
ナジャ・フーサリ
ベイルート:レバノンの経済危機に伴い、同国で暮らす夥しい数のシリア人労働者が故国へ帰還している。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の最新調査によると、レバノン国内のシリア人難民の数は85万1717人にまで減少している。但し、レバノン政府は、2015年からUNHCRがシリア人を「難民」として登録することを認めていない。
国政が機能していないことで経済はさらに破綻し、この経済危機が、レバノン人とシリア人難民との対立も発生させている。ナジーブ・ミカティ首相候補は現時点で、長年続く一連の障害を克服して新政府を樹立することができずにいる。
その結果、シリア人の労働者や難民たちは物価の高騰に苦しんでおり、世界銀行は現在のレバノンの状況を、19世紀中期以降における世界3大経済危機のひとつに位置付けている。
ベイルートの住宅街でアパートの管理人を務めるマハムードさんは、2005年にシリアからレバノンに移住し、6人の子供がいるという。
月々の給与とアパートの住人からの援助でやり繰りしているが、大幅な物価の高騰で、もう家族を養うことができないと語った。
マハムードさんはもうこれ以上レバノンに住み続けることはできないため、同じくレバノンで働いていた親類が帰国し、彼にもそうするよう勧めてきたこともあり、シリア北部のマンビジへ帰る決心をした。
リサ・アブ・カーレドUNHCR報道官はアラブニュースに対し、「レバノン国内のあらゆる社会と同様、難民は、この国に影響を及ぼしている複合的な危機や重大局面による深刻な影響を受けています……約90%が極めて貧困な状況で暮らしており、その日その日を生きながらえるために、食事を抜いたり、緊急を要する治療を受けずに済ませたり、子供を働かせたりなど、困難な選択を余儀なくされています」と語った。
「過去18ヵ月でレバノン通貨の価値は85%以上落ち込み、最も貧しい地域が最も深刻な煽りを受けています」と同報道官は指摘した。
アブ・カーレド氏はまた、「すべての地域で言えることですが、レバノンのシリア人難民が置かれた状況は、経済破綻のかなり以前から非常に厳しいものでした。その状況が、現在ではさらにあり得ないものとなっています」とアブ・カーレド報道官は付け加えた。
数年前に、無数のシリア人がレバノンへ不法入国した。しかし難民たちは今、現在の経済的な逼迫に耐え切れずにひっそりと帰国した家族もいるという話をしている。
『シリア難民の声』のレバノン報道官アブ・アハメド・ソアイバ氏によると、UNHCRはこのところ、賃貸住宅に住むシリア難民から、レバノンの難民キャンプ内にテントを張らせて欲しいとの要望を150件以上受けているという。
「家主は難民に対して、ドルで支払うか、あるいはレバノンポンドであれば、闇市場の日々の為替レートで換算した額を支払うよう要求しているといいます。失業中の難民が、どこで工面して単なるワンルームアパートの家賃に150万ポンド(995ドル)もの額を支払えるというのでしょうか」と彼女はアラブニュースに語った。
ソアイバ報道官はさらに次のように語った。「レバノンで最大の難民集団が住むアルサルの町で、29日深夜、あるシリア人難民が、自分のテントから出てヒステリックに叫び出しました。自分はもう妻や子供に食事を与えることができないから、家族のいるテントを燃やして自殺したいと彼は言いました。死のほうが無力よりも立派だと彼は叫んでいました」
国連の報告書では、レバノン国内で暮らすシリア人難民の家庭の半数が食料不足に苦しんでいると警告している。
ソアイバ報道官の話によると、あるシリア人女性が、背中に重度の障害を持つ息子を医師に診断してもらうためにベイルートへ連れて行ったという。
「彼女は戻ってくると、キャンプの中央で泣き出しました。ベイルートまでの往復移動に70万ポンドを費やした挙句、医師からは、自分にできることは何もないと言って別の専門医を紹介されたそうです」
シリア難民危機への対応計画の一環として国際機関から難民が受け取る支援額は、その価値が69%減っている。
1人当たり約10万レバノンポンドにまで減った。
難民は1人27ドルを受け取るが、銀行はそれを1ドル3900ポンドというレートで、レバノンポンドで支払っているのだ。
ベカーに住むある難民は次のように語った。「自家発電機の所有者は、1アンペアー当たりの契約料を5万5000ポンドから22万ポンドに値上げしました。こんな料金を支払えば、パンを1包みも買えなくなってしまいます。ビニールテントの中での暮らしは地獄と化しています」
多くのシリア人難民は、深刻な経済危機の煽りを受けているレバノン国民と同様に、医療や教育の支出を減らすことでこの状況に対応しようとしている。
シリア人たちの児童就労や女性の早期結婚という現象も増加している。
シリア人の「難民」はレバノンで合法的に働くことができない一方で、シリア人の「労働者」は、建設、農業、清掃サービスの分野で特定の仕事に就くことが許されている。
レバノンは、世界最多の難民を受け入れている世界最小国のひとつだが、レバノン当局は彼らを正式に「難民」と認めるのを拒否して「避難民」と呼び、彼らのシリア帰還を促進するよう国際社会に訴えかけている。
彼らの多くが搾取や人種差別を受けていることを何人かが明らかにしている。
ソアイバ氏は次のように語った。「シリア人難民たちは、移動手段をタクシーよりも安いオートバイに頼っています。彼らはこのところ、ガソリンスタンドで侮辱的な扱いを受け、サービスを断られたり、設定した価格以上の値段を強いられたりしています」
28日には、ベカー地域西部のカウカバの町で、若者住民とシリア人たちとの間で論争が起きた。
この論争が、武器を用いた喧嘩へと発展し、レバノン人の若者2人が重傷を負った。
900人近くのシリア人難民が長年暮らすこの町の状況は、軍の情報・治安機関の介入を必要とするほどの緊迫が続き、これ以上の激化を避けるために、早朝まで町は包囲されていた。
カウカバ住民は町民全員の声として、シリア人家族たちに数時間以内に町を出ていくよう求めた。
大多数が農業や建設部門で働く難民たちの多くは、家を明け渡し、持ち物を町の外へ運び出した。
緊張は、レバノン国民とシリア人との対立に限らず、多くのレバノン国民同士の間にも蔓延している。
29日、シドンの東に位置するマガダウシェイの住民たちと、隣接するアンコウンの町民たちとの間で、マガダウシェイのガソリンスタンドからの燃料入手に関する揉め事が起こり、新たな対立が再燃した。
この緊迫関係は、2つの町の宗派間衝突の様相へと化し、シーア派の若者集団がキリスト教派の町であるマガダウシェイを襲撃した後、それに対する報復も発生し、数人が負傷した。29日夜、政治家や宗教家たちが話し合いを持ち、事態は落ち着きを取り戻した。