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シリア: 米国が支援する組織同士の戦闘はダーイシュとの戦いを弱体化

デリゾールからディバンの前線へと移動中にポーズを取るシリア民主軍(SDF)の戦闘員ら。シリア東部。(AFP)
デリゾールからディバンの前線へと移動中にポーズを取るシリア民主軍(SDF)の戦闘員ら。シリア東部。(AFP)
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06 Sep 2023 10:09:02 GMT9
06 Sep 2023 10:09:02 GMT9
  • 衝突にはシリア民主軍と、アラブ人主導の同盟派閥「デリゾール軍事評議会」が関与している
  • クルド人指導者らは、イラン系民兵組織やシリア政府が暴力を助長していると非難している

ベイルート:数百人の米兵が展開しているシリア東部において、米国が支援する民兵組織同士の衝突が1週間にわたって続いている。この衝突は、打倒されたダーイシュを何年も抑えてきた連合軍に危険な亀裂が生じていること示しており、ダーイシュに再浮上の機会を与えてしまう恐れがある。

今回の衝突はまた、この地域を支配するクルド人と、アラブ人を中心とする住民との間の緊張の高まりを示すものでもあり、シリアのバッシャール・アサド大統領とその同盟国であるロシアおよびイランに、石油資源が豊富な領土に進出して米軍の追放とシリア体制による支配の回復を試みるための機会を与えるものである。

シリア東部は世界、特に米国においてはほとんど注目されていない。しかし、2019年にダーイシュが打倒されて以降、この地域には人数不明の請負業者と共に約900人の米兵が駐留している。8年前に初めてこの地域に来た米軍は、クルド人戦闘員主体の民兵組織の統括組織であるシリア民主軍(SDF)と協力して活動している。

それと同時に、米国の支援を受けクルド人が主導する政権が、シリア北部の一部と、主要な油田を含むユーフラテス川以東のシリア領土の大半を統治している。川向こうの西岸には政府軍とイラン系民兵組織が陣取っている。この地域のアラブ人はSDFと政権の両方で役割を担っているが、クルド人による支配に対しては長年腹立たしく思ってきた。

今回の衝突にはシリア民主軍と、アラブ人主導の同盟派閥「デリゾール軍事評議会」が関与している。

きっかけは、SDFが8月27日に同評議会のアフマド・ハビール司令官(通称アブ・ハウラ)を拘束したことだ。SDFは、同司令官がが犯罪行為や汚職を行い、ダマスカスの政府やイラン系民兵組織と接触していると非難した。

SDFとハビール支持者らの間で戦闘が勃発した。その後、数百人のアラブ系部族民が後者に加勢したことで戦闘は拡大し、部族民らがデリゾール市外のいくつかの村を掌握した。少なくとも90人が死亡、数十人が負傷した。

クルド人指導者らは、イラン系民兵組織やシリア政府が暴力を助長していると非難している。SDFのファルハド・シャミ報道官はAP通信の取材に対し、地元のアラブ人戦闘員が衝突に参加していることを否定し、川を渡ったのはダマスカスの政府に忠実な戦闘員らだと述べた。

SDFの政治部門「シリア民主評議会」の代表であるイルハム・アハメド氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「イランとアサド政権は、この騒乱をアラブ人とクルド人の間の民族対立の結果として描き出そうとしている」として、彼らの最終目的は米軍を撤退させることだと述べた。

しかし、今回の衝突はクルド人による支配に対する地域のアラブ人の憤慨を反映していると警鐘を鳴らす人もいる。反体制派活動家らは、停戦に向けて部族指導者らと接触中だと述べた。

欧州を拠点とする活動家で、この地域のニュースを報道するメディア「デリゾール24」の代表を務めるオマール・アブ・レイラ氏は次のように語る。「これはSDFとデリゾール住民の間の前例のないエスカレーションだ」

「SDFが実施している政策の誤りと、米国の計算の間違いを示している」。ハビール司令官の後任を指名して、地域の評議会においてアラブ人にもっと影響力を与えることが解決策になるかもしれないと同氏は言う。

戦闘が長引けば、クルド人とアラブ人の間の亀裂が深まる恐れがある。ダーイシュの残党に再浮上を試みる機会を与えてしまう可能性もある。

米軍は戦闘停止を呼びかけ、「(ダーイシュとの戦いからの)逸脱は不安定な状況を作り出し、ダーイシュ復活のリスクを高める」と警告した。

この週末、SDF関係者、部族指導者、米軍関係者の間で話し合いの場が持たれた。米大使館の発表によると、米軍の対ダーイシュ作戦を監督する「生来の決意作戦」の司令官であるジョエル・ボーウェル少将も参加した。デリゾールの「住民の不満に対処することの重要性」、民間人の死の回避、できるだけ早い激化抑制の必要性などで一致したという。

この週末、SDFは攻勢を押し進め、2つの村を掌握し、ディバンにおけるアラブ部族の主要拠点を包囲した。SDFのマズルーム・アブディ総司令官は現地の通信社に対し、この攻勢の際に米軍主導の連合軍による上空からの支援を受けたと語ったが、AP通信が米軍に問い合わせたところ、同軍は肯定も否定もしなかった。

ダーイシュはかつてイラクとシリアの大部分を支配していたが、米国と、SDFを含むその同盟勢力が主導した長く過酷な戦争の末に打倒された。ダーイシュは2019年にシリア東部に僅かに残っていた最後の領土を失ったが、この地域に潜伏している残党が小規模な攻撃を続けており、この数年間で数十人を殺害している。

ニューラインズ研究所の上級研究員であるマイルズ・B・カギンズ3世氏は、今回の衝突は「ユーフラテス川流域に潜伏しているダーイシュの細胞に浮上の機会を与える」と指摘する。

今回の衝突はシリア体制とイランに、米軍の撤退という要求を推し進める機会を与える可能性もある。

親政府民兵組織「バキール旅団」のハレド・アル・ハッサン司令官はイランのメディアに対し、今回の戦闘は「米国による占領とその民兵組織に対するシリア人の新たな反乱である」と語った。

シリアのファイサル・ミクダード外相は最近イランを訪問した際、「米国の占領軍は撤退すべきだ(…)強制される前に」と警告した。

7月中旬には、数十人のアラブ系部族民や親政府組織「シリア国民防衛隊(NDF)」のメンバーがデリゾール県で集会を開き、ロシアの将軍も参加した。

あるNDF司令官はこの集会で、「米軍の終焉は、シリア軍を支援しているアラブの部族民たちの手にかかっている」と述べた。

3月には、イランとの関連が疑われるドローンが米軍基地を攻撃し、請負業者1人が死亡、別の請負業者1人と米兵5人が負傷した。米軍はこれを受け、イラン革命防衛隊の関連組織が使用する拠点を戦闘機で空爆した。ジョー・バイデン大統領は、米国は米兵を守るために「断固として」対応すると述べた。

ワシントンのシンクタンク「戦争研究所」が先月発表した報告書は、「イラン、ロシア、シリア体制は、米軍のシリア撤退において共通の利益を有する」と指摘している。

イランにとって極めて重要なのは、2017年にシリア軍とイラン系民兵組織がイラクとの国境沿いの地域をダーイシュから奪って以来、イランが自国と地中海をつなぐ回廊地帯を持つようになったことだ。

先週の衝突は、イランの見解を反映するレバノンとアラブのメディアが、米国は戦略的位置にある町ブーカマールを占領することでその回廊地帯を断ち切ろうとしていると主張した後に起こった。

連合軍の司令官を務めるマシュー・マクファーレン米少将は、その報道内容を否定した。「連合軍は、ダーイシュ以外の何者かを排除するための軍事作戦の準備は進めていない」

しかし、イランとその同盟勢力は、イラク・シリア国境を封鎖しようとするいかなる試みもレッドラインだと言っている。

シリアの政治アナリストで、政府の見解を反映したコメントをすることが多いバッサム・アブ・アブドゥラー氏は、「ダマスカスとバグダッドの間の門を閉ざす行為は宣戦布告と見なす」と述べた。

AFP

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