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誕生日プレゼント:イスラエルの女性がガザの少年に腎臓を提供

幼稚園の先生を務めるイディット・ハレル・シーガルさんは、自身の選択が永続的な紛争の地で寛大さの模範となることを望んだ。(AP)
幼稚園の先生を務めるイディット・ハレル・シーガルさんは、自身の選択が永続的な紛争の地で寛大さの模範となることを望んだ。(AP)
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28 Jul 2021 07:07:33 GMT9
28 Jul 2021 07:07:33 GMT9
  • 『あなたは私のことを知らないが、私の腎臓があなたの体の中に入るので、すぐに私たちはとても近しくなるでしょう』

イスラエル、エシュハル:イディット・ハレル・シーガルさんは50歳になり、あるプレゼントを贈ることにした。自分の腎臓の1つを見知らぬ人に提供することにしたのだ。

誇り高きイスラエル人で、イスラエル北部で幼稚園の先生を務める彼女は、自身の選択が永続的な紛争の地で寛大さの模範となることを望んでいる。彼女は、ホロコーストを生き残り、意味のある人生を送ることを教えてくれた亡祖父の思い出、さらには命を救うこと以上に崇高な務めはないというユダヤ人の伝統に触発された。

そこで、シーガルさんはドナーとレシピエントをつなぐグループに連絡を取り、腎臓を必要としている人に彼女の腎臓を移植するための9か月にわたるプロセスを開始した。

そのレシピエントはガザ地区に住む3歳のパレスチナ人の少年であることが判明した。

「あなたは私のことを知らないが、私の腎臓があなたの体の中に入るので、すぐに私たちはとても近しくなるでしょう。この手術が成功し、あなたが長く健康で有意義な人生を送れることを心から願っています」と、シーガルさんはヘブライ語でその少年に手紙を書いた。その少年の家族は、イスラエル人との協力に対する過敏性を理由に、名前を明らかにしないよう依頼した。少年の家族が理解できるよう、1人の友人がその手紙をアラビア語に翻訳した。

11日間戦争の直後、「私は怒りと失望を捨て、たった1つのことを望んでいます。平和と愛に希望を抱いています」と彼女は書いた。

「そして、私たちのような人たちがもっといれば、なにかをめぐって争うことはありません。」

シーガルさんの決意から6月16日の移植までの数か月にわたって展開されたことが、家族に深い亀裂を引き起こした。彼女の夫と3人の子供で最年長の20代前半の息子は、彼女の計画に反対した。父親は彼女と話をするのをやめた。

彼らからしてみれば、シーガルさんが不必要に命の危険を冒しているように思えたのだと、彼女は回想した。パレスチナ人による攻撃で彼女の父親の両親を含む3人の親戚を失っていたことで、移植はいっそう難しいものとなった。

「私の家族は本当に移植に反対していました。夫、私の妹とその夫など、全員が反対でした。そして、最も支持してくれなかったのは父でした。彼らは怖かったのです」と、シーガルさんはエシュハルにある山頂の家で最近行われたインタビューで語った。

彼女は少年の身元を知ると、その詳細を何か月も自分の中に留めておいた。

「誰にも言いいませんでした。腎臓提供に対する反応がとても厳しいのであれば、パレスチナ人の少年が腎臓の提供を受けるという事実は、間違いなくそれ以上に厳しい反応になると自分に言い聞かせました」とシーガルさんは回想した。

イスラエルは、同国の存在に反対するイスラム過激派グループであるハマスが、2007年にガザ地区の支配権を掌握して以来、ガザ地区をきつく封鎖してきた。

それ以来、両者は4つの戦争を戦い、イスラエルへの入国を許可されているガザ地区居住者はほとんどいない。長年の紛争と封鎖によってガザ地区の医療制度は荒廃し、イスラエルは人道上の理由で高度な治療を必要としている少数の患者に入国許可を与えている。

エルサレムの非政府組織であるマトナット・カイムが移植の調整を行ったと、同グループのシャロナ・シャーマン最高責任者は話している。

このガザ地区の少年の件は複雑なケースであった。プロセスをスピードアップするために、息子の腎臓と適合しなかった父親は、イスラエル人のレシピエントに腎臓を提供するならば、少年は「すぐにリストの一番先頭になる」と病院から伝えられたとシャーマン氏は語った。

息子が新しい腎臓を受け取った同じ日に、父親は自身の腎臓の1つを提供した。相手は2人の子を持つ25歳のイスラエル人であった。

一部の国では、ドナーが強要されているのではないかという疑念が生じるため、臓器の相互提供は認められていない。臓器提供の全体的な倫理は、提供者が自身の自由意志で提供し、見返りに何も得るべきではないという原則に基づいている。

イスラエルでは、この父親による臓器提供は、提供者を増やすインセンティブと見なされる。

シーガルさんからしてみれば、家族の中に大きな対立を引き起こしたこのプレゼントで、自身が望んでいた以上のことを成し遂げられた。彼女の腎臓は、少年の命を救うのに役立てられ、2人目の臓器提供を生み出し、世界で最も手に負えないレベルの紛争で絶え間なく戦うグループのメンバー間に新しいつながりを確立した。彼女は、手術の前夜に少年を訪ね、今でも少年の両親と連絡を取り合っていると話した。
シーガルさんは、5年前の祖父の死の悲しみを乗り越えるのに役立つ形で祖父を称えたと語った。臓器提供は自主的な行為であり、その決意は揺らぐことがなかったと彼女は言った。そして最終的には彼女の家族も態度を変えた。おそらくそれ自体が、彼女にとってのプレゼントであった。

彼女は、夫も子供も今ではより理解を示していると語った。そして、シーガルさんの手術の前夜に父親から電話があった。

「父は泣いていたので、何を言ったか覚えていません」とシーガルさんは言った。そして彼女は、自分の腎臓がパレスチナ人の少年のものになると父親に伝えた。

しばらくの間、沈黙があった。そして、父親は「ああ、彼にも命が必要だ」と言った。

AP

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