
アラブニュース
ドバイ: 何百万人ものトルコ国民が、逃亡中の犯罪組織のボスであるセダット・ペッカー氏からの次なる衝撃ニュースの動画をハラハラしながら待っている。この動画でセダット・ペッカー氏はレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領との関係を詳しく語ることが期待されている。
ペッカー氏(49)は1990年代以来、悪名高いマフィアの大物である。トルコ当局からの逮捕を逃れるために移動を続けており、去年、犯罪捜査を回避するためトルコから逃亡した。
5月26日、アンカラの検事正事務所がフェトフッラー・ギュレン氏との結託の疑いでペッカー氏に新たな逮捕状を出した。フェトフッラー・ギュレン氏は米国を拠点とする牧師で、トルコはギュレン氏が2016年のエルドアン氏に対するクーデター未遂の責任を負う人物だとしている。
動画シリーズのYouTubeでの視聴者は数百万人に届いており、ペッカー氏は動画の中で、エルドアン氏の与党である公正発展党(AKP)内部の汚職、管理不行き届き、組織犯罪との関係に対する告発の嵐を解き放っている。
ペッカー氏の主張は政界の規制勢力を慌てさせるものであり、麻薬や武器の密輸、トルコ高官とシリアのアルヌスラ戦線との長きに渡る関係などに関する内容だ。
トルコの調査ジャーナリストであるゴクサー・タヒンチオグル氏は、ペッカー氏の動画はまるで「ギャング内部からのライブレポート」のようであり、真摯に受け止めるべきであるとロイターに語った。
「匿名にせず、自発的に声を上げようとしている人物がいるのです。なぜペッカー氏の話を聞いてはいけないのでしょうか? 彼の話は注目されるべきです」
疎遠になった共犯者の名を貶めるための組織的活動のように見える中、ペッカー氏の主張は、汚職の慣行、法的ルールの欠如、治安維持組織と司法の対立などを対象としている。
ペッカー氏は、自分の声明はトルコ政府と、特にスレイマン・ソイル内務大臣に対して「復讐を行う」ために計画されたものだという。スレイマン・ソイル内務大臣は、ペッカー氏がトルコ政府と不和になった後の4月、警察にペッカー氏の自宅への強制捜査の許可を出した人物だ。
ソイル氏は自身に対する告発を否定している。この告発には、ペッカー氏が刑務所を出て、ペッカー氏の組織を取り締まるという警告を行った後、警察による保護期間を延長したことも含まれている。
ペッカー氏はこの主張は「不愉快な嘘」であり国家に対する策謀であると呼んだ。
エルドアン氏は自身の政権は犯罪組織に対して取り組みを行ってきたと積極的に弁明している。5月26日、エルドアン氏は「私たちは19年間、犯罪組織を1つ1つ壊滅させてきました」と議員に語り、ソイル氏と「協力し合う」姿勢を保つと主張した。
5月30日、ペッカー氏は8回目となる動画で再び姿を表した。今回は国家を動かしている人物たちがアルカイダに関係のあるシリアのテロ組織に武器を送るため民間軍事組織と共謀していると告発した。
ペッカー氏は、トルコはアルヌスラ戦線の武装組織にSADATという民間軍事組織を通して武器を送っていたと主張した。SADATは2012年にイスラム教への忠誠心を理由に軍隊から追放された退役将官と23人の将校で結成された組織である。
アルヌスラ戦線は現在は「ハイアト・タハリール・アル=シャーム(HTS)」と呼ばれ、反体制派が支配するシリアのイドリブ県の支配を続けている。イドリブ県はトルコの南側の国境沿いに位置している。
動画の中でペッカー氏は、シリアで「大きなビジネス」を行うには大統領の行政責任者であるメチン・キラトリ氏の許可だけではなく、親政府派の実業家でありアルヌスラ戦線の上官であるアブ・アブドゥラマン氏の許可も必要になると語った。
ペッカー氏はさらに、資金の流れは内務省の支援を受けた「汚職ネットワーク」に隠蔽され、トルコ政府まで辿ることはできないとほのめかした。
ペッカー氏は、シリアのトルクメン人に軍用品を送る手配を行ったと主張した。2015年にトラックを配備する許可を得るために公正発展党の議員と計画を共有したというのだ。
またペッカー氏は、アルヌスラ戦線はシリアの少数民族トルクメン人と戦闘を行っていたため、支援を送ることに反対したともいう。ペッカー氏が言うには、トラックの進路が変更され、SADAT内の組織によってトルクメン人ではなくアルヌスラ戦線に送られたという。
「彼らはトルクメン人のための支援トラックの進路を変更し、私の名前を使ってアルヌスラ戦線へ送ったのです。しかし私が送ったのではありません。やったのはSADATです。私はそのことをトルクメン人の友人から知らされました」ペッカー氏は動画の中でそう語った。
民間軍事会社SADATはトルコ政府と密接につながっており、シリアおよびリビアの内戦の際、武装組織のための人材確保や訓練提供の役割を担っていたと言われている。
ペッカー氏は、恐喝、偽造、不法監禁、殺人の扇動、犯罪組織の設立・指揮などの罪状で1998年以降、刑務所への出入りを繰り返している。
ペッカー氏の動画の中で槍玉に上げられている政治家の中に、ビナリ・イルディリム氏がいる。もう一人の元首相であり、現在の公正発展党の副代表である。ペッカー氏が言うには、イルディリム氏の息子のエルカム氏がトルコへの新たな国際麻薬密輸ルートを設立するために頻繁にベネズエラへ渡航していたという。
イルディリム氏は、エルカム氏の渡航は新型コロナウイルスの支援物資を届けるためのものであると主張した。しかしイルディリム氏の答弁は裏目に出ることとなった。トルコの税関のデータで、問題となっていた日付でのトルコ発のそのような医療備品は存在しないことが示されたのだ。
ペッカー氏の主張はエルドアン政権を激怒させた。
「ペッカー氏は、自分はトルコの敵や国内の悪質な仲間の命令で行動していると自分の馬鹿げた発言で示してしまったのです」大統領首席補佐官のオクタイ・サラール氏はそう語った。「我々の国家は必要とされることを行います。トルコという国はそのようなナンセンスな行為でダメージを受けたりはしないということを、全ての勢力が認めることになるでしょう」
しかし調査会社アブラシャ(Avrasya)が行った新たな調査によると、75%という多くのトルコ国民がペッカー氏の主張を信じていることが示された。
「公正発展党が2000年代半ばに設立されたとき、根絶を約束した悪徳の1つが汚職です。しかし現在、そのとき以上に広まってしまっています」元外務大臣で公正発展党の創設メンバーであるヤサル・ヤキス氏がアラブニュースの先日のコラムに執筆した。
「ペッカー氏の暴露によって、これが国家のあらゆる仕組みを台無しにしてしまっている破壊的な汚職に終止符を打つ機会になるかどうかについての議論がトルコで始まりました」
ペッカー氏の告発は、トルコという国家の暗部組織に対する徹底検証の引き金となった。この徹底捜査は、元内務大臣・警察長官のメフメット・アガー氏と、元諜報部員のコルクート・エケン氏の裁判が中心となっている。
1990年代に発生した18件以上の超法規的殺人についてアガー氏とエケン氏の再審が行われる。4月5日の控訴審で無罪判決を覆す判決が下されたのだ。裁判所は証拠が充分に検証されなかったと主張した。
アガー氏とエケン氏はペッカー氏の告発によって再びニュースを賑わせることとなった。ペッカー氏は、2人は国家組織の下で複数の非合法行為を行ったと告発している。たとえば国際的麻薬密輸計画、調査ジャーナリストのウグル・マムク氏およびクトゥル・アダリ氏の暗殺への関与だ。
ジャーナリストで平和運動家のアダリ氏は北キプロス政権下の1996年、自宅の外で射殺された。この殺人事件は未解決だ。
アダリ氏の夫人が欧州人権裁判所にてトルコに対する訴訟を起こした。そして2005年3月、裁判所はトルコ政府はトルコ系キプロス人ジャーナリストのアダリ氏殺害事件に関して適切な調査を行わなかったことを明らかにした。
先週、セダット・ペッカー氏の発言を受けてトルコ警察は氏の兄弟であるアティラ・ペッカー氏を拘留した。セダット・ペッカー氏は国家の命令で25年前、失敗はしたがアダリ氏殺害の任務にアティラ・ペッカー氏を就かせたと語った。
マムク氏は1993年1月、アンカラのアパートの外で車を爆破されて殺害された。ペッカー氏はアガー氏が殺害に手を貸したと言う。
告発の影響に対し、トルコ政府はどのように対処するのか? 国家とマフィアのつながりに関する告発の渦中にいるソイル氏が辞任するのかどうか? 今後の動向が注目されるところである。
ペッカー氏の暴露に対して最初に注目すべき反応を行ったのは歴戦の大物政治家チェミル・シチェク氏だった。チェミル・シチェク氏は元司法大臣・国会議長である。
公正発展党の上級メンバーの何人かが汚職に対して声を上げたとき、シチェク氏は次のように語った。「もしペッカー氏の言っている多くのことが真実なのだとしたら、これはもはや国家にとっての大惨事です」
「このようなスキャンダルに満ちたニュースを聞いたり読んだりした検察官は、人に言われるまでもなく行動を起こします。頼まれずとも、指導されずとも、こうした疑惑を自らの意志で告発することが期待されています」
もしペッカー氏が権力の上層部との過去の関係について告発を続ければ、2023年に予定されている選挙に向けて、トルコ政府の人気や犯罪地下組織に対する対処能力を測る重要なリトマス試験紙となるだろう。
この告発は、既に支持率を大きく下げている政府の評価を低下させる可能性がある。
有権者の行動に関する予測としては、公正発展党(AKP)とその極右の同盟相手である民族主義者行動党(MHP)は国民の支持を失い続けている。
「この低下は回復不可能です。間違いありません」ドイツ国際安全保障研究所・応用トルコ研究センターの準会員であるシネマ・アダール氏がアラブニュースに語った。「ペッカー氏の主張は、この意味で、既に敗北しつつある両党の同盟へのさらなる一撃と言えます」
「しかし選挙での支持率以上に、このダメージは団結の観点で際立つものとなっています。与党AKPとMHPの共和同盟の内部には既に異なる派閥間の衝突や競争が存在しており、それを悪化させています」