チュニス:チュニジア国民は来週月曜日、カイス・サイード大統領にさらなる権力を与えることになる憲法に関する国民投票を行う。政治システムの再構築を図る同大統領の計画にとって重要な局面となる。
国民投票は、サイード大統領が政権を解任し議会を停止してから1周年の日に行われる。
反対派はボイコットを呼びかけているが、国民の大半が投票しないと観測筋は予測しており、改正案が可決されることを疑う者はほとんどいない。
アナリストのユセフ・シェリフ氏は、「今回の国民投票で最大の未知数は投票率だ。低くなるか、非常に低くなるか」と語る。
同氏はこう付け加える。賛成票を投じる人は「大統領が好きか」、ザイン・アル・アービディーン・ベン・アリー氏を倒した2011年の蜂起以降「チュニジアを統治してきた人々が嫌いかのどちらかだろう」
2011年の「アラブの春」から生まれた唯一の民主主義体制と称賛された革命に続いて制定された2014年の憲法には、大統領制と議会制の混合制が明記されているが、今回の改正案はそれを置き換えることを目的としている。
サイード大統領の「新共和国」の指導者は究極的な行政権を持ち、国会による信任投票の必要なく政権を任命することができるようになる。
大統領は軍のトップとなり、裁判官の任命も行うことになる。裁判官はストライキを禁止される。
2011年以降チュニジアの政治を支配しているアンナハダ党を含むサイード大統領の敵対勢力は、国を独裁に引き戻そうとしているとして同大統領を非難している。
国民投票に至ったプロセスにも批判が集まっている。
「国民は何に投票するかも、何故投票するかも分かっていない」とシェリフ氏は言う。
政治アナリストのハマディ・レディッシ氏によると、2014年とは異なり、「わずか数週間で急いで書かれた」改正案に関して全ての利害関係者が参加した議論がほとんど行われなかったという。
昨年以来法令による統治を行い司法と選挙委員会を掌握しているサイード大統領は、表向きは新憲法起草委員会に指針を与えるためとされたオンライン公開協議を開催した。
しかし、起草を監督した法律専門家のサデク・ベライド氏は、委員会が提出した草案とは「全く異なる」としてサイード大統領の改正案を否定し、「独裁体制」を作りかねないと警告した。
サイード大統領は国民投票の2週間あまり前に僅かに修正した改正案を発表したが、修正後の案であっても大統領を辞任させるのは事実上不可能になる。
レディッシ氏は、チュニジアは中国やエジプトのようにはならないだろうが、トルコやロシアに似た国になってしまう可能性があると言う。
ドイツのシンクタンクSWPの研究者であるイザベル・ウェレンフェルス氏は、チュニジアが「閉鎖的なシステムへと向かっている」と警告する。
「自由や民主主義を監視する制度の解体が進行していることや、新しいルールを見ると、網の締め付けが厳しくなっているように見える」と同氏は言う。
憲法についての立場を公に表明するキャンペーンへの登録は盛り上がらなかった。
「賛成」のキャンペーンに登録した組織や個人の数が144だったのに対し、「反対」のキャンペーンへの登録数はたった7だった。
チュニジア国旗を掲げた看板がチュニスに出現したが、そこにはサイード大統領が公表した公開書簡から、「国が行き詰まらないように、革命の目標が達成されるように」「賛成」票を求める一文が引用されている。
最近の選挙の投票率は低いが、元法学者であり、広く不信感を持たれている政治エリートの中では例外的に清廉潔白と見られていたサイード大統領自身は、2019年の選挙では58%の投票率で地滑り的勝利を収めた。
チュニジア国民は現在、コロナパンデミックとウクライナ侵攻で悪化した過酷な経済的苦難に直面しており「政治に関心を持つ人はほとんどいない」とシェリフ氏は言う。
サイード大統領は、高いインフレ率に悩まされる経済、40%にも上る若者の失業率、人口の3分の1が直面する貧困といった問題の解決策を早急に見出す必要がある。
チュニジアは国際通貨基金と救済パッケージをめぐる交渉中だが、IMFから交換条件として要求される可能性の高い自由化改革は社会不安を引き起こす恐れがあると専門家は警告している。
一方、不完全であっても広く称賛されているチュニジアの民主主義に対する不安が高まっている。
シェリフ氏によると、フリーダム・ハウスとエコノミスト誌は既にチュニジアの分類を「自由」から「部分的に自由」に変更している。
「人々が自由に意見を表明でき、反対票を投じても刑務所に入れられないという事実は、伝統的な意味での独裁体制ではないことを示している」と同氏は言う。
しかし同氏はこう付け加える。「今回の憲法は、2011年以前にチュニジアが経験したものに似た権威主義的体制を作り出しかねない」
AFP