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ウクライナ紛争におけるソフトパワーの役割

ロシアのプーチン大統領、指揮者ヴァレリー・ゲルギエフ氏、ソプラノ歌手アンナ・ネトレプコ氏。(ゲッティイメージズ)
ロシアのプーチン大統領、指揮者ヴァレリー・ゲルギエフ氏、ソプラノ歌手アンナ・ネトレプコ氏。(ゲッティイメージズ)
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04 May 2022 04:05:55 GMT9
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ロシア出身のソプラノ歌手、アンナ・ネトレプコ氏が先週、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場の「トゥーランドット」を降板し、ウクライナ人のリュドミラ・モナスティルスカ氏が代役を務めると報じられた。また、ソーシャルメディア上では先月初め、ロシア人インフルエンサーがシャネルのハンドバッグを切り刻み、ブランドが「ロシア嫌い」であることに抗議したという話が流れた。このような例は、明確な政治的・経済的制裁だけではなく、「ソフト」面での制裁が拡大していることを示している。つまり、ウクライナ危機は、ファッション、音楽、アートといった文化的ツールまでも巻き込んでいるのだ。

一般的にも個別具体的なケースでも、ソフトパワーの力をどのように測定するかが問題となる。

ウクライナ危機の状況下において、ソフトパワーによる制裁が政治的目標の達成に向けてどの程度有効なのかという疑問も浮かぶだろう。また、現在のソフトパワーによる制裁措置は、ソフトパワーに関する理論をどのように反映しているのだろうか。

「ソフトパワー」という概念は、米国の理論家ジョセフ・ナイ氏が、米国の「強制ではなく、魅力によって望む結果を得る」試みについて分析する中で紹介した理論である。ナイ氏は、ソビエト連邦の崩壊と、世界唯一の超大国としての米国の確立に貢献したソフトパワーの例を提示した。

1990年代に起きた対立と現在起きている対立の間には、類似点もあるが明確な違いもある。特に、積極的なセルフ・プロモーションと、相手にダメージを与えようとするソフト・サンクションという違いである。ソフトパワーという概念をどのように理論化するのがベストなのか、また、これまで起きた事例をすべて包含できるほど広範に理論化することが許されるのかという点については、疑問符がつく。

ソフトパワーの背景にある重要な考え方は、相手の心を掴むということである。ソフトパワーは政治的思想、文化、そして外交政策の3つのリソースが基となる。ハーバードやマクドナルド、アップルに代表される「アメリカンドリーム」は、アイデア、モダンさ、卓越性、独自性の点で世界を席巻し、人々はこれらの組織が生み出すトレンドを追いかけたいと願う。

ナイ氏は、ソフトパワーがどのように作用するかをこう説明した。「取り込む力、つまり他者が望むものを形にする能力は、自国の文化や価値観の魅力に依存する。」つまり、その国の文化や価値観が反映された製品によって他者を惹きつけるべきであるという主張である。1990年にマクドナルドがロシア初の支店をモスクワにオープンしたとき、何百人もの人が初めてのビッグマックを手にするために店に行列をなした。

このようなイメージは、望まれる物を提供しているように見える一方で、通常ハードパワーと関連付けられる、破壊と強制といった目的も兼ね備えている。経済制裁を含むハードパワーには、確立されたソフトパワーを低下させて説得力を損ねるという緊張関係がある。このような政策は、世界の多極化を助長し(この場合、ロシアの行動の主な目的に資する)、対象とする国に自国で生産したものを利用させたり、「友好国」の価値観(あるいはブランド)を歓迎させたりするように仕向けて分断を生み出す。つまり、ソフト・サンクションは取り込む力としての機能は果たしておらず、ソフトパワーが持つ「心を掴む」という発想や原理が自動的に薄れてしまうのである。

同様に、今回のウクライナ危機は、欧米のリベラルな価値観というソフトパワーが、他の地域に対して、つまり中東に対しては少ないという議論を生み出している。ヨーロッパ各国においてウクライナ難民が歓迎されたことは、それ以前のシリアやその他の中東地域からの庇護希望者に対する扱いとかなり対照的である。2015年の難民危機以来、100万人以上の庇護希望者がポーランドやハンガリーとのベラルーシ国境を経由してEU域内に入ろうと試みた。これに対し、ポーランド政府とハンガリー政府はフェンスを設置し、難民の受け入れを拒否した。その結果、多くの亡命者(主に中東出身の亡命者)が氷点下の国境付近の森の中で、十分な医療支援も受けられないまま立ち往生するという結果になった。

ソフトパワー、つまり芸術、音楽、教育、ファッション、映画、美術、そして価値観などのハイカルチャーや大衆文化は、今回の紛争において何らかの役割を果たしているだろうか。おそらく、これまで我々が目にしてきたような形態ではないかもしれない。文化は芸術家や音楽家が自分の考えを表現するのに役立つものだが、その役割とは通常、希望と平和のメッセージをもたらす手つかずの美しさを人々と共有し、人々を団結させることにある。

ソフトパワーという考え方は、分断を生むことではなく、人を惹きつけることと結びついている。よって、ソフトパワーの目的を達成するためには、政策の在り方を変える必要があるようだ。核兵器使用の可能性も含め、世界がますます激しい対立へと移行している今、ソフトパワーの有効性は、分断を生むことではなくむしろ解決策を生むことにある。それが、この紛争解決を前進させる唯一の方法である。

世界がますます激しい対立へと移行している今、ソフトパワーの有効性は、分断を生むことではなくむしろ解決策を生むことにある。

ディアナ·ガリエヴァ博士

外交政策、特に外交活動の重要な要素の一つは、ソフト的なアプローチによって危機に打ち勝つルートを見出すことである。関係者全員が納得する共通点や外交的解決策を見出すには遅すぎると思われる場合でも、世界の国々は外交が持つソフトパワーをより積極的な姿勢でとらえ、すでに起きている対立に納得できる終着点を見出すことを目指してはどうだろうか。このような相違を埋めることに成功した国は、自国のソフトパワーを新たな道で拡張する機会を得ることができるのだから、これは単なる利他主義というわけではない。

ソフト・サンクションは、国内市場に強力な効果をもたらし、国民に政敵への敵対心を抱かせることができる力があるかもしれない。しかし、そのような制裁は協力や対話を生み出すこととは全く異なるものである。協力や対話は、いくら公演を中止させたり、ハンドバッグを破壊したりしても達成できるものではない。

  • ディアナ・ガリエヴァ博士は、オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジのアカデミックビジターである。「Qatar: The Practice of Rented Power」 (Routledge, 2022)と 「Russia and the GCC: The Case of Tatarstan’s Paradiplomacy」 (I.B. Tauris/Bloomsbury, 2022)の2冊の著書がある。また、コレクション 「Post-Brexit Europe and UK: Policy Challenges Towards Iran and the GCC States」の共同編集者を務める。ツイッターアカウント:@diana_galeeva
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