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レバノンの麻薬取引、ヒズボラのカプタゴンとの繋がりを背景に急増

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06 Jul 2021 12:07:27 GMT9
06 Jul 2021 12:07:27 GMT9
  • 当局は、ベカー高原やシリアを製造元として急増する麻薬密売への対策に苦慮している
  • 経済危機、シリア内戦、政治上層部の毅然としない態度などが、麻薬密輸との闘いの敗因として挙げられている

ナジア・フサリ

ベイルート:レバノン治安部隊は、カプタゴン錠剤の製造所を突き止めるために過去数ヵ月で何十件もの作戦を実施するとともに、シリアとの海陸の国境を入念に監視して密輸ルートの特定に努めていると述べている。

しかしレバノンでは、経済破綻や政治的麻痺を筆頭とする複数の危機が重なる中で、薬物撲滅活動は苦しい戦いとなっている。

そして誰もが認識しながら口にしない問題が、ヒズボラだ。イランを後ろ盾とするレバノンの民兵組織ヒズボラは、口先では否定しながらも、活動資金を得るために違法薬物に手を出しているのだと多くの人々が疑っている。

カプタゴンはアンフェタミン製剤であり、中東の戦場で最も頻繁に使われる薬物のひとつだ。

この麻薬を常用する戦闘員らは、服用すると何日も眠らずにいることができ、感覚が麻痺するため、長時間の戦闘にもスタミナが得られ、奔放に人を殺害できるようになるという。

カプタゴンはまた、服用するとエネルギッシュになり幸福感が得られることから、嗜好用薬物として知られ、幅広い地域で人気がある。

4月にサウジアラビアの税関当局が、500万個以上のカプタゴン錠剤をザクロの積荷に隠してレバノンからサウジ国内に密輸しようとした企てを阻止して以来、犯罪組織はさらに「大胆」になっていると当局は述べている。 

カプタゴンを混入させたこの行為の発覚後、サウジアラビアは、レバノンの果物・野菜の積荷の国内への入荷と領土内の経由を一時的に停止した。

サウジアラビアの税関当局は4月に、500万個以上のカプタゴン錠剤をザクロの積荷に隠してレバノンからサウジ国内に密輸しようとする企てを阻止した。(SPA)

その際、レバノン当局は、「薬物が詰め込まれた積荷は、シリアからレバノンに入り、ジェッダの港に向けて出荷される前にベカー高原のある地域で再梱包されたものだ」と発表した。

発覚直後に、ベカー高原の使用されなくなった倉庫で再梱包したとして、シリア人兄弟2名がレバノンで逮捕された。しかし、この大規模な摘発も密輸業者たちを追い込むには不十分だった。

6月15日にはレバノンの国内治安部隊(ISF)が、電動ポンプの出荷物に隠した37.2㎏のカプタゴン錠剤をベイルートのラフィク・ハリリ国際空港経由でサウジアラビアに密輸しようとした別の試みを、阻止した。

首謀者とされる麻薬密輸歴のある無国籍者1名、シリア人1名、レバノン人1名の計3名が逮捕された。

3名は密輸ネットワークを構築していることを自白し、ベイルートに運ぶ積荷をシリアから受け取った事実を認めた。

だが、ISFが全力を尽くしたこの努力も十分ではなかった。サウジのジェッダ港の税関当局が6月26日に、別の大規模な麻薬摘発を発表し、レバノンから輸送された鉄板の中に隠されていた推定1400万個のカプタゴン錠剤が押収された。

犯罪組織の麻薬密輸計画はさらに「大胆」になっているとサウジ当局は述べている。(SPA/資料写真)

サウジアラビア薬物取締総局のムハンマド・アル・ヌジャイディ報道官は、この積荷に関連してリヤド地域のサウジ市民を逮捕したことを認めた。

6月29日にレバノン当局が、行先は同じくサウジアラビアであったカプタゴン錠剤の貨物を摘発した。10万錠に相当する17.4kgを押収したとISFは発表した。「医療用滅菌装置の中に巧妙に隠されていた」とのことであった。レバノン人2名とシリア人1名の逮捕が報じられた。

2020年7月には、イタリア警察とサレルノ港の通関業者が、ロール紙しか積載していないように見えた貨物トレーラーの中から、8400万個のカプタゴン錠剤を発見した。

情報当局は、推定11億ドル相当のこの薬物は、シリアのバシャール・アサド政府が支配する地域の工場で製造されたものであると結論づけた。

「このアンフェタミン製剤は、イラン専用の港湾施設があり、親イラン勢力ヒズボラの密輸活動の拠点として知られる、沿岸都市ラタキアからシリアを出発した」とワシントンポストが伝えた。

2020年7月、イタリア警察とサレルノ港の通関業者が、ロール紙しか積載していないように見えた貨物トレーラーの中から、8400万個のカプタゴン錠剤を発見した。(AFP/イタリア財務警察配布の資料写真)

ヒズボラは薬物密輸への関与を強硬に否定しているが、ワシントンポスト紙の記事には、米国や中東のアナリストたちの次のような言葉が載っている。「米国からの制裁、新型コロナウイルスの流行、レバノンの経済破綻を原因とした極度の財政逼迫に直面するヒズボラは、活動資金を調達する手段として、麻薬密売などの犯罪活動にますます依存しつつあるようだ」

レバノンのハテム・マディ元検察官は、「カプタゴン錠剤は、密輸が容易で迅速に取引できることから活発になったのです」とアラブニュースに語った。

「これは需要と供給の問題です。シリアの内戦が、密輸業者や麻薬密売人たちに門戸を開いてきたことは間違いありません」

実際のところレバノンは、シリアで製造されたカプタゴン錠剤の密輸の主要ルートになっている。シリアが2011年に内戦に突入する以前からレバノン武装勢力は、シリアの国土をマリファナの栽培・密輸による何百万ドルもの資金調達の場所として使っていた。

「カプタゴンはシリア国内の、特にホムスやアレッポで製造されています」とレバノン司法警察元長官のアンワル・ヤヒヤ准将はアラブニュースに語った。

「シリアで発生している事件を見ると、いくつかの工場は、アンチレバノン山脈の中のレバノンとシリアの国境付近や、クセイルやトゥフェイルなどの地域にある村々へと移っています」

イタリア警察の発表によると、麻薬として押収した8400万個のカプタゴン錠剤は約10億ユーロの価値があり、これは「アンフェタミンの押収としては世界最大規模」であるという。(AFP/イタリア財務警察配布の資料写真)

欧米の情報アナリストらによると、ヒズボラの工作員がカプタゴンの製造に着手したのは10年以上前だが、中東の紛争でヒズボラの関与が拡大するにつれ、この薬物が注目を浴びるようになったという。

「ヒズボラがカプタゴン錠剤の製造に関わっているのかどうかという質問ですか。それは答えるには司法当局や治安当局からの情報が必要になります」とヤヒヤ氏はアラブニュースに語った。

「しかし、レバノンの司法当局は沈黙しています。これは恐怖からなのか、あるいは司法当局は何かを隠しているのでしょうか。私には分かりません。しかし我々は捜査を認識しており、誰が関与しているのかを知っています」

疑うべくもないのは、シリアとの国境のベカー高原はヒズボラの温床であるという事実だ。ヒズボラはこの地域の高地に訓練キャンプを所有しており、シリアとの独自の国境検問所を管理し、そこで彼らはアサド政権を支援するために介入をしてきた。

ベカー高原でカプタゴン関連の容疑でレバノン当局に逮捕された最も有名な人物は、ハサン・ダコウ氏だ。「カプタゴン王」の異名をもダコウ氏は、シリアとの国境に近いヒズボラが支配するトゥフェイルに、ビジネス上の利害関係をいくつも持っていた。

しかし、現地の土地を巡る係争の後にダコウ氏は、この地域にカプタゴン工場を設立し、ギリシャやサウジアラビアに薬物を送る密輸ネットワークを監督しているとの容疑で、レバノン軍に引き渡された

「ダコウ氏は、ヒズボラや、シリアのアサド大統領の兄弟であるマーヘル・アサド氏率いる第4機甲師団などとの繋がりを持っています」と未来運動党の国会議員であるムハンマド・アル・フジャイリ氏はアラブニュースに語った。

2020年初頭からは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イタリアに加え、エジプト、ギリシャ、ヨルダンでも、カプタゴンの偽造品や他の違法薬物が押収されている。欧米の法執行機関は、シリアとヨルダンの国境から中欧や南欧までの麻薬摘発を、明確にヒズボラと関連づけている。

だがヒズボラにとって、薬物の製造や密売をすることにどのような利益があるのだろうか。

「政治的、イデオロギー的背景を持つ特異な密売人もいるのです」とISF元長官であり後にレバノン司法大臣を務めたアシュラフ・リーフィ氏はアラブニュースに語った。「彼らは損益を基準に活動しているのではありません。彼らには政治目的があり、つまりは、敵対する相手社会を標的にしているのです」

欧米の薬物取締当局は、ヒズボラが麻薬取引から利益を得ていることを確信している。欧州刑事警察機構は2020年に、ヒズボラのメンバーは欧州の都市を、「薬物やダイヤモンド」を取引してその利益の資金洗浄をするための拠点として使っていると警告する報告書を発表した。2018年には米国務省が、ヒズボラを国際的犯罪組織のトップ5に挙げた。

ベイルートのレバノン国内治安部隊(ISF)麻薬対策部の事務所で、コカインの入ったカップとともにカプタゴン錠剤が展示されている。(AFP/資料写真)

薬物取引が武器として使われるようになっているか否かに関わらず、レバノン政府が多くの時間とリソースを費やすことになっているのは確かだ。ある治安部隊関係者によると、治安部隊が近年実施してきた対策で1万5000人以上の逮捕に繋がったという。

密輸する薬物の量や、密輸行為やその標的に関する大胆さという点で、国際刑事警察機構の歴史中でも異例なレベルの摘発が続いたとリーフィ氏は述べた。

「製造と密輸に関して、ヒズボラとシリア側との間に協力関係がありますが、その一方で、両者のうちの一方だけが単独で密輸行為を行うこともあります」と彼は述べた。

「レバノンからの麻薬密輸の撲滅に向けた取り組みには、分別のある政権を要します。ヒズボラに媚びる腐敗政権は、問題に対処する振りをしているだけであり、実際に人々や国家利益を守っているとは言えません」とリーフィ氏は付け加えた。

レバノンの薬物対策部隊は、極めてリソースが不足した活用し辛い部隊であり、片手で闘っているようなものだ。

シリアやレバノンで大規模な薬物の摘発が相次いだことで、シリア内戦の混乱時に蔓延した違法薬物であるカプタゴンの取引に、新たな注目が集まっている。(AFP/資料写真)

「残念なことに、司法警察の麻薬取締部は、関連する人物やネットワークの写真や指紋を含む何十年分もの資料を持っているにも関わらず、脇に追いやられているのです:と彼はアラブニュースに語った。

「代わりにこれらの事件を扱う組織は、ISF情報部、税関、軍や、こうした問題の管轄権をもたない人々なのです」

ヤヒヤ氏は、レバノン当局が、空港や港湾の国境取り締まりを厳格化し、国境管理職員にスキャナーを装備させ、薬物取締部を職務に就かせて彼らに必要なツールと職員を供給することを望んでいる。

より大きな視点で言えば、レバノンは国の経済破綻に対処し、国の治安部隊の職員を支えられるだけの力をつける必要があるということだ。職員たちにも家族を養う必要があるのだから。

「新政府樹立の遅れが、治安部隊や軍の職務の発動を妨害する大きな、そしておそらくは一番の障害になっています」と彼は述べた。

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