
ナジャ・フーサリ
ベイルート:20日、レバノンのマロン派の高位聖職者が、イスラエルの教区を訪問した後に拘束されて軍事法廷に召喚され、キリスト教徒の間で憤りが湧き起こった。
ハイファと聖地の大主教区責任者を務めるムサ・アル・ハッジ主教は、レバノンに戻った後に11時間拘束され、8時間の尋問を受けた。パスポートは押収され、軍事裁判所のファディ・アキキ判事から渡航禁止を命じられた。
アル・ハッジ氏の告発容疑は、米ドルで大金をレバノンに持ち込んだことだ。
同氏の拘束は、教会と政界に怒りを巻き起こした。アル・ハッジ氏が、軍司令部から国境を越えるための特別許可を得て、イスラエルを訪問したのは今回が初めてのことではない。これは、とりわけマロン派教会が同地域に土地と財産を所有しているためである。
両国は形の上では現在も戦争状態にあるが、ハッジ氏がイスラエルを訪問するのは、イスラエルに住むレバノン人のマロン派キリスト教徒コミュニティを率いているためだ。その多くは、1975年から1990年にかけてのレバノン内戦の際にイスラエルに協力した難民だ。
同氏の逮捕をめぐる論争は、22年前にイスラエルに逃れたレバノン人の問題に光を当て、次期レバノン大統領をめぐる舞台裏での政治的駆け引きを明らかにした。
マロン派主教評議会は20日、ビシャーラ・ブトロス・アル・ライ総主教が主宰して臨時会議を開き、アル・ハッジ氏逮捕に落胆の意を表明した。
アル・ライ氏に近い筋は、「アル・ハッジ氏の逮捕を通じてアル・ライ総主教に政治的メッセージを送ろうとした者は、メッセージが受け取られたととることができるだろう。だが、アル・ライ総主教が立場を変えることはけっしてない」と述べた。
ミシェル・アウン大統領とナジーブ・ミカティ首相はそれぞれアル・ライ総主教電話をかけ、聖職者の拘束に非難を表明した。
アル・ハッジ氏は20日、アル・ライ大主教の自宅を訪れて、アル・ナクーラ検問所での11時間の拘束について説明した。
アル・ハッジ氏は、レバノン人家庭への医薬品や援助物資、本人の携帯電話に至るまで、携行していたすべての物品を宗教的な立場を無視して捜索されたと説明した。同氏が釈放されたのは、司法と教会が介入した後のことだったという。
「その11時間、丁重に扱われはしたが、私は拘束され、多くの質問を受けた」とアル・ハッジ氏は述べた。
司法筋がアラブニュースに明かしたところでは、「捜索の際に、アル・ハッジ氏の所持品から大量の医薬品と46万ドルもの大金が見つかった。100名以上のレバノン人のリストも所持しており、それぞれの名前の横には500ドル以下の金額か届ける予定の薬袋が記されていた」
「スパイのためのマネーロンダリング容疑に力点を置いて、捜査が行われた。そのため、リストの氏名と、2000年にイスラエルがレバノン南部から撤退した後に同国に逃れた、イスラエルのスパイと疑われる人物のファイルが照らし合わされた。イスラエルの指揮下で作戦行動をとった南レバノン軍に加わったとして非難されている人たちだ」
司法筋によると、18カ月前にアル・ハッジ氏は、イスラエルとの通謀容疑で起訴されたレバノン軍兵士が同氏から金銭を受け取ったことを認めたため、自身も起訴される可能性に直面した。
「しかし、その時はアル・ハッジ氏は逮捕されなかった。兵士だけが逮捕され、イスラエルとの通謀容疑で裁判を受けた」
地元のアルマルカジヤ通信は、レバノン・マロン派教会とバチカンに近い筋の発言を伝えている。「アル・ハッジ氏の逮捕をめぐる事情は、実存的、運命的な次元に至っている。これはバチカンへのメッセージであり、一独立体としてのレバノンのアイデンティティと存在を損なおうとする試みだ。バチカンは従来、レバノンが中立を維持し、レバノンとは無関係の輸入イデオロギーとのかかわりをなくすことが必要であると強く訴えている」
アル・ライ総主教は、日曜日の説教で、現大統領が10月に任期切れを迎える際に、マロン派の大統領が選出されるべきであると語った。
「私たちは、あれこれと難題を突き付けたりしない大統領、レバノンの大義、国家の不変性、レバノンの主権と独立を誓う大統領、中立の原則を遵守する大統領を選出したい。私たちは、レバノンの中立を求めながら、それと同時に、特定の軸に偏っているために中立を保てない人物を大統領に選ぶことはできない」
アミン・ジェマイエル元大統領は、「信徒指導や人道ミッションに際してアル・ハッジ氏を逮捕し、軍事法廷に召喚して捜査を行った。これは政治・司法・治安部門の狭量な考えがもたらした、マロン派教徒の状況への配慮を通して聖地の大主教が代表する役割への、そしてエルサレムとパレスチナ地域の他のすべてのキリスト教・イスラム教の宗派に対する、強烈な一撃だ」と述べた。
「私たちは、愛国的な姿勢を見せるアル・ライ総主教に向けられたこの政治的メッセージを拒否する」とジェマイエル氏は付け加えた。
ドルーズ派コミュニティの宗教的権威によると、アル・ハッジ氏は、パレスチナ地域の善きサマリア人が送った援助物資をレバノンとシリアの親戚や慈善団体のもとに運んでいた。アル・ハッジ氏の逮捕とその名誉の毀損を非難し、この事案は人道主義の観点から見なければならない、と同氏は述べた。
ソーシャルメディアでは、アル・ハッジ氏への連帯を表明する意見が多く見られた。しかし、ヒズボラと同盟を組む自由愛国運動に所属する活動家は、一人としてこの事件に反応しなかった。