アレクサンドラ・ドライコット
ドバイ:2020年3月11日、中国の武漢で新型コロナウイルスが発生してからわずか数カ月で、複数の大陸から新型コロナウイルスの大流行が報告された。前例のない、医療に関わる緊急事態と生活習慣の急激な変化が始まった。
世界保健機関(WHO)が警戒レベルを、局地的な流行から本格的なパンデミックに引き上げることを決めた後、湾岸協力会議(GCC)諸国の政府は迅速に対応した。
全国的に閉鎖などの強制措置が取られ、学校や職場は無人になり、最前線で働く医療従事者は動員され、家庭は自宅待機を命じられた。これほどまで混乱したときのことを覚えている人も、これほどまで街に人がいなくなっているのを見た人もほとんどいない。
英世論調査会社ユーガブが収集したデータで、パンデミックが始まった2020年4月、サウジアラビアとUAEの回答者の約75%が、新型コロナウイルスに感染することを「少し怖い」もしくは「非常に怖い」と感じていたことが分かった。こうした恐怖感は、パンデミックが長引くにつれ、おおむね減ってきている。
COVID-19のまん延を防ぐため、各国政府は国民に多くの義務を課し、個人の衛生状態や社会的距離の新しいガイドラインを守らせた。
同じユーガブの調査では、サウジアラビアとUAEの回答者の78%が、個人の衛生状態を改善した(頻繁に手を洗い、手の消毒剤を使った)と答え、80%が公共の場所を避け、70%が公共の場でフェイスマスクを着用するようになったと答えた。
新型コロナウイルスは主に感染者との接触で広がる。せきやくしゃみによって浮遊微小粒子が放出されるときだ。ウイルスに汚染された表面に触れ、粒子が目や鼻、口に移動することでも感染する。

2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大と闘うためにサウジアラビアでロックダウンが行われる中、ドライバーの渡航許可証を調べるサウジの警察官。(SPAの資料写真)
ロックダウンの措置が取られ、公衆衛生に関するメッセージが至る所にあることで、人々の日常生活は大きな影響を受けており、仕事や勉強の仕方から、旅行や社交の仕方まで、あらゆる広範囲に及んでいる。
その組み合わせは、衛生状態と社会的距離のルールを地域社会が幅広く取り入れることが、大流行をうまく押さえ込むのに重要であることも強調した。
ユーガブのデータによると、パンデミックの最初の6カ月間、GCCではマスクの着用率が高かった。
UAEの回答者の約80%、サウジの回答者の約69%が、この期間に常にマスクを着用していると答えた。
パンデミック中、高齢者や基礎疾患のある人など、リスクが高いグループは特に注意するよう促されている。2020年8月に、45歳以上のサウジアラビア人回答者の80%が公共の場所を避けていると答えたのに対し、18~24歳のサウジアラビア人で同じ予防措置を取っていると答えたのは58%だけだった。
同月、UAEでは45歳以上の81%が公共の場所でフェイスマスクを着用していると答えたのに対し、18~24歳でマスク着用の義務に従っていると答えたのは66%だけだった。
コロナウイルスへの感染のしやすさに男女差はないが、医学的データによると、男性は重い症状に苦しみ、最終的にこの病気で死亡する可能性が高いとされている。

2020年8月、サウジの45歳以上の回答者の5人に4人が、公共の場所を避けていると答えた。(ロイター通信の資料写真)
しかし、WHOからそうするなという忠告を受けているのに、サウジアラビアとUAEに住む男性は、個人の衛生状態を改善する人が少なく、フェイスマスクを着用する人も、人混みを避ける人も、ウイルスに汚染されているかもしれない表面に触れることを避ける人も少ない。ユーガブのデータで分かった。
パンデミックが始まってから、世界全体で約1億4200万人が感染し、300万人以上が死亡している。UAEの新型コロナウイルスの感染者は約50万人で、サウジアラビアは40万5千人に近づいている。
政府によるパンデミックへの対応が遅れていた多くの欧州諸国に比べると、感染拡大のスピードはGCCでは比較的穏やかで、死亡率もはるかに低かった。しかし、ここでさえ、ワクチン接種が始まり、規制が徐々に緩和されていても、日常からはかけ離れていると感じられる。
社会疫学者のニコラス・クリスタキス博士は、著書『アポロの矢:コロナウイルスが私たちの生き方におよぼす深刻で根強い影響』の中で、「私たちに起こっていることは、多くの人にとって異質で不自然に思えるかもしれないが、疫病は人類にとって新しいものではない。ただ私たちにとって新しいだけだ」と書いている。
そして、過去に大流行した病気と同じように、新型コロナウイルスのパンデミックもいずれ消え去り、人々が長い間できなかった社会的交流を求める、より明るい時期が訪れるだろうと、クリスタキス氏は書いている。
イェール大学の教授である同氏は、1918年のスペインかぜのパンデミック後に繁栄と文化的復興を遂げた10年間に似た、第二の「どんちゃん騒ぎの20年代」になるとさえ予想している。
だが、そうなるためには、人々が安全であること、そして安全だと感じることが必要だ。年1回のワクチン接種、治療の改善、ワクチンパスポートはどれも、社会や経済を再び軌道に乗せるために使える手段だ。
それまでは、最もリスクの低い人々の行動が、最もリスクの高い人々に影響を与え続けるだろう。したがって、「元の正常な状態に戻る」ためには、医学だけではなく、地域社会全体の行動が重要になる。
ワクチンや封じ込め対策が広がらなければ、ウイルスはより強固な地盤を築き、変異する可能性が高まり、感染力を強め、症状は重くなるだろう。
WHOの「Vaccine Explained」シリーズによると、「ウイルスが集団の中で広がり、多くの感染症を引き起こすと、ウイルスが変異する可能性が高くなる」という。「ウイルスが広がる機会が増えれば増えるほど、ウイルスは複製する。変化する機会も増える」
ワクチン接種における重要な要素は、提供されるワクチンの信頼性だ。
昨年12月上旬、UAEは中国製のシノファームのワクチンを、緊急使用するために承認した最初の国の一つとなった。ユーガブが同月末に行った世論調査によると、UAEの回答者のうち、ワクチン接種に抵抗がない、あるいは接種済みだと答えたのは56%だけだった。サウジアラビアでは、わずか42%だった。

2020年12月24日、ドバイのアルバルシャ保健センターで新型コロナウイルスのワクチン接種を受けるUAEの男性。(AFPの資料写真)
サウジアラビアでは、国の予防接種計画が開始されてから、全国500カ所のセンターで200万回以上の接種が行われている。人口1人当たりの接種率が世界トップクラスであるUAEでは、1000万回以上の接種が行われている。
2020年12月の世論調査以降、新しい新型コロナウイルスワクチンの安全性と有効性に対する信頼が高まっている。「YouGov COVID-19 Public Monitor in March 2021」のデータによると、回答者でワクチン接種を希望する人は、サウジアラビアでは20%、UAEでは26%増えた。
現在、UAEとサウジアラビアの回答者の大多数(82%と62%)が、ワクチン接種を受けた、もしくは受ける意思があると答えている。
その他の調査結果では、サウジの回答者の83%がパンデミックの状況は改善していると考えている。UAEの回答者でパンデミックの状況が悪化していると考えているのは14%だけで、サウジアラビアとUAEの回答者の70%は、人混みを避け続けるつもりでいる。
新型コロナウイルスの変異、感染拡大のパターン、長期にわたる症状、医師が使うワクチンや治療法をかいくぐる能力など、科学者が学ぶべきことがたくさんあることを考えれば、このような調査結果が出たことは意外ではない。
それゆえ、マスクの着用や手の消毒、社会的距離は、今後しばらくの間、必要不可欠かもしれない。