
エルサレム:しばらく下野した後、ベンヤミン・ネタニヤフ氏が12月29日に首相へと返り咲き、イスラエル史上最も右翼的と評される政権を率いる。
治安機関の高官たちが、新政権の行方についての懸念をすでに表明している。パレスチナ人たちは言うまでもない。
「ネタニヤフ氏とその仲間にとっては夢の政府となります」とシンクタンク「イスラエル民主主義研究所」のヨハナン・プレスナー所長は述べた。
「片方にとっての夢とは、もう片方にとっては悪夢なのです」とプレスナー所長は述べ、「この政権により、イスラエルは今までと全く異なる方向に進むと予想されます」と付け加えた。
汚職容疑での裁判が続くネタニヤフ氏は73歳になるが、イスラエル史上最も長期にわたり首相を務めた経歴をすでに有する。2009年から2021年までの12年間という記録的な長期政権はもちろん、1990年代後半にも3年間首相の座にあった。
ネタニヤフ氏は2021年春に政権を明け渡した。ナフタリ・ベネット氏と元TVニュースキャスターのヤイール・ラピード氏を首相とする、左派・中道・アラブ民族政党という多種多様な政治的立場が混ざった、連立政権が発足した。
それからわずかな時を経て、首相に返り咲くこととなった。
ネタニヤフ氏は新閣僚名簿を国会に提示し、午前11時に承認を得ることとなる。
11月1日の選挙結果を受け、ネタニヤフ氏は超正統派や極右政党と連立政権樹立に向け交渉を重ねていた。その中にベザレル・スモトリッチ氏率いる「宗教シオニズム」とイタマル・ベン・グウェル氏率いる「ユダヤの力」がある。
両党ともこれまでパレスチナ人に関し扇動的な発言を繰り返してきた。
今後はこの2党がそれぞれヨルダン川西岸のユダヤ人入植地政策とイスラエル警察の管轄を担うこととなる。イスラエル警察は、1967年にイスラエルが占領したヨルダン川西岸地区にも展開している。
政権発足前であるにも関わらず、過半数を獲得した野党勢力は複数の法案を成立させた。このためユダヤ教超正統派政党「シャス」のアリエー・デリ党首が、脱税で有罪を認めたにも関わらず、新閣僚への就任が可能となった。
さらには国家安全保障相の権限を拡大する法案も成立している。この職にベン・グウェル氏が就任し、イスラエル警察を管轄することとなる。
ガリ・バハラブミアラ司法長官が「警察権力が政治利用される」と警告したが、ベン・グウェル氏の就任は決定している。
12月26日にイスラエル国軍トップのアビブ・コチャビ氏がネタニヤフ氏と電話会談し、国防省に副大臣ポストを新設しスモトリッチ氏を就任させることに対し懸念を表明した。スモトリッチ氏はヨルダン川西岸地区における民間人同士の暴動の管理を監督することとなる。
イスラエルの同盟国である米国も懸念を表明している。
アントニー・ブリンケン国務長官は、ヨルダン川西岸地区を併合するいかなる動きも入植地拡大も、米国政府は認めないと通告した。
しかし28日の優先政策課題に関する発表にて、ネタニヤフ氏率いる政党「リクード」は、新政権が入植地拡大を目指すと述べている。
スモトリッチ氏やベン・グウェル氏たち本人を含め、現在47万5000人のユダヤ人入植者たちが、国際法では違法とされる西岸ユダヤ人入植地で暮らしている。
ネタニヤフ氏は自らの汚職容疑に関する裁判の免責を受けるか、裁判を中止させる目的で、極右政党側に大幅な譲歩を申し出た、とアナリストたちは見ている。ネタニヤフ氏は収賄・不正行為・背任の容疑で起訴されているが、容疑を否認している。
イスラエル・オープン大学のデニス・シャルビット教授(法学)は、新政権により「高齢で裁判を抱え、イスラエルで過去に例のない急進的右派による新たな連立枠組みという事実により、ネタニヤフ氏の政治的基盤はさらに弱くなります」と述べた。
スモトリッチ氏とベングビル氏には「強烈な権力欲があり」、この2人の政策的優先課題は依然としてヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地拡大だ、とシャルビット教授は語った。
ベン・グウェル氏はイスラム教第3の聖地「アルアクサ・モスク」を再三にわたり訪れている。アルアクサ・モスクの敷地はユダヤ教の聖地でもあり「神殿の山」として知られる。
歴史的な合意の下では、非イスラム教徒もアルアクサ・モスクを訪問できるが祈りを捧げるのは許されていない。
イスラエルの現職閣僚がモスクの敷地に立ち入れば、パレスチナ人たちは挑発と受け取るだろう。
「もしベングビル氏が閣僚としてアルアクサに赴けば、一線を越えることとなり、火薬庫を爆発させることになるでしょう」とガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」の高官バセム・ナイム氏は述べた。
イスラエルとハマスの間では2021年5月に戦闘が発生した。今年8月には、ハマスではないガザ地区のテロ組織とイスラエル軍の間で、3日間にわたるロケット弾とミサイル攻撃の応酬が起きた。
今年に入りヨルダン川西岸地区では暴動が激化しており、混乱に拍車がかかると恐れる人は多い。
「新政権が無責任な行動を取れば、安全保障上の危機が深刻化する可能性があるでしょう」と退任するベニー・ガンツ国防相が27日に述べ、次期政権の「過激主義的な方向性」に関して懸念を表明した。
AFP