ワシントン:バイデン政権は今週、2015年の核合意の遵守再開に関するイランによる最新の提案について検討するものとみられるが、双方ともに合意復活に向けた決定的な道筋を示していない。2018年にドナルド・トランプ前大統領が離脱して以来、合意は生命維持装置につながれている状態だ。
米国政府は、EU最終案に対するイランのコメントに早ければ水曜日にも返答する予定だと明らかにした。それを受けてさらに技術的な詳細について意見交換が行われ、その後、合意を監督する合同委員会の会合が開かれるとみられる。イランと米国の双方が公的な声明の発表を増やすなど、最近の進展からは合意復活が近づいている可能性が伺える。
前進はあったものの、数多くのハードルが残っている。いくつかの主要な障害は、2015年の核合意復活に向けた努力を無にしてしまう恐れがある。イランの核兵器開発の防止を目的としたこの合意のもと、同国は核開発計画の制限と引き換えに数十億ドル相当の制裁緩和を受けていたのだった。
今年春に間接交渉が開始された当初は「より長くより強い」合意を望んでいた米国内の合意支持者でさえも、もはやそのような事は言っていない。また、バイデン政権が約束すると思われる以上の制裁緩和をイラン側が要求した場合、合意復活に向けた動きの妨げになる恐れがある。
バイデン政権はワシントンの連邦議会において、民主党と共和党の両方からの、2015年の核合意復活に対する大きな政治的反対に直面している。合意が米国の国家安全保障上の利益にかなうことを彼らは依然として納得していないのだ。
共和党のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)は、「破滅をもたらすこの合意の実現を阻止すべく組織的に戦うつもりだ。同僚と協力して、合意が阻止され最終的には2025年1月に破棄されることを目指していく」と述べた。
先日、トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏の殺害を謀ったとして1人のイラン国民が訴追された。また、イラン支持者とみられる人物が作家のサルマン・ラシュディ氏を襲撃する事件も発生した。最近のこれらの出来事によって、イランが信頼できるのかという疑念がさらに高まっている。
ある政府高官(合意復活に向けた進行中の努力について話すため匿名を希望)によると、最新案には米国による革命防衛隊(IRGC)テロ組織指定の解除というイランの要求は含まれておらず、3ヶ所の未申告施設でウランの痕跡が検知され説明もされていない問題に関する国際原子力機関(IAEA)による調査の中止の要求も撤回されている。
しかし、トランプ政権によって課されたテロ組織指定を解除せよというのは現実的な要求ではなかった。核合意の範囲から外れた要求であるというだけでなく、ボルトン氏殺害計画者の訴追、他の米高官へのイランからの現在進行中の脅威、ラシュディ氏襲撃といった出来事によって事実上不可能となったのだ。
またイランは、最終的な合意復活のための仕組みに、IAEAによる調査を事前に中止するという条件なしで同意したにしても、同機関からの健康証明書を得ることが合意を実際に遵守することの条件であることに変わりはないとしている。
前出の政府高官は、「2週間前よりは合意に近づいている」としながら、「溝がいくつか残っているため」結果は依然として不透明だと釘を刺した。
また、イラン政府は火曜日、同国が合意復活のために要求を後退させたという指摘に対して苛立ちをあらわにした。
ウィーンでの間接交渉でイラン側アドバイザーを務めたセイド・モハマド・マランディ氏は、火曜日のツイッターへの投稿で、IRGCを米国務省の外国テロ組織リストから削除することは前提条件ではないと断言し、「IAEA理事会が虚偽の告発を『永久的に』停止しない限り合意が実現することはない」と主張した。
一方、中東における米国の第一の同盟国であるイスラエルは、合意に近づいているように見える現状にますます危機感を募らせている。同国のナフタリ・ベネット首相代理は火曜日、バイデン政権に対し、イランとの合意の推進に抵抗するよう呼びかけた。
同首相代理は声明の中で「バイデン大統領と米国政府に対し、この最終局面においてさえ、イランとの合意に署名しないよう求める」としている。
イスラエルは、国連安全保障理事会常任理事国5ヶ国(米国、イギリス、ロシア、フランス、中国)およびドイツによって調印された2015年の合意の当事者ではないが直接の影響を受けるため、自衛のための全ての権利を留保すると同首相代理は述べている。
「いずれにせよ、イスラエル国家は合意の当事者ではない」と同首相代理は述べている。「合意に由来するいかなる制限にもイスラエルは従わない。また、イランの核開発の進行を阻止するためにあらゆる可能な手段を用いていく」
ヤイール・ラピード首相の指示で、イスラエルのエヤル・フラタ国家安全保障担当補佐官がバイデン政権高官との会談のため今週ワシントンを訪問している。その一環として、火曜日にはジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官との会談が行われた。
国家安全保障会議のエイドリアン・ワトソン報道官によると、サリバン補佐官はフラタ補佐官との会談において、「イランが決して核兵器を手にすることがないようにする」というバイデン大統領の確固たる「決意」を強調した。
協議中の条件には2015年合意の重要な基礎が含まれていると米国政府は主張している。合意が復活すれば、米国は2018年にトランプ政権が合意から離脱した際に再開した数百の制裁を解除する意向だ。一方のイランは核開発計画を、(濃縮上限、核物質貯蔵量、濃縮に必要な高度な遠心分離機の稼働などについて)当初の核合意で設定された水準にまで巻き戻すことになる。
しかし、イランが現在貯蔵している高濃縮ウランや、稼働中の高度な遠心分離器をどうするのかは依然としてはっきりしていない。米国政府は両方とも「撤去される」としているが、詳細は明らかにしていない。
直近に公開された計量によると、イランは約3800キログラム(8370ポンド)の濃縮ウランを貯蔵している。合意のもとでは、ウラン濃縮上限は3.67%となり、ウラン貯蔵量上限は300キログラム(660ポンド)で常に監視カメラと国際査察団による監視が行われることになる。
制裁緩和に関するイランの要求は、将来の大統領が(トランプ前大統領のように)制裁を再開しないこと、当初イランを交渉のテーブルに連れ戻すために可決された制裁法案を連邦議会が無効にすること、この二つを米国政府が約束することである。バイデン政権はどちらも保証できる立場にない。
国家安全保障会議のワトソン報道官は、「2015年核合意復活に向けた努力の一環としてイランに対する新たな譲歩を米国政府が受け入れた、あるいは検討しているという報道がなされているが、断じて誤りだ」と述べた。
AP