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「影の戦争」は終わり:イスラエルの諜報機関モサドとイランの攻防

「イラン原子力技術の日」に首都テヘランで開催された大統領主催の式典で映し出された、イランのナタンズウラン濃縮施設内の技術者によるビデオ会議画面の一コマ。(AFP通信/資料写真)
「イラン原子力技術の日」に首都テヘランで開催された大統領主催の式典で映し出された、イランのナタンズウラン濃縮施設内の技術者によるビデオ会議画面の一コマ。(AFP通信/資料写真)
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21 Apr 2021 06:04:11 GMT9
21 Apr 2021 06:04:11 GMT9
  • ナタンズ核施設の破壊工作は、自国民の手による裏切りに対する脆弱性を露呈した
  • アナリストによると、イランの生ぬるい反応は、イランが何よりも制裁緩和に必死であることの表れだという

クリストファー・ハミル=スチュワート

ロンドン:アナリストは、4月11日にイランの最も重要な核施設を襲った爆発は、イラン政府と地域で敵対関係にあるイスラエルの間で数十年間行われている「影の戦争」における、新たな重要な出来事だと述べている。

アナリストによると、今回の破壊工作は、イランが自国民の手による裏切りに対して脆弱であることを露呈しただけでなく、イランの生ぬるい反応は、イランが何よりも制裁緩和に必死であることを明らかにしたという。

モサドの匿名の諜報員は先週、イスラエルのメディアやニューヨーク・タイムズ紙に対し、ナタンズで起きた謎の爆発はモサドによるものだと語った。また、チャタムハウスの中東・北アフリカプログラムでアソシエイト・フェローを務めるヨッシ・メケルバーグ氏によると、これは昨年イスラム共和国(イラン)で多発した爆発、停電、火災に続くものだが、1つ大きな違いがあるという。

「去年と違うのは、それがどれだけ公になっているかということだ。(イスラエルは)責任を取る準備ができている。『影の戦争』から最前線へと移ったのだ」とメケルバーグ氏はアラブニュースに語った。

「この対立は、少なくとも20年前から行われている。サイバー攻撃、科学者の暗殺、船舶への攻撃など、これは継続的に行われていることだ。ここ1年ほどで見られるようになったのは、対立が密かに行われていたものから公然と行われるものに移り変わっていく様子だ」

過去1年間だけでも、イランは絶え間ない攻撃、暗殺、破壊工作に見舞われている。イランで最も有力な核科学者は手の込んだ攻撃によって殺害された。

イランの核関連資料はすべて盗まれて国外に持ち出され、国中の核施設、軍事施設、物流施設は不可解な障害に見舞われている。

2021年4月17日にイラン国営放送IRIBより入手した映像から切り出した写真には、レザ・カリミ(43歳)と特定された男性の肖像が写っており、イラン情報省は先週のナタンズ核施設への「破壊工作」における同氏の役割を立証したと述べている。(AFP通信/資料写真)

メケルバーグ氏によると、これらの事件はイランの経済や核開発計画に支障をきたすだけでなく、政権の根本的な弱点を露呈しているという。

「彼らは核開発計画の内側に真の問題を抱えている。最も有力な科学者を守れず、誰かが核関連資料を国外に持ち出すことに成功したという考えは、単純にポケットに入れておけるものではない」とメケルバーグ氏は話した。

イラン国営テレビは、43歳のイラン人、レザ・カリミを4月の破壊工作の第一容疑者としているが、レザ・カリミは爆発の数時間前にはすでに国外に逃亡していたという。

メケルバーグ氏をはじめとする専門家たちは、イラン人が関与しているということは、政権の核心的な脆弱性を示していると考えている。それは、自国民の中にいる裏切り者、さらには核開発プログラム自体の中にいる裏切り者だ。

「彼らはセキュリティに大きな問題を抱えている。このようなことが起きれば起きるほど、誰が信用できるのか、誰が外国の機関と協力しているのか、ということに彼らは病的なほど疑い深くなるだろう。明らかに、誰かが裏切っている」とメケルバーグ氏は指摘する。

ワシントンを拠点とするスティムソンセンターの核不拡散専門家・特別研究員、オリ・ハイノネン氏は、ナタンズでの攻撃が巧妙であることから、政権内部の協力者が攻撃を可能にしたことは疑う余地がほとんどないと考えている。

ハイノネン氏はアラブニュースの取材に対し、「これらの行動を設計し実行した者は、内部の者しか知り得ない情報を持っており、内部の協力者である可能性が高い」と話した。

2020年1月8日にマクサー・テクノロジーズ社が提供した衛星画像には、首都テヘランの南にあるイランのナタンズ核施設の全体像が写っている。(AFP通信/マクサー/資料写真)

メケルバーグ氏と同様に、ハイノネン氏は、イランが最も重要な核施設の防衛にさえ無能であることを強調し、イランの実績と他の世界的なパーリア国家(疎外されている国)の核開発計画との間に明確な差異があることを指摘した。

「注目すべきは、北朝鮮で同じような事件が起きたという話を聞かないことだ。(イランの)治安部隊が、指導者が期待したようにはイランの資産を守れなかったことは明らかだ」とハイノネン氏は述べた。

「これは驚くべきことではない。技術者を含むすべてのイラン人が、ウラン濃縮活動の合理性を認めているわけではなく、そのための投資は、核開発計画の中でさえ、他の場所でもっと有効に使うことができる」

イラン政府は、今回の攻撃がナタンズの施設に深刻な被害をもたらしたことを認めている。イラン議会の研究センターの責任者を務める政権強硬派、アリレザ・ザカニ氏は先週、国営テレビのインタビューで、「数千台の遠心分離機が損傷・破壊された」と述べた。

2014年8月25日にイランの革命防衛隊の公式サイトが公開した資料写真には、ナタンズのウラン濃縮施設の上空で撃墜されたとされるイスラエルの無人機が写っている。(AFP通信/資料写真)

イラン議会のエネルギー委員会の責任者は、「技術的な観点から見れば、敵の計画はむしろ美しいものだった。彼らはこれを検討し、専門家を使い、中央電源と非常用電源ケーブルの両方がダメージを受けるように爆発を計画した」と語った。

今回の攻撃により、20%濃縮ウランの生産が「確実に減速した」とハイノネン氏は述べている。20%濃縮ウランは原子力発電に必要な濃縮度を超えるが、兵器用ウランに必要な90%をはるかに下回る。

しかし、攻撃から3か月以内に生産が再び活発化する可能性があり、攻撃に対抗してイラン政府がウランを60%まで濃縮することを断言したことが、核爆弾の急速な開発に向けた踏み台として作用する可能性があるとハイノネン氏は警告している。

「短期的には、(60%濃縮は)ブレイクアウトタイム(核爆弾1個を製造するまでの時間)にあまり貢献しないが、60%濃縮はウラン濃縮が主に潜在的な核能力を構築する目的で行われているという事実を示している。潜在的な核能力とは、もしそのような決定がなされた場合、短期間で完全な核兵器を獲得する計画を再開できる状態にあることだ」とハイノネン氏は述べた。

政治的リスクコンサルタント会社Preliaのイラン専門アナリスト、ナデル・ディ・ミケーレ氏は、今回の攻撃への対応は、イラン政府による微妙なバランス調整の一環だと述べている。

米中央軍が提供したパワーポイントのスライドには、民間船M/V「コクカ・カレイジャス」の船体に爆発による損傷(左)とリンペット・マインと思われるものが写っている=2019年6月13日、オマーン湾(AFP通信/資料写真)

「彼らは事態の激化を望んでいない、しかし、政府は外交政策の観点から対応策を示す必要がある。それは国際的な関係国に向けられたものかもしれないし、国内の人々に向けられたものかもしれない」とディ・ミケーレ氏はアラブニュースに語った。

ウラン濃縮量の増加にとどまらず、その後、何者かがイスラエル所有の貨物船を標的にしたことが報じられている。しかし、ディ・ミケーレ氏は、ナタンズで起きた攻撃による壊滅的な被害に比べれば、その攻撃による被害は意図的に最小限に抑えられたと考えている。

「このような攻撃には常に対応しなければならないが、イランの代表団は、制裁緩和を望むのであれば、彼らにできることには限界があることを理解しているはずだ」

ディ・ミケーレ氏は、もしウィーンでの交渉が進み、制裁が解除されてさまざまな資産が解放され、イランの政権の財政力が強化されたとしても、「その資金のうちのどういった割合がどのような活動の支援に使われるか我々にはわからない」と指摘した。

ディ・ミケーレ氏は加えて、「解放された資産のうち、何割かは対外政策活動に使われると考えられる。それが何を引き起こすのか、私には推測できない」と述べた。

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Twitter@CHamillStewart

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