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イラクで深刻化する水不足が人々の暮らしと発展を脅かす

国連は、気候変動に対する脆弱性を持つ国として、イラクを世界第5位に分類している。イラク政府の調査によると、現在、国土の約40%が砂漠化しており、多くの土地は塩分濃度が高く、農業に適さないことが明らかになっている。(AFP)
国連は、気候変動に対する脆弱性を持つ国として、イラクを世界第5位に分類している。イラク政府の調査によると、現在、国土の約40%が砂漠化しており、多くの土地は塩分濃度が高く、農業に適さないことが明らかになっている。(AFP)
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13 Apr 2022 04:04:16 GMT9
13 Apr 2022 04:04:16 GMT9
  • 水量が減少した結果、2大河川の水位は過去最低水準にまで低下
  • 近隣諸国がチグリス川とユーフラテス川の水源にダムを建設、問題は悪化している

ナディア・アル・ファオール

ドバイ:イラク全土で、何世紀にもわたる苦難、混乱、干ばつの中でも当たり前のように利用され、頼りにされてきた水源が脅威にさらされている。その結果、この国の多くの人々が、生活の糧を得るためにかつてないほどの困難に直面している。

紛争、汚職、失政、地域の政治的対立が重なり、イラクの人々は慢性的な水不足に直面している。これは農業、経済、市民の健康に深刻な影響を及ぼしており、多くのコミュニティの存続が疑問視されているほどである。

かつてチグリス川の水面だけが見えていた場所に、島の陸地が突き出ている光景は、この5年間でバグダッド市民にとって見慣れたものとなった。水量が減少した結果、水位が記録的に低くなった河川に見られる現象である。

その結果、イラクの首都を悠々と流れていた世界有数の水路には、不毛の島々が点在し、古代の大地を支えた緑の激流は影を潜めている。

タクシー運転手のサラム氏は、生まれたときからバグダッドに住んでいる。昔はチグリス川が街を轟々と音を立てて流れるのを見ていたが、年々その流れが弱まり、今では狭い川底が見えるだけだという。

「それでも、イラクの他の地域よりはましだ」と、彼はアラブニュースに語った。「水道料金はまだ比較的手頃だが、水道水は汚染されているので使えない。料理用の飲料水をたくさん買わなければならない」

彼には、イラク中東部のディヤラ州に友人や親戚がいる。そこではまた別の困難があると彼は語る。

「農民の友人たちは苦労しているので、私はよくお金を貸して手助けしている。神様が彼らを助けてくれることを望んでいる」

チグリス川とユーフラテス川が合流し、伝説のメソポタミア湿地帯に注ぎ込むイラク南部では、水牛が汚染された湖沼の淀みから水を飲み、農民が伝統的なカヌーに乗り、かつては原始の飲料水だった、今では産業汚泥のような水の中を漕ぎ進んでいる。

降水量の減少と熱波による複合的な影響で河川の水量が減り、イラクの何百万人もの人々の生活が危機にさらされている。(AFP)

このかつては強大であった川に流れ込む淡水は、トルコに建設されたダムによって水源地で制限されている。チグリス川とユーフラテス川の、シリアとイラクへの流れの多くが遮断されているのだ。

この2つの川は、イラクの地表水の98%を供給している。その他の水源はイランでせき止められている。そのため、かつては飢饉や病気を食い止めるのに貢献した水量が今では不足し、悲惨な干ばつの年であっても、生活の保証からは遠ざかっている。

2018年、国連は、気候変動に対する脆弱性を持つ国として、イラクを世界第5位に分類した。気候変動の影響は過去15年間を見ると明らかで、降水量が減り、熱波がより長く、より高温になることが頻繁に起こるようになった。

イラク政府の調査によると、現在、国土の約40%が砂漠化しており、多くの土地は塩分濃度が高く、農業に適さないことが明らかになっている。

近年、イラク南部では、かつて湿地帯だった場所は、その30%がかろうじて水に覆われているのみで、地元の人々が見慣れない、乾燥した、ひび割れた土地に変わりつつある。

気候変動の影響は目に見える形で現れている。2020〜2021年の冬は、イラクでは記録的に降水量が少なく、チグリス川で29%、ユーフラテス川で73%の水量が減少したことが明らかになった。過去20年間、降雨はますます散発的になっている。

しかし、今のところ、水をめぐる地域政治の方がより緊急の問題である。イラク当局者の頭を悩ませていることは、トルコとイランに対し、イラクの河川により自由に水が流れるようにさせる方法を見つけることだ。

2021年末、イラクのマフディ・ラシッド・アル・ハムダニ水資源相は、国境で水の供給を断ち、ディヤラ州に大災害をもたらしたとしてイランを提訴する予定であると発表した。イラク当局によると、同国は合意された割当量の10分の1しか受け取っていないという。一方、トルコから流れてくる水の量は、ここ数年でほぼ3分の2に減少している。

ノルウェー難民評議会(NRC)が昨年発表した報告書、『イラクの干ばつ危機』によると、多くの農民が家畜を生かすために借金を抱えていることがわかっている。また、干ばつの影響を受けた地域の2世帯に1世帯が食料援助を必要としていることも明らかになった。少なくとも700万人のイラク人が、現在進行中の干ばつの影響を受けている。

イラク北部ニネベ州モスル市北部の町テル・ケッペ(テル・カイフ)の郊外で農地を耕すトラクター。(AFP/ファイル・写真)

NRCのイラク支援アドバイザーであるキャロライン・ズーロ氏によると、農家はこれ以上の家畜の損失を防ぐため、干ばつに強い種子と、牛、ヤギ、羊のための追加飼料を緊急に必要としているという。

長期的には、農民のための灌漑(かんがい)インフラの整備や復旧、地方や国レベルでの水資源管理計画の改善が必要だと、ズーロ氏はアラブニュースに語った。

農作物や家畜の損失、食料確保の障壁の増大、所得の減少、干ばつによる脆弱な家族の難民化など、干ばつの影響は各州で大きくなっている。

水不足が子どもたちに及ぼす影響は、たとえ整備された都市部であっても、長い間、警戒すべき要因となってきた。2021年のユニセフの報告書『水資源の枯渇』には、イラクの子どもたちの5人に3人近くが、安全に管理された水を利用できていないと書かれている。多くの家庭が、飲用に適さない水を得るために井戸を掘るしかない状況で、場合によっては洗濯などの用途にさえ安全でないことがある。

多くの調査によると、南部の都市バスラの水質は、イラクで最も悪いもののひとつだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチが2018年に発表した報告書、『涸れゆくバスラ』には、ここ数カ月で少なくとも11万8000人が衛生や水質の問題に関連する症状に苦しみ、入院していると書かれている。当時、バスラ保健局では、水を飲む前に沸騰させるよう促していた。

水不足がイラクの人口動態に与える影響は、何千人もの人々が都市部からより大きな都市の近郊に避難していることからも明らかになっている。大都市は新たに到着した人々のニーズを満たすのに苦労している。

北部のクルドでは、今年1月に山間部で降った大雪のおかげで、今のところは一時的にしのいでいる。冬から春になり、雪解けが進むと、貯水池に水が補充され、再び厳しい夏が始まる前に水不足を防ぐことができる。通常、アンバル州とその奥地では、5月から9月半ばにかけて気温が40℃台後半を維持する。

イラクの中央政府は依然として弱体であるため、交渉の席で強力な隣国にはかなわない。国政選挙から5カ月が経過したが、新大統領と新首相の選出や政府樹立にはまだ至っていない。政治的な行き詰まりが解消されたとしても、弱く、分裂した政府が水の確保という難題に対処するためには、国際的な支援が必要であることに変わりはない。

クルド地域政府の農務省水資源・ダム部門の責任者であるラーマン・カーニ氏は、時代遅れの手法がこの国の水管理システムを阻害していると指摘する。

「また我々は、汚染や古い灌漑方法にも悩まされている」と彼はアラブニュースに語った。「解決策は、国内の水管理を改革し、ダムを建設し、近代的な灌漑技術を使用することである。さらに近隣諸国に強く働きかけ、公平な量の共有水を放出させることだ」

専門家は、イラクの最も弱い立場にある人々を助けるために、将来を見据えて、もっと多くのことをしなければならないと語る。

「干ばつ状態が続き、悪化することが予想される中、農村はさらなる不作のリスクにさらされている。対策を講じなければ、今よりも多くの難民問題を招く恐れがある」とズーロ氏は語った。

しかし、冬から暖かくなるに従い、今年の夏はこれまで以上に、イラクの人々が飢えと渇きに苦しむことになる可能性が非常に高い。

 

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