ナジャ・フーサリ
ベイルート:レバノンのミシェル・アウン大統領は29日にダル・アル・ファトワを電撃訪問し、国内のイスラム教スンニ派の最高権威「大ムフティー」シェイク・アブデル・ラティフ・デリアン師と面会した。レバノンでは、政治プロセスをスンニ派がボイコットするとの懸念が広がっている。
アウン大統領は「スンニ派コミュニティーがレバノンの統一と政治的多様性を維持する上で果たす役割、他の全宗派と共に国民生活・政治生活・レバノンとレバノン国民の未来を決めるすべての選挙に参加すること」の重要性を強調した。
「総選挙は予定通り実施する準備が進んでおり、延期する理由はない」と付け加え、「スンニ派コミュニティーの参加が不可欠で、総選挙ボイコットは支持しない」と強調した。
アウン大統領のダル・アル・ファトワ訪問について、政治評論家たちは「不治の病を治そうという試みで、影響力に乏しく、手遅れ」と評した。
レバノンのフアード・シニオラ元首相に近い情報筋は、アラブニュースにこう語った。「アウン大統領が、次期首相に指名したサアド・ハリーリ氏の組閣に向けたあらゆる取り組みを妨害した時に、スンニ派コミュニティーは取り返しのつかない屈辱を受けた。アウン大統領はハリーリ氏をさらに侮辱し、嘘つき呼ばわりした。
「アウン大統領とヒズボラが、サウジアラビアを軽視する姿勢を取った結果、レバノンと湾岸諸国の関係にも亀裂が生じた。今さらダル・アル・ファトワに頼っても無意味だ」
ナジーブ・ミカティ首相は28日「スンニ派は5月の総選挙をボイコットしない」と宣言した。スンニ派が最も重視するのは、国家と国家機関を着実に機能させ続けること、そして総選挙を予定通り実施することだ」
その数日前に、議会でスンニ派コミュニティーの多数派を代表する「未来運動」の党首ハリーリ氏は「政治活動を一時停止する。行政・議会・従来型の政治におけるあらゆる直接的な役割を担うことを一時停止する」と発表した。
ミカティ首相はこう述べた。「ハリーリ氏が総選挙出馬に嫌気がさしたと発表したのは事実だが、我々はスンニ派のボイコットなど求めておらず、出馬したい者は全員出馬すべきだ。スンニ派が総選挙に参加する可能性は非常に高い」
ハリーリ氏率いる「未来運動」は、レバノンの15のうち10の選挙区で大きな影響を持っている。ハリーリ氏が政治活動の一時停止を決断した理由は「イランの影響力・国際社会の困惑・国家の分断が明らかな現状では、レバノンが前進する見込みがない」と確信したからという。
ダル・アル・ファトワの情報筋はこう述べた。「デリアン師は、スンニ派有力者とともにスンニ派を団結させ、手遅れになる前に混乱を収拾し、ヒズボラを支援するイランの影響力に対決する決意を固めた」
シニオラ元首相に近い情報筋はこう述べた。「スンニ派の政治活動ボイコットには何の意味もない。そうなったら対抗勢力が消えて、ヒズボラのやりたい放題になる。さらにヒズボラは、選挙でスンニ派に割り当てられた議席に都合の良い人物を指名でき、総選挙で勝利して自分たちの思い通りに国を動かせるようになる」
ハリーリ氏の演説から3日たった28日夜、兄のバハー・ハリーリ氏は「父親の故ラフィーク・ハリーリ元首相の遺志を引き継ぐ」と宣言した。
2005年に父親が暗殺された後、政界から遠ざかり弟のサアド氏に政治の道を譲ったバハー氏(55歳)はこう述べた。「最初に強調しておくが、宗派・道徳心・育ちのいずれを理由にしても、殉職したラフィーク・ハリーリ元首相の息子として責任を放棄することはできない。我々息子たちはあらゆる力を合わせて、レバノン再生のために尽くす」
こう付け加えた。「殉教者ラフィーク・ハリーリの家族が… 崩壊することはない。我々は共に力を合わせて、祖国を取り戻し占領者から祖国の主権を回復するための戦いを続ける」
バハー氏はレバノンのスンニ派コミュニティーが権力を失うとの偽情報で得をするのは国家の敵だけだと強調し、こう付け加えた。「私自身が所属するレバノンの最大宗派が権力を失うと警告を発しているのは誰なのか」