
エフレム・コサイフィ
ニューヨーク市:イエメンの和平交渉や人道的努力、生態系への懸念に不気味に立ちはだかる、迫り来る大惨事だ。
石油タンカー「セイファー」は、ラスイサの石油ターミナルの近く、イエメン沖の紅海で5年以上停泊したままになっている。
この船は、マーリブとラスイサを結ぶパイプラインから原油を積み込む船舶のための海上プラットフォームとして使われていた浮体式海洋石油貯蔵積出(FSO)設備だ。
イエメンの国営石油会社、Safer Exploration&Production Operation Companyが所有していたが、2015年、イエメン内戦の初期にフーシ派の手に渡った。それ以降、老朽化したタンカーの保守作業は行われていない。
サウジ外相ファイサル・ビン・ファルハーン王子が3月22日に、イエメンに平和をもたらす新たなイニシアチブを発表したとき、アラブニュースは王子に、この時限爆弾の対処法を尋ねた。
「紅海にかつてない規模の深刻な生態学的災害をもたらしえるこの石油タンカーを保全するために必要な国連の介入をフーシ派が妨害し続けている。我々は非常に懸念している」とファイサル王子は答えた。
#WATCH: #SaudiArabia's FM Prince @FaisalbinFarhan responds to question from @arabnews' @NoorNugali on Safer tanker #SaudiInitiativeForPeaceInYemen #Yemen https://t.co/lOuL6Hx21N pic.twitter.com/VbjyPdAMg8
— Arab News (@arabnews) March 22, 2021
「非常に心配なことだ。フーシ派が、環境と、何千人とまではいかなくても、何百人もの漁師の生活を取り引き材料として利用している、とても、とても残念だ」
「ついては、我々は国際社会に対し、この問題がフーシ派によって国際社会を脅迫する材料にされぬよう、直ちに全力を尽くしてこの状況に対応するよう求める」
FSO「セイファー」の構造物や設備、オペレーティングシステムは劣化しており、このタンカーには石油漏出や爆発、発火の危険性がある。
起こり得る石油流出は、4800万ガロンの石油が積まれているため、環境被害の観点から世界最悪の原油流出事故と懸念される、1989年にアラスカ沿岸で発生したエクソンバルディーズ号の惨事の4倍になるだろう、と国連は警告している。
国連によると、大量に流出すれば、160万人のイエメン人を含む約3000万人が依存している紅海の生態系が深刻な被害を受ける可能性がある、と専門家は推定している。
石油流出はイエメン西岸の漁場を完全に破壊し、漁業共同体の生活を破壊するだろう。漁業共同体の多くは既に、生き残るために人道援助に頼っている。火災が発生した場合、840万人以上が毒性汚染物質にさらされる可能性がある。
だが、国連が最も懸念すべきなのは、石油流出によってホデイダ港が閉鎖され、食品・燃料価格が急騰し、数百万のイエメン人への人道援助が届かなくなることだ。
そうなれば、イエメンは世界最悪の人為的な人道主義の危機に直面し、飢餓寸前になる。
起こり得る石油流出により、世界貿易の1割を占める、世界で最も通航量の多い水路の一つである、紅海の商業航路が通れなくなる可能性もある。サウジアラビア、ジブチ、エリトリアなどの沿岸国にも悪影響を及ぼす可能性がある。
2019年以降、国連は、このタンカーの状態の調査と最初の整備のための専門家チームの派遣を受け入れるよう働き掛けている。最初の調査団は2019年8月、ジブチに派遣されたが、フーシ派が突然同意を撤回したため、直前になって中止された。
その後も、国連とフーシ派の間で交渉が続けられている。2020年5月、セイファーの機関室に海水が入ったことが報告され、これらの協議の緊急性が高まった。
漏出は比較的小規模だったが、潜水作業員がそれを止めるのに5日以上掛かった。国連は、この時の修理跡が先どれだけ長く持ちこたえるか分からないと言っている。
アントニオ・グテレス国連事務総長と安全保障理事会はフーシ派に、調査や整備のために、このタンカーへの立ち入りを認めるよう嘆願している。
「ちょっとした、いたちごっこ(のような状況)だ」とステファン・ドゥジャリク国連事務総長報道官は言う。先月、フーシ派から「物流と安全面の取り決め」について新たな要請があり、また遅れることになった後だった。
「調査団の派遣を進められるよう、これらの協議が早く終わることを願っている」
「石油流出で起きる環境災害や、人道主義の危機は完全に回避できるのだ。我々は、この大惨事を避けるための重要な一歩として、調査団をできるだけ早く派遣するために、あらゆる手を尽くしている」
「このプロジェクトのにかかわる多くの加盟国が、このようにまた遅れていることを非常に懸念している。我々は無論、そうした懸念を共有している」
ドゥジャリク氏はフーシ派の要求に言及し、「要求内容に振り回される状況下でありながら、できる限り努力している」と述べた。
「神の御恵みにより、大きな漏出はなかった。ただ待てば待つほど、大規模な漏出が発生する可能性は高くなる。時間は味方をしてくれない」
「調査団は、恒久的な解決策を導き出すために必要な調査をしてくれるだろう。が、既に2年遅れており、これ以上行き詰まってはいられない」
「これは単に国連職員を一地域に派遣するという問題ではない。非常に特殊な技術的装置を調達しなければならず、民間部門の会社から、多くの実地経験があり、能力も意思もある人たちに、最初の調査に参加してもらわなければならない」
安保理による、平和への脅威や侵略行為への対応や、状況の悪化の回避の枠組みを規定している国連憲章第7章に基づく法執行活動が適切かという問いに対して、ドゥジャリク氏は、加盟国が決めるだろうと述べた。
国際社会は態度を明確にした。3月16日に開かれた、イエメンについて話し合われた最近の安全保障理事会で、15の理事国で構成されている組織は、フーシ派の引き延ばしを一斉に非難した。
リンダ・トマスグリーンフィールド米国連大使は、「フーシ派は今、国連による石油タンカー『セイファー』の調査や最初の整備を遅らせ、取り返しのつかない破滅を引き起こすと脅している。フーシ派が引き延ばしをやめる時はとっくに過ぎている」と述べた。
バーバラ・ウッドワード英国連大使は、「フーシ派は、国連の調査や整備の任務を円滑化するために、安全保障理事会に要請された複数のことを至急、実行しなければならない」と述べた。
国連アイルランド政府代表部のジェラルディン・バーン・ネイソン大使は、「以前に起きた爆発や原油流出が甚大な被害をもたらし、持続的な影響を及ぼしていることは記憶に新しい」と述べた。2020年8月に起きたベイルート港爆発事故の惨状を含んだ言及だ。
「援助の申し出を受けているときに、フーシ派にこの大惨事を起こさせることは、断じて許されないだろう」
一方、ファルハン・ハク国連事務総長副報道官によると、「物流と安全面」の取り決めをするための、国連とフーシ派の話し合いが続いているという。
「我々は、派遣のスケジュールを立てられるよう、これらの話し合いを早急に進めることを望んでいる」
「イエメン政府との技術会議を開き、調査団派遣の取り組みについて、できるだけ早く説明する」
—————
Twitter: @EphremKossaify