
コーネリア・マイヤー
スイス、ベルン:ミャンマーの経済は長い間、国の強力な軍隊タッマドーと、地政学的な変化による流れによって形成されてきた。そしてこれらが一体となって、同国の国際貿易関係、特に大規模なインフラプロジェクトに関わる関係を形成してきた。
アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)政権を転覆させた2月1日のクーデターや、600人以上の死者を出した抗議活動への暴力的な弾圧が行われて以来、舞台裏では軍事政権に制裁を加えようという機運が高まっている。
これまでに、アメリカとイギリスは、ミャンマーの軍が保有する2大複合企業に制裁を科している。複数のOECD加盟国も、クーデターに関与した軍関係者の渡航禁止や資産凍結を行っている。
また、同国に投資している企業に対しても、軍が保有する企業との関係を断つよう圧力が高まっている。例えば、複数の年金ファンドは韓国の鉄鋼大手ポスコに対し、軍が所有するビルマの合弁事業パートナーと関係を断つよう働きかけている。
一方、日本のキリンビールは、軍が所有する持ち株会社との合弁事業に17億ドル以上を投資しているが、同国でのビールの販売継続を計画しながらも、同パートナーとの関係を断った。
全ての欧米多国籍企業が一枚岩であるわけではない。トタルのパトリック・プヤンヌCEOは最近、同国の電力網を維持し、従業員の安全を確保するためには、ガスの生産を継続しなければならないと述べた。
しかし、同石油大手は、軍への税金を払わず、その代わりに人権団体に同等の額を寄付するつもりだと語った。
タッマドーの触手は経済に大きな影響力を持つあらゆる業界にしっかりと巻きついており、最低1つの軍の機関との協力なしにミャンマーで企業がビジネスを行うことはほとんど不可能だ。
タッマドーと直接繋がりのある2つの組織が、経済に大きな影響力を持っている。1つはミャンマー経済公社(MEC)、もう1つがミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)だ。
MECは、製造業、インフラ、鉄鋼、石炭、ガスなどに携わっている。MECの存在意義は軍隊への原材料供給だが、ミャンマーの保険業界も独占している。
一方、MEHLは、銀行、鉱業、農業、タバコ、食品製造などに携わっている。その収益は直接軍に還流し、軍は文民がMEHLを監督できないようにしている。MEHLはミャワディ銀行と軍の年金基金を保有している。
軍は、1962年から2011年までの軍事政権制裁下で、国際金融システムから何年も締め出されたことにより当時十分に発展していなかった国の銀行業界の多くを支配している。
NLD政府は、2021年までに外資系銀行に銀行免許を発行するつもりだったが、クーデターにより、この取り組みは頓挫してしまった。
MECとMEHLは合わせて100以上の企業を所有している。両企業は、1990年代から2000年代にかけての民営化で、これらの企業を破格の値段で手に入れ、大きな利益を得た。
ミャンマーのビジネス慣行は、控えめに言っても不透明であり、まさに縁故資本主義そのものと考えられている。2018年、トランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数は、180カ国中130位に入った。
第1次NLD政権(2015年から2020年)は、いくつかの部門を競争にさらすことで、軍の力を抑制しようとしたが、全権を握るタッマドーとの対決は控えた。
しかし、NLDは2018年に、軍が支配する内務省から文民政府に、総務局(GAD)の権限を移譲することに成功した。
これは、国の統治を脱軍事化する上での重要な一歩だった。GADが土地管理やサービス提供、徴税に至るまで、幅広い権限を握っていることを考慮すると、軍から権限を奪うことは、最終的にタッマドーによる経済の完全支配に波及することは明らかだった。
2020年の選挙では、NLD政権は透明性の向上と中央当局や軍部からの権限委譲を掲げたが、これは将官たちの懐には痛い動きだった。
競争と透明性を高めれば、経済が自由化され、外国からの投資を呼び込むことができたことには疑いの余地はないが、それは同時に、ミャンマーの長年の権力構造を脅かすことにもなっただろう。
将官たちにとって幸いなことに、タッマドーには強力な外国の友好国がいる。ミャンマーは多くの国々にとって地政学的に重要であり、これらの国々は、誰が権力を握っても協力するだろう。これらの国々にとって、誰が権力を握るかは重要ではなく、自分たちの政治的・経済的な利益を上げたいのだ。
ミャンマーは中国にとって戦略的に重要であり、新興超大国中国にベンガル湾への陸の橋を提供し、一帯一路構想を支える国となっている。
2011年まで、中国政府は軍事政権と良好な関係を築いており、NLD政府ともある種の協定を結ぶに至っていた。
中国の習近平国家主席は、昨年のミャンマー訪問中に、中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)を復活させ、33もの覚書を交わした。
中国とベンガル湾を結ぶ石油・ガスパイプライン、チャウピューの深水港開発、雲南省とインド洋を結ぶ鉄道などはどれも、CMECには不可欠な要素だ。
これには210億ドル相当のプロジェクトが盛り込まれると言われており、MECとMEHLがかなりの額を出資することに疑いの余地はない。しかし、NLD政府は、中国の影響力の増大やミャンマーの膨れ上がるCMEC関連の負債を懸念した。
一方、インドは、ミャンマーをライバルである中国に対する重要な防波堤と見ている。そのため、ヤンゴン港の建設にはインド企業のアダニが関わっている。インド政府は、中国の一帯一路構想にますます包囲されていると感じているのだ。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、ミャンマーの最大の貿易相手国であり、取り引きの24%を占めている。次いで中国が14%、EUが10%だ。
同じASEAN加盟国であるタイは、ミャンマーの4番目に大きな貿易相手国であり、同国で雇用されている数百万人の移民労働者が送金する外貨の重要な獲得源だ。
タイ北部の都市チェンライとビルマ国境を結ぶ優れた交通インフラは、両国間の貿易(合法か非合法かを問わず)の重要性を浮き彫りにしている。さらに、両国は現在、軍事政権が統治しており、その将官たちは社会的、経済的、政治的なつながりを持っている。
最後に、ロシアはビルマ軍と長年の関係を有している。2007年、ロシア政府はミャンマー政府と核研究センターを設立する協定を締結し、2016年に両国は防衛協力協定を結んだ。
またロシアは、タッマドーに武器を供給している。同国は露骨にも、3月27日に行われたミャンマーの国軍記念日に、閣僚級代表のアレクサンドル・フォミン国防次官を派遣した唯一の国となった。
欧米諸国はミャンマーへの制裁を推し進めるだろうが、アジアの近隣諸国は、地政学的な理由から近隣諸国との関係、利益になるビジネス関係に至るまで、さまざまな理由から追随により消極的になるかもしれない。また、ASEAN諸国の中には、隣国の内政に干渉することを避けたいと考える国もあるかもしれない。
従って、タッマドーはNLD政府を転覆させた罪を免れ、富と経済的影響力を蓄積し続けることができるかもしれない。同様に、多くの外国企業は、儲かるということと、自国政府の地政学的利益につながると見られていることの両方の理由から、ビジネスレベルで軍事政権との関わりを持ちたがるだろう。
ツイッター: @MeyerResources