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シリア内戦:イランがその代理武装勢力に対するイスラエルの攻撃に耐え続ける理由

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17 May 2021 12:05:40 GMT9
17 May 2021 12:05:40 GMT9
  • イスラエルの空爆により数百もの戦闘員を失いながらも、イランとその代理勢力はシリアでの活動継続に全力を尽くしている
  • 中近東情勢の専門家たちは、核協議の再開によるイランへの制裁緩和は、戦争によって疲弊したイランの既に不安定な状況を悪化させてしまい得ると警告を発している

クリストファー・ハミル-スチュワート

ロンドン:シリアが10年以上前に内戦状態に突入して以来、イスラエルはイランとシリア国内のイラン代理勢力に対して何百回もの攻撃を行ってきた。イスラエルの政府関係者たちは、イスラエル北部の国境付近にイランが勢力を伸張することを決して容認しないと明言している。

イスラエルの軍用機は、イラン関連施設やレバノンにおけるイラン代理勢力であるヒズボラへの武器輸送車両に対して、繰り返し攻撃を行ってきた。イスラエルは、5月5日にもシリアのラタキア県とハマ県に対して攻撃を行い、イランのイスラム革命防衛隊 (IRGC) に雇用されていた少なくとも8人が死亡した。

IRCGが、持続的な空爆を受け人員を喪失しようとも、イスラエルに直接的に反撃したり、自らの軍事的プレゼンスを放棄することはしばらくの間はないと、中近東情勢の専門家たちは見込んでいる。その理由は、単純だ。イランにとってシリアは、失うには貴重過ぎる戦略的足掛かりだからである。

シリア政府系のシリアアラブ通信社 (SANA) が2020年2月24日に公開・配布した写真。ダマスカス上空でシリアの防空システムに迎撃されるイスラエルのミサイル。(AFP)

「イスラエルもイランも自国の防衛はシリア情勢にかかっていると考えています」と、アメリカ陸軍戦略大学の中東安全保障研究科のクリス・ボラン教授はアラブニュースに語った。

イランが支援するレバノンの民兵組織であるヒズボラは、アサド政権を支援するために、シリア内戦にその初期から介入していた。そして、そのヒズボラが、現在、シリアからイスラエルの国家安全保障を揺るがしていると、ボラン教授は指摘した。

「イランのヒズボラに対する支援へのイスラエルの危機感は恒久的なものだとすら言えます。ウィーンでの (核) 協議の結果がどうであれ、このイスラエルの危機感は継続するでしょう。内戦開始以来、シリアのアサド大統領の代わりとしてイランが軍事的プレゼンスと介入の度合いを強めてきたことで、イスラエル側は危機意識を高める一方になっています」と、ボラン教授は述べた。

「イスラエルは今後も必要なあらゆる行動を取り続けることでしょう。そうした行動には、空爆も含まれます。その目的は、ヒズボラが保有数を増しつつある高性能ミサイルによってもたらされる危険を最少限に留め、また、イランのシリアにおける軍事的プレゼンスがイスラエルにとっての差し迫った脅威とならないようにすることです」。

「同じように、イランの指導者たちは、ヒズボラへの支援を自国の国家安全保障戦略における前方防衛の絶対不可欠な要素と看做しています。十分に装備の整ったヒズボラはイスラエルにとって脅威であり、その結果、イランにとっては、イスラエルや欧米による大規模な攻撃への最強の抑止力として機能するというわけです」。

イラクの親イラン準軍事組織「ハッシュド・アル・シャビ」の構成員たちが仲間の死を悼んで行う葬列。バクダッド、2019年12月31日。(AFP、資料写真)

ヒズボラに加えて、IRGCはシリア国内で数多くの民兵組織に育成し訓練し、さらには装備を提供している。レバノン、アフガニスタン、イラク、果てはパキスタンから戦闘員を送り込み、イランはシリアに自前のシーア派傭兵部隊を作り上げたのだ。

しかし、それでも、シリアの最前線でイスラエルの軍用機に翻弄される外国人戦闘員たちは、イランへの忠誠を貫くために多大な犠牲を払ってきた。

シリア人権監視団 (SOHR) によれば、イスラエルのシリア情勢への関与が深まり始めた2018年1月から2020年1月の間に、500人近くのイランの支援を受けた戦闘員がイスラエルの空爆によって死亡している。

この500人近くの死者の中には、「レバノンのヒズボラとイランの支援を受けた民兵228人」、「イラン軍人とイラン革命防衛隊隊員171人」、そして、シリアの親政府系民兵100名近くが含まれている。

シリアで殺害されたヒズボラの戦闘員たちの葬列で彼らの棺を運ぶ支援者たち。2020年3月1日。(AFP)

反政府勢力やISILとの直接的な戦闘の最前線ではさらに何千人ものイランの支援を受けた戦闘員が死亡している。

SOHRによれば、5月5日の空爆だけで8人が死亡している。内訳は、イラン人とアフガニスタン人が5人、シリア人が1人、シリア人とシリア以外の国籍が2人である。

「空爆によって重傷者を含む負傷者多数となり、レバノンの民兵や士官も巻き込まれており、今後、死亡者数はさらに増える見込み」と、SOHRは発表している。ヒズボラの構成員が死亡や負傷したか否かについては未だ明らかになっていない。

ワシントン近東政策研究所のテロ対策・諜報プログラムのディレクターであるマシュー・レヴィット氏によると、多大な損害を受けたにもかかわらず、ヒズボラがイスラエルへの反撃に踏み切る可能性は低いという。

「ヒズボラはシリアではイスラエルの攻撃によって仲間が殺害された場合にのみイスラエルに報復するという、過去数年間にわたる明らかな記録があります」と、レヴィット氏はアラブニュースに語った。

「イスラエルの攻撃対象がヒズボラの武器輸送やインフラに限定されている限りにおいては、ヒズボラがイスラエルに直接的な反撃を行う可能性は低いと考えられます。これは、ヒズボラが現況では避けておきたい国境をまたいだ紛争の契機となることを恐れているからです」。

「ヒズボラは、2つの異なる戦線 (シリアとイスラエル) での同時並行的な戦いは避けたいと考えています。また、経済的、政治的に不安定な状態にあるレバノンを、その大多数の国民が望んでいないイスラエルとの戦争に巻き込んでしまうことも慎重に避けています」。

ヒズボラのリーダーであるハサン・ナスラッラー 書記長は、報復の代わりに激しい修辞と高尚な誓約を損失の拡大への対応としている。

今回の空爆の数日後、イランの国営報道機関はナスラッラーの次の発現を引用した:「現在、『イスラエル人たち』は、抵抗勢力の実力の高まりに不安を覚えています。『イスラエル』という存在は問題を抱え、その壁はひび割れ始めています。リーダーシップの危機に直面し、それは崩壊と弱体化の兆候なのです」。

ヒズボラがいかに言い繕おうとも、イスラエルの空爆作戦は何百人もの敵戦闘員を死傷させただけではなく、イランの勢力のシリアへの、特にシリア南部への伸張を阻むという明言された目標を果たしたことは事実なのである。

イランの最高指導者ハメネイ師、シリアのバッシャール・アサド大統領、故ガーセム・ソレイマーニー司令官のポスターの前に結集するシリア人の抗議活動参加者たち。(AFP)

「イランの支援を受けた勢力へのイスラエルによる空爆は、シリア国内の重要な標的を破壊し混乱させるという点でかなり効果を上げています」と国際セキュリティ・インテリジェンス機構の創設者であるヨハン・オブドラ氏は述べている。

シリア内戦を通じて、イスラエルは、シリアの主要都市に設けられた兵器の秘密倉庫や高速道路を含む重要なインフラストラクチャー、さらにはイランが支援する組織へ輸送中の何百発ものミサイルや他の武器類に対して空爆を行ってきた。

シリア政府系のシリアアラブ通信社 (SANA) が2020年4月27日に公開・配布した写真。イスラエルの空爆により損傷を受けたダマスカスのビル。 (AFP)

「こうしたイスラエルの連続的な空爆は、シリアのヒズボラに供給するミサイルを含むイランによる最先端兵器の密輸活動に打撃を与えています。また、軍事関連物品の輸送経路として機能する倉庫や既存の地下施設も空爆されました」と、オブドラ氏は言った。

とは言うものの、イスラエルも現況に甘んじているわけにはいかないと、中近東の専門家たちは言う。イランの核開発についての米政権との協議が行き詰った場合、イランとイスラエルのシリアにおける膠着状態は非常に不安定となり得るとボラン教授は警告している。

核協議の結果が、シリア情勢下で既に固定化されたイスラエルやイランの損得勘定に大幅な変化を促すものになる見込みは低いです」と、ボラン教授は言った。

「それでもなお、ウィーンでの協議が失敗すると、シリア国内で既に悪化しているイスラエルとイランの敵対関係にさらに燃料が加えられる構図となり、意図的な、または偶発的な情勢の激化の可能性が高まります」。

オブドラ氏は、イランとその支援を受けている組織は、核協議とその結果として得られ得る制裁緩和を、イスラエルに対する立場を強める機会として利用する可能性が高いと考えている。

「核協議は、イランにとっては、イスラエルに対抗する計画を進める絶好の機会になります」と、オブドラ氏は述べた。

イランへの制裁の終了は「シリア国内のみならず世界の他の国々へのイランとヒズボラの勢力拡大の促進に結果しかねません。イランもヒズボラも、攻撃的な軍、民兵、テロリストからなるネットワークを、いくつもの国々で、構築しつつあるのです」。

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  • Twitter: @CHamillStewart
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