
エフレム・コサイフィ
ニューヨーク:中東和平を担当する、国連の特別調整官としての最後のブリーフィングで、ニコライ・ムラデノフ氏の言葉は、数十年にわたる闘争中に起きた大惨事をありありとまとめている。
ムラデノフ氏は21日、国連安全保障理事会に対し「イスラエル人とパレスチナ人、ユダヤ人とアラブ人は、あまりにも長い間葛藤を抱えて生きてきた」と述べた。「喪失と退去は全世帯の歴史の一部になっている」
パレスチナ人が直面している厳しい現実は最近、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の資金が8800万ドル不足しているという厳しい状況によって深刻化している。このことにより、同機関が医療や教育など、この地域の難民の命を救うサービスを停止しなければならなくなるのではないかという懸念が高まった。
ドナルド・トランプ米大統領が2018年に、トランプ政権は「我々がパレスチナ人に支払っていた莫大な金を止めた」と発表して以来、UNRWAは資金集めに奔走している。この措置は、過去70年間、共和党、民主党の全大統領が採用してきた方針を覆した。その方針の中心には、世界で最も弱い立場にある人々を助けるという米国の基本的価値感がある。
「この機関は、数百万人いるパレスチナ難民の頼みの綱であり、COVID-19との闘いに完全に没頭しているだけでなく、地域の安定にとっても重要だ」とムラデノフ氏は安全保障理事会に語った。
同氏はUNRWAへの適切な資金提供を改めて訴え、245万人のパレスチナ人(人口の約47%)が、生き延びるのにも援助を必要としているという驚くべき事実を強調した。資金は、パレスチナの50万人の子供たちの普通教育の費用に回されるほか、他に助けを求めて頼る所のない300万人以上の無国籍難民をケアするワクチン接種や診療所の費用にも回される。
サウジアラビア、UAE、カナダといった一部の援助国は、米国が削減した資金の一部を相殺するため、拠出金を増額して介入したが、UNRWAが、提供しているサービスを減らさなければならないというリスクを取り除くには十分ではなかった。
ムラデノフ氏のブリーフィングは、11月21日から12月10日までの発展について取り上げた。その間、暴力行為は続いていた。特に、パレスチナ人の子供たちがイスラエル治安部隊の手で殺される事件が続いていることを同氏は強調した。
「パレスチナ占領地区でここ1ヶ月で起きた特に厄介な一連の事件で、子供たちが犠牲になり続けていることにがく然としている」と同氏は述べた。「子供たちを暴力の標的にしたり、危険にさらしたりしてはならない」
同氏はイスラエルとパレスチナ双方の当局に対し、過大な軍事力の行使に関する全ての申し立てに対し、「厳正で迅速な」調査を行うよう要請した。同氏は「治安部隊は最大限の自制をしなければならず、命を守るためにどうしても避けられない場合にのみ殺傷力の高い武器を使用することができる」と繰り返した。
国連の監視機関と市民社会団体は2013年以降、パレスチナ人の子供たちが、実弾や群衆を抑えるための武器を使うイスラエル兵に殺された事件を155件記録した。刑事告発されたのは3件だけで、1件は後に取り下げられた。
ムラデノフ氏はまた、ハマスやパレスチナ・イスラム聖戦機構、その他の過激派組織に対し、「イスラエルの民間人居留区に向けた、ロケットと迫撃砲の無差別発射」をすぐにやめるよう求めた。
ガザの裁判所がパレスチナの法律に違反して死刑の判決を下し続けていることに対応し、ムラデノフ氏はハマスに対し、「直ちに死刑執行を猶予するよう命じ、民間人を裁くために軍事法廷を使うのをやめる」よう要請した。
同氏は「東エルサレムを含む、占領下にあるヨルダン川西岸地区での長期にわたる入植者関連の暴力行為」に関しても懸念を示した。同氏はイスラエル当局に対し、国際法を順守し、イスラエル人入植者による暴力からパレスチナ人を保護し、農業従事者が自由かつ安全に自分の土地に入れるようにするよう求めた。
ムラデノフ氏は、安保理決議第2334号の履行状況についても報告した。2016年12月に採択された同決議は、イスラエルの入植活動は国際法違反だとしており、そのような活動を終えるよう求めている。
イスラエル政府が、東エルサレムを含む、占領下にあるヨルダン川西岸地区で「長年凍結されてきた、物議を醸す和解案」を進めることは、依然として二国家解決を妨げる大きな障害の一つだ、と同氏は述べた。
「全ての入植活動の進展を直ちに止めなければならない」とムラデノフ氏は付け加えた。それは国連決議と国際法に「甚だしく違反」しているからだ。
同氏は、パレスチナの学校や、人道支援プロジェクトに使われる建物が差し押さえられたり破壊されたりし続けていることを「深く憂慮する」とも述べた。
「私はイスラエル当局に対し、パレスチナ人の建物を壊すこと、パレスチナ人を追放したり立ち退かせたりすることをやめるよう求める」と同氏は付け加えた。
ムラデノフ氏は平和を訴え、楽観的な調子で終わった。これは、(国連、米国、EU、ロシアから成る)中東カルテットと、イスラエルとパレスチナの指導者と「有意義な交渉の道に戻るために協力しなければならない」アラブのパートナーがうまく調停することができる達成可能な目標であり続ける、と同氏は述べた。
「世界はこの状況をほったらかしにすることはできない」と同氏は付け加え、二国家解決に関する国際的合意について繰り返し語った。「どの決議も二国家に基づくものでなければならず、暴力を通じたものではなく、当事者間の約束を必要とするものでなければならないという基礎を疑問視する者は国際社会にいない」と繰り返した。
双方は「持続可能な平和という目標を守るために、心の内を見なければならない」と同氏は述べた。
ムラデノフ氏は2015年2月に特別調整官に任命された。リビアを担当する新たな国連特使に任命され、1月に退任する。
ノルウェーのベテラン外交官Tor Wennesland氏がムラデノフ氏の後を引き継ぐ予定だ。ムラデノフ氏は自身の後継者を「これまで一緒に仕事をした中で最も有能な外交官の一人」と評した。