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溺死した移民、チュニジアの墓地で「尊厳をもって」埋葬される

アルジェリア人アーティストのラチッド・コライチ氏、ヨーロッパでのよりよい暮らしを夢見て地中海を渡ろうとして溺れ死んだ移民たちのためにチュニジア南部に建てられた墓地にて。(AFP)
アルジェリア人アーティストのラチッド・コライチ氏、ヨーロッパでのよりよい暮らしを夢見て地中海を渡ろうとして溺れ死んだ移民たちのためにチュニジア南部に建てられた墓地にて。(AFP)
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10 Jun 2021 08:06:28 GMT9
10 Jun 2021 08:06:28 GMT9
  • 「アフリカの庭」は海で無残にも命を落とした者のための場所だ

チュニジア・ザルジス:ヨーロッパでのよりよい暮らしを夢見て地中海を渡ろうとし溺死した移民のためにあるチュニジア南部の墓地は、まだ正式に開園前なのにすでに半分埋まっている。

フランス語でアフリカの庭を意味する「ジャルダン・ダフリーク」(Jardin d’Afrique)は海で無残にも命を落とした人のための場所だと、同墓地を建設したアルジェリア人アーティストでありイスラム神秘主義スーフィー教徒のラチッド・コライチ氏は語った。

「ギャングやテロリスト」から恐喝され、定員オーバーの粗末な船に乗って、多くの移民が命を落とした。そんな移民たちに尊厳のある休息の場が与えられてしかるべきだ、とコライチ氏は述べた。「彼らにとって初めての楽園を味わわせてあげたいと思ったのです」と74歳の氏は続けて言った。

氏の作品には書をあしらった彫刻や陶芸などがあり、これまでヴェネツィア(ベニス)からニューヨークまで世界各地の展示会に出品されてきた。

2018年、氏は墓地建設のためにチュニジア南部、リビア国境近くの港町ザルジスに土地を買った。何年間にもわたり無数の移民たちが海越えに出発していった地域だ。

墓地はすでに200基以上の白い墓石で埋まり、イスラムの五行の象徴として5本のオリーブの木が、そしてイエスの十二使徒の象徴として12本の蔦が墓地を取り囲んでいる。

ナイジェリア・ラゴス出身のヴィッキーさん(26)は、リビアから何度かイタリアを目指したものの失敗し、歩いてチュニジアにたどり着いた。

「ヨーロッパに行くのが夢でした」と、墓地の地面を掃きながらヴィッキーさんはAFPに語った。「でも、その行程は地獄でした」

同墓地は水曜、国連の文化機関ユネスコのオードレ・アズレ事務局長により正式に開園が宣言された。

アズレ事務局長は「よりよい暮らしを求めて命を落とした漂流者たち」と、地中海で「人命救助にあたる組織や漁師その他の方々全員の連帯」に敬意を表した。

続けて事務局長は「人類の歴史の一部が刻み込まれたこの海には今日、悲劇が繰り広げられています」と述べ、「おざなりにされ、忘れ去られ」て死んだ者たちを悼んだ。

ここに埋葬された人の多くは現在も身元不明のままで、墓石に記された故人の情報は残酷なほどわずかなものだ。

ある墓石には「女性、黒いワンピース、ハチャニ海岸」と書かれ、故人が発見された場所が示されている。また別の墓石には「男性、黒いセーター、フォーシーズンズホテルのビーチ」とある。

「これを見てしまうと、私自身また海越えを試みたいかどうか、もうわかりません」と墓地清掃員のヴィッキーさんは言う。

チュニジアと隣国のリビアは移民にとって主要な出発地となっている。移民の多くはサハラ砂漠以南のアフリカ出身で、北アフリカ岸からヨーロッパ、特にイタリアを目指して危険な海越えを試みる。

5月初旬には国連の難民機関UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は今年少なくとも500人が地中海中央ルートを渡ろうとして死亡したと発表している。2020年同期の150人と比べて3倍以上の数字だ。

兄弟が地中海で水泳中に潮に流されたというコライチ氏は、自身の作品の一部を売って墓地建設資金に充てた。兄弟の遺体は発見されなかった。

「遺族が気持ちに区切りをつけるのを助け、大切な家族が尊厳をもって埋葬される場所があると知ってもらいたかったのです」と氏は述べた。

「ここはまた、象徴としての場所でもあります。無名兵士の墓のように」と、氏は世界各地に見られる戦死した兵士のための記念碑を挙げて語った。

17世紀に作られた木製の扉を開けると、地面には手描きの焼き物が並び、ジャスミンなどの花の甘い香りが満ちた墓地へと続く。

あらゆる宗教の礼拝者が祈りを捧げることができる礼拝堂の上には、白いキューポラが乗っている。

遺体安置所や、遺体の身元確認を行う監察医務室のためのスペースもある。

今のところ、戦火に引き裂かれたリビアの一家族が、身元確認された若い親戚の墓に祈りを捧げに訪れただけだ。

「ご遺体を故郷に連れ戻してはと尋ねると、お父上が『神はリビアを見捨て給うたのだ。こちらに置いてほしい』と仰いました」とコライチ氏は言う。

コライチ氏はイスラム神秘主義、スーフィズムのティジャーニー教団に属している。スーフィズムは北アフリカで起こり、アフリカの他の地域に広がった。

氏は漁港の当局が打ち上げた何十体もの移民の遺体の埋葬に苦労していると知り、ザルジスを「アフリカの庭」の建設地に選んだ。

自治体の作業員たちはこれまで、サハラ砂漠以南のアフリカやアジア、その他地域出身の移民たちの身元不明遺体を600体以上も埋葬した。砂っぽい、吹きさらしの市の古いごみ廃棄所に。

この埋葬地は2019年7月にさらに100体が到着した時点ですでに満杯で、自治体の受容能力を超えてしまった。

「アフリカの庭」で最初の墓が掘られたのはこのときである。美しい同墓地の建設作業すら始まる前のことであった。

それ以来―そして海を渡ろうとする人が増える夏には特に―ザルジスや周辺地域の海岸に打ち上げられた遺体が毎週、埋葬のために運び込まれている。

墓地では約200個の白いレンガが、空いている墓に一個ずつ置かれている。

コライチ氏は夏の終わりにはすべての墓が埋まるのではないかと危惧している。

AFP

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