫大な損失を被りつつNATO同盟国に協力している。

イラクはトルコにとっては主要な貿易相手国であり、石油輸入先としても大きい存在だった。にもかかわらず当時のトゥルグト・エザル(オザル)(Turgut Özal)首相は米国およびNATO諸国と足並みをそろえてサッダーム・フサイン(サダム・フセイン)政権への制裁に加わるとともに貿易もストップさせた。

トルコ軍の関係者らは1952年のトルコのNATO加盟以降、米士官学校での訓練を受けるとともに、ブリュッセルに駐在するNATO軍のカウンターパートとも緊密な職務関係を発展させた。

トルコがNATOに加盟してからの50年で唯一起こった正真正銘の突発事態はキプロスをめぐるものだった。これは1974年にトルコがキプロスに侵攻する形で幕を下ろした。この紛争ではトルコはNATO同盟国ギリシャとの間で戦争まで一歩手前の状態にいたった。

1974年に起きたキプロスの一件についてはしかし、咎はどちらかといえばギリシャ系のほうにある。当時は軍事クーデターにより民政を失ったばかりだった。ギリシャ政府内のナショナリストらは地中海の現状を覆す試みに余念がなかった。そのため、キプロスのギリシャ復帰運動(エノシス)や少数派トルコ系キプロス人への迫害の支援をおこなっていたのだ。

当時はNATO諸国にとってギリシャのほうが重荷として目立っていた。キプロス建国の独立協定の条項に違反するかと思えば、NATOにもさしたる貢献を果たしていなかった。

それを思うと、今日のありさまはことギリシャとトルコにおいては好対照だ。2003年以降トルコはNATO諸国にとってますます重荷となるばかりか危険な存在にもなりつつある。もはやこの一帯で領土回復を唱えるのはギリシャというよりはトルコなのだ。

2002年以降エルドアン氏が実権を握ったトルコがNATOにおよぼした問題の数々は長大かつ複雑なリストとなっている。(AFP)

かつてのトルコの外交政策は一路慎重を求めるものであり、軍事的冒険主義を地域でひけらかす真似も概して自重していた。がエルドアン政権になって以来、もはや様相は一変してしまっている。

目下トルコ軍はシリア北部の広大な領域を占領しているし、イラク北部では攻撃を常態化させている(イラク政府の抗議は問題としていない)。またリビアでは何万もの傭兵を指揮し、イエメンではムスリム同胞団系の政治家らに支援や助言をおこなっている。

エルドアン氏は数々の演説でローザンヌ条約(1923)とその策定による国境線について批判のボルテージを上げている。現在はイラク北部に位置するマウスィル(モスル)やエーゲ海の島々はトルコから盗み取られたものだ、というのだ。

最近ではほぼ国営メディア化しているトルコの各種メディアが頻繁に示しているトルコの版図では、ギリシャ領の島嶼群、キプロス全土、ギリシャ本土およびブルガリアの一部、シリア・イラク北部のほぼ全域がトルコ領となっている。

トルコとフランスは、地中海の希仏-トルコ紛争のほか、リビアやシリアでの内戦でも双方が異なる勢力を支援しあっている。NATO加盟国でトルコともめているのはフランスやギリシャだけではない。

米英仏はシリア国内でいわゆる「イスラム国」に対抗するクルド人勢力の支援をおこなっている。その一方でトルコは、シリア国内でイスラム国とその他イスラム過激派グループの支援をしているとして非難を浴びている。

トルコが2018年と2019年にシリア北部に侵攻したことはNATOの歓迎するところではなかった。また、イスラム国に対抗するクルド人勢力の攻撃を壊滅の間際に追い込んだ。

2002年以降、エルドアン氏が実権を握ったトルコがNATOにおよぼした問題の数々は長大かつ複雑なリストとなっている。トルコはシリアやリビアやイエメンその他でイスラム原理主義グループや過激派グループの支援をしているだけではない。国内にあるNATO軍と共有する空軍基地についても、イスラム国攻撃用にNATO軍が使用する許可については長年拒絶している。

EUがトルコに対し難民受け入れの費用を供与しない場合、何次にもわたり難民を欧州へと解放する、とエルドアン氏は繰り返し迫っている。これに加えEUがトルコのシリア侵攻の批判にまで踏み込むようなら、という条件すらも2度まで口にしたことがある。

トルコは地域を不安定化する予測不能で危険な勢力となりつつある。どうやら、トルコの考える利益とNATOの考える利益はもはやまるで一致点がないようなのだ。(AFP)

2016年にトルコでクーデター未遂事件が起きると、トルコ政府は複数の米国人がクーデター未遂に絡んだと非難、インジルリク基地の電源を断つまでの挙に出た。同基地は米軍が核弾頭数発の保守整備をおこなっている場所でもある。エルドアン政権はまた、イランが米制裁をすり抜ける手助けも何度もおこなってきている。

2015年にはシリアとの国境近くを飛行していたロシアの軍用機をトルコは撃墜している。このためNATOはロシアとの要らざる戦争に巻きこまれる瀬戸際に立たされた。ところがそのわずか数年後にはトルコはロシアとの関係修復をおこなうだけにとどまらず、ロシア製先進軍装品の購入にまでいたった。これには防空システムS-400もふくまれる。

ロシア製の装備と米新型F-35戦闘機を共用して運用するとなると米機の重大な脆弱性がさらされる危険もあることから(ロシア側がF-35の弱点を知ってしまうということを意味する)、F-35戦闘機計画から米側はやむなくトルコを除外することを余儀なくされた。

トルコがいかにやっかいな国になりはてたのか、その例はまだまだ枚挙にいとまがない。おそらく、権威主義体制への傾斜や、欧州や米国人、そうして西洋一般への軽侮の念をエルドアン氏が隠そうとしなくなったことなどもここに入るだろう。が、中核は、トルコが地域を不安定化する予測不可能で危険な勢力となっている、ということだ。どうやらトルコは、NATOの「同盟国」とは利益のまるで調和しない国となっているようなのだ。

1952年にNATO加盟を認められてから50年間、トルコは同盟の重要かつ模範的な役割を果たした。(AFP)

米当局は数年前にNATOにおけるトルコの立ち位置について公然と疑問を呈しはじめている。米下院新脅威小委員会のダナ・ローラバーカー委員長(共和党)は2016年に深刻な疑念を表している。「10年前ならトルコはゆるぎなきNATOの仲間であり、イスラム過激派に一貫して反対姿勢を取り、米国の友人であった。が、いまはそれらすべてが疑わしい。(中略)エルドアン氏は西洋に親和的で有力な地位にある者を国内から一掃している。同氏自身もそのイスラム思想をますます募らせており、われわれとしても深刻に憂慮すべき理由がそこにある」

実のところエルドアン氏とNATO諸国との間の不和は通り一遍の不和どころではない。NATOとともに米国やベルギーで訓練を受けたトルコ軍関係者のかなりの数は、2016年のクーデター未遂のときに国外にいた者が国内で罪をでっち上げられて逮捕されることを恐れほとんどが政治亡命を申し出ていたということもあり、トルコ政府の嫌疑を容れているという事情がある。

青き故地政策は、島嶼沿岸について国際社会が認める諸権利を無視し、またエーゲ海および地中海の広大な範囲に独占権を主張するトルコの姿を思い描いている。(AFP)

ロシアの拡張主義はひところのソ連のような脅威をもはや与えない、という目下の世界状況で、はたしてNATOにトルコは必要なのかが問われる新たな様相が呈されている。いまのようなトルコなら、西側の軍事同盟には受け入れがたい、というのはまず疑いあるまいところだ。しかしながら、敵意を募らせる一方のトルコを同盟の一員に抱えながら、NATOには加盟国追放のメカニズムが一切存在しない。これが問題だ。

特に米政府の頭の中は、NATOからトルコを追放したりすれば、トルコ政府にロシアへの傾斜やイスラム中心の傾向へますます拍車をかけさせるだけに終わるのではないか、といった考えであるらしく映る。

それよりもむしろ、NATOを利用してトルコとの関係を円滑にできないかとの思いが透ける。おりしも今週は、ブリュッセルのNATO本部がトルコとフランスの交渉の場となる。地中海でのいさかいについても議論される。

エルドアン氏とその政権はもはや米国やNATOにとっては重荷となってしまった。とはいえそれでも引き続き同盟に引き込んでおきたい仲間としてトルコは遇する。このような考えの正否については、やがて時が経てばわかるであろう。

  • デイヴィッド・ロマーノ氏は、ミズーリ州立大学で中東政治を教えるトマス・G・ストロング講座教授。
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