
イスタンブール: タイイップ・エルドアン大統領が今月裁判所施設を新設した際、トルコの大物聖職者がその式典の閉幕の合図としてイスラム教の祈りを捧げた。これに対して、世俗主義を定める憲法違反である、と反対派から抗議の声が上がった。
演説においてアリー・エルバス師は「神よ、この素晴らしい仕事を我が国の恵みとさせたまえ」と述べ、多くの裁判官たちは「(神が)指令した正義をもたらすために働いてきた」と付け加えた。
9月1日にアンカラで開催された式典へのエルバス師の出席とそのコメントに対する多くの反対派による抗議活動は、国営宗教団体代表である師の存在感が国内で高まっており、エルドアン政権下で師が影響力を強めていることの現れである。
親イスラム主義を主軸とする公正発展党AKP出身の大統領は近代トルコ建国の父ムスタファ・ケマル・アタテュルク氏が定め数十年間続いた宗教に対する様々な規制を否定し、イスラム教を政治舞台の中央へと進出させてきた。
昨年エルバス師は、イスタンブールにあるもともとはビザンティン帝国時代の教会をもとにした博物館であり、その後モスクに改築されたアヤソフィアにおいて、初めて説法を行なった。征服によって支配したモスクにおける説法師の伝統であるとして説法の間師の手には剣が握られていた。教会はオスマン帝国軍により1453年征服されたものだ。
大統領が手掛ける国営教務理事会ディヤーナトは独自のテレビ局を開局しており、現在新たな人員30名を募集している。すでに平均的な省庁に匹敵する規模であるその予算は、来年には25%拡大し161億リラ(約18億6千万ドル)になると政府の統計は示している。
エルドアン大統領は先週、ディヤーナトにおけるエルバス師の任期を延長して彼に対する支持をさらに強めた。師は月曜日には再びニューヨークでエルドアン大統領と行動を共にし、現地のトルコ外交官らの本拠地となる高層ビルの開業式典において礼拝を捧げた。
エルバス師の影響力が強まることは、トルコ共和国の世俗的憲法に反する、とエルドアン大統領の政敵らは唱え、大統領が2023年に予定される総選挙に先駆けて下落傾向にある自身の支持率の高揚に宗教を利用している、と訴える。
「AKPが教務理事会を政治利用することは全く許されることではない」と語るのは野党好い党IYIの副党首バハディール・エルデム氏だ。
「アリー・エルバス師が国家を分断するような声明を繰り返し発表する理由が、そのことが宗教に敏感な人々の票を得ることができるのを政権が利用するためであることは明らかである」と彼は語る。
ディヤーナトの台頭の他にも、エルドアン政権下における宗教的な「イマーム・ハティプ」学校の校数の急激な増加、ここ10年におけるモスク数の10%増加、政府機関内における頭を覆うイスラム式スカーフの解禁、以前は世俗主義の稜堡とまで言われていた強力なトルコ軍部の掌握に世俗派たちは頭を抱えている。
ディヤーナトをめぐる批判に対して大統領府は、100年前当時新開設されたトルコ国会議事堂の外で開かれた式典において、アタテュルク氏がイスラム教聖職者の横に立って祈りを捧げる写真を共有し、世俗国家の父ですら宗教に対して政治と共存する空間を与えていたことを示唆した。
世俗主義派の中心的存在である野党共和人民党 (CHP) は、問題が山積みであるトルコ経済から世間の目を逸らすためにエルドアン大統領がエルバス師を意図的に利用している、と非難する。
「彼は教務理事会の理事長をチェスの駒のように扱っている」とCHP広報ファイク・オズトラク氏は言う。
トルコ憲法ではディヤーナトは世俗主義の原則に従い政治的見解を表明することなく活動しなければならないことを定めている。
2017年に就任した神学教授出身のエルバス師は批判に対する直接の言及は避けており、自身の役割は宗教的な手引きに限られていると語る。
「憲法に定められる『宗教についての社会の啓発』の義務に則って、私の理事会はイスラム教の真理という最も正しい行いを国民に伝えるために努力している」と師は先週演説した。
エルドアン大統領の傍にエルバス師が頻繁にいることは「トルコ政府内におけるスンニ派イスラムの役割がより重要になっている」ことを現している、とワシントン近東政策研究所長ソネル・チャガプタイ氏は語る。
「アタテュルクによって確立され、その後継者たちによって守られてきた宗教と政府、および宗教と教育を隔てる世俗主義の防火壁は完全に崩壊した」と彼はいう。
エルバス師は過去にも論争を招いてきた。昨年彼が、同性愛主義は病気を発生させる、と示唆したことが、表現の自由をめぐるエルドアン氏率いるAKPとトルコ弁護士会の衝突を引き起こした。
だが師はエルドアン大統領の同盟者である国家主義者デヴレト・バフチェリ氏の支持を得ている。
バフチェリ氏は「トルコはムスリム国家である」と語る。「国家的および精神的価値観と縁を切った不道徳な人々のイスラム教に対するアレルギー反応は治療法のない臨床例である」
ロイター