

ウバイ・シャーバンダル
ワシントンD.C.:カミカゼドローンと通称される徘徊型兵器の一群が接近してくる際の特徴的な音はウクライナ各地の都市ですっかりお馴染みのものとなってしまった。イランが国内で設計・製造したシャヘド136をロシア軍に供与し始めて以来のことだ。
約2000kmの航続距離を持ち30kgの爆発物を搭載できるこの破壊的なドローンの群れが、昨年9月以来首都キーウのアパートやエネルギーインフラを定期的に攻撃しており、民間人を連日のように恐怖に陥れている。
米国防総合大学の軍事専門家であるデビッド・デロッシュ氏はアラブニュースに対し、「ロシアはイランのドローンを購入し展開することで、ウクライナの幅広い民間インフラを攻撃することが可能になっている」と指摘する。
イラン体制の強力なイスラム革命防衛隊(IRGC)と密接な繋がりのある国内の防衛メーカーが設計・製造するシャヘドは、他の国が開発する無人航空機(UAV)システムと比較するとローテクである。
しかし、シャヘドの戦略的有用性は、比較的低コストで大量生産できるという事実にある。ウクライナ当局によると、ロシア軍は2000機以上のシャヘドを発注しており、ロシア国内に共同製造施設を建設することについても協議しているという。
ワシントン研究所が最近発表したレポートも、ロシアがより高度なイランのドローンの購入に関心を示していると主張している。シャヘドよりも長い航続距離を持ち多くの爆発物を搭載できるアラシュなどだ。
しかしイランのドローンは、ヨーロッパ大陸で第二次世界大戦以来最大かつ最も重大な紛争においてデビューする前に、IRGCやその代理組織が活動している中東の複数の戦線における戦闘で試用されていた。
イランは、イラクやアラビア湾岸に配備されているパトリオット地対空ミサイルシステムなどの米軍製防空システムに対して自国のドローン技術を試すことができた。そのノウハウは現在、欧米が支援するウクライナに対峙するロシア軍にとって貴重なものとなっている。
ウクライナが持つ欧米やソ連時代の防空システムに対してイランのドローンが試されていることで、シリア、レバノン、イラク、イエメンなどにおけるドローンの戦略的使用も強化されることは間違いなく、イスラエルやアラブ地域全体にとって安全保障上の新たな頭痛の種となっている。
カミカゼドローンは現代の軍に対して独自の問題をつきつけている。高度な防空システムはシャヘドが目標に到達する前にその大半を撃墜できるが、十分な数のドローンが必然的に突破してしまい、ウクライナのアパートや民間インフラに降り注ぐことになるのだ。
デロッシュ氏は次のように語る。「通常の防空レーダーのレーダー水準より低い所を飛行するこれらのドローンはウクライナ領内に侵入し、ロシア軍自体による攻撃よりも大きな損害を与えることができる」
「広大なウクライナの各地の民間インフラに対して分散的にドローン攻撃が行われるため、全てのドローンを『殺す』にはリソースが足りない。ドローン1機を発射するコストよりもそれを撃墜するコストの方が遥かに高く、国内の変電設備を全て守るのに十分な装備がないのだ」
「ロシアは民間インフラを標的とすることで、ウクライナの防衛リソースを分散させることができる。また将来のある時点では、重要な軍事目標に対してミサイルやドローンを集中させることができるようになるかもしれない。だから、これらのドローンの影響は重大だ」
一部のアナリストが指摘するところでは、これまで欧米がイランの核兵器開発の野心に対抗する一方で「通常」兵器の拡散に対して行動を起こさなかった結果として、今や同国のカミカゼドローンが欧州に輸出され、欧州全域が長期的な安全保障上の脅威に直面する可能性が高まっている。
急成長するイランのドローン開発計画がもたらす脅威についての警告を欧米当局が長年無視してきたことで、同国は比較的妨げられずに大規模な製造拠点や取引ネットワークを作ることができたと、これらのアナリストは指摘する。
ウクライナ戦争開始前に発表されたイギリスの国防情報レポートによると、イランは極秘に様々な型のシャヘドを展開している。2021年にイギリス船籍の石油タンカー「MTマーサー・ストリート」が攻撃されイギリスの民間人1人を含む2人が死亡した際に使用されたのもそういったドローンの一つだった。
この攻撃より前の2019年9月には、巡航ミサイルとカミカゼドローンが一斉発射されサウジアラビアのアブカイク油田とクライス油田に着弾した。この攻撃はイランからイラク領空を横断して行われたものだと米中央軍は見ている。
この攻撃を受け、アメリカン・エンタープライズ研究所は米政府に対し、IRGCのドローン施設に直接報復するよう求めた。
その時の発言は以下のようなものだった。「米国が経済的圧力を高めてもイランの軍事行動や核合意違反のエスカレーションを抑止できていない。米軍の軍事行動もイランの軍事的エスカレーションの形態を変えただけだった」
2019年の攻撃は、巡航ミサイルとカミカゼドローンを合わせて使用して主要なエネルギー施設を攻撃した、知られる限りで最初の例でもあり、欧州においてウクライナの電力網に対し同じ戦術が使用される前触れとなった危険な前例だった。
欧米の情報当局は、ロシア軍は高価で製造の難しい長距離精密誘導型中距離ミサイルの代替としてシャヘドへの依存度をますます高めていると見ている。ロシアによる重要な電子部品の購入に対して欧米が制裁を科していることもその一因だ。
ニューヨークを拠点とする超党派シンクタンク「イラン核兵器抵抗連合」の政策担当者であるジェイソン・ブロツキー氏は、米国とその同盟国はイラン製ドローンの拡散への対処に関して「後手に回っている」とツイートした。
バイデン政権はシャヘド製造に関与したイランの兵器メーカーを対象とした新たな制裁を発表したが、欧米はイラン製ドローンによる脅威の芽を摘むために使うことができたかもしれない貴重な時間を無駄にしたとブロツキー氏は述べた。
また、「米国とその同盟国は10年前にイランのこの問題に集中して取り組むべきだったが、核の件が全てに優先された」と指摘した。核の件とは、包括的共同行動計画(JCPOA)としても知られる2015年のイラン核合意のことを指している。この合意は現在ほとんど消滅しかけている。
米国のテッド・クルーズ上院議員の外交政策顧問であるオムリ・セレン氏はもっと直接的にバイデン政権を批判しており、イラン製ドローンの拡散がここまでの規模に至るのを許したこと、核交渉においてイランとの間の仲介者としてロシアに頼ったことを非難している。
同氏は次のようにツイートした。「チーム・バイデンはイランとロシアの間の兵器制限を弱めることを第一の優先事項にしている。国連に駆け込んでイランに対する兵器禁輸を廃止するよう求めたのだから」
バイデン政権のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は最近、イランがロシア軍に大量の戦闘ドローンやその他の兵器を積極的に供与することでウクライナにおける「広範囲の戦争犯罪に貢献している」可能性が高いことを認めた。
しかしながら、イランとの核合意に達することに重点を置いた単一的な政策を長年続けた末に同国のドローン製造産業に対する新たな制裁を科したところで遅きに失したのではないかという重大な疑問は残る。
イラン製ドローンの脅威の無力化に関しておそらく最も多くの経験を有するであろうイスラエルが知見を提供すれば、欧米の政策立案者はより明確な理解を得られ、より迅速な対応をする気になるかもしれない。
イスラエルの防衛シンクタンク「アルマ」によると、イランの治外法権組織コッズ部隊は、レバノンの民兵組織ヒズボラの「ユニット127」として知られる秘密部門との共同ドローン製造施設を設立した。
アルマが提供した衛星画像からは、ヒズボラが所有するとされる広大な基地と思われるものがシリアのレバノンとの国境近くのアル・クサイルおよびシリア極東部の砂漠都市パルミラに建設されていることが確認できる。
イスラエルが行ったとされる(公式な声明は出されなかったが)昨年末の空爆の多くはこれらの拠点や共同ドローン製造拠点と疑われる場所を直接標的としたものだった。欧米が同様にイランのドローン技術の大元を標的とすることを期待するアナリストもいる。
一方でデロッシュ氏は、ウクライナの同盟国である欧米諸国は防空システムの供与を継続するともに、空からの攻撃に耐えられるように同国の重要インフラの構造完全性を強化するのを支援すべきだと語る。
「国が最初にすべきことは、脅威に打ち勝とうとすることではなく、ドローンが到達することを前提としたうえで自国の弱い部分を守ろうとすることだ」
主要エネルギー施設を強化することと、このような前提に基づいて多層的な防衛計画を策定することは、イラン製ドローンの影響を軽減するという緊急のニーズを満たすうえでより現実的な対策だと同氏は言う。
「兵士たちはこのような考え方を好まないし、防衛企業が土嚢で稼げる収益は地対空ミサイルで稼げる収益よりもずっと少ないだろう。しかし国家安全保障上の利益を最大化するには、弱い部分に基づいてドローンの脅威を評価しなければならない」
バイデン政権は、イランの非対称的なドローン能力とその拡散が世界的な安全保障上の脅威となっていることを遅ればせながら認識しつつあるようだ。