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ベイルート港爆発事故の調査への政治的な調査妨害が、生存者の真実、正義、賠償の権利を侵害

ベイルート港の爆発事故が首都に大打撃を与えてから2年以上が経過したが、政治的な内紛と腐敗した権力層が訴追を逃れているという非難が常態化する中、公式調査は進んでいない。(AFP)
ベイルート港の爆発事故が首都に大打撃を与えてから2年以上が経過したが、政治的な内紛と腐敗した権力層が訴追を逃れているという非難が常態化する中、公式調査は進んでいない。(AFP)
レバノン港を襲った2020年8月4日の大規模爆発により、その週に倒壊した中粒穀物サイロの一部。(AFP、2022年8月12日撮影)
レバノン港を襲った2020年8月4日の大規模爆発により、その週に倒壊した中粒穀物サイロの一部。(AFP、2022年8月12日撮影)
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05 Feb 2023 07:02:28 GMT9
05 Feb 2023 07:02:28 GMT9
  • 司法当局と政治家たちは、13ヶ月の中断の後に事故の調査を再開したタレク・ビタール判事を服務違反と非難している。
  • 爆発事故の生存者と遺族にとって、ビタール判事の新たな取り組みは一縷の希望となっている

ナディア・アル・ファオール

ドバイ:2020年8月4日、ベイルート港で大規模な爆発が発生し、215人以上が死亡したとき、レバノン当局は事件を迅速に調査し、数日以内に犯人を裁くと約束していた。

しかし、調査はそれ以来停滞を繰り返しており、現在も、主任調査官のタレク・ビタール判事が爆発事故の調査を再開し、複数の高官を告発したことが服務違反に当たるとして非難されている。

ベイルート港爆発事故により、港とその周辺地区は壊滅的な被害を受け、6,500人以上が負傷し、約30万人が避難を強いられた。爆発は、2014年から倉庫に不適切に保管されていた大量の硝酸アンモニウム肥料が、何らかの形で発火したために発生したものとされる。

生存者、犠牲者の親族、権利団体は、この災害の原因は、多くの人々から腐敗し無能だと見なされている政治家階級にあると非難している。しかし現在までのところ、当局者は誰も責任を問われていない。

ベイルートのパレス・オブ・ジャスティスの前で警察と衝突する爆発事故犠牲者の親族たち。(AFP)

「2020年のベイルート港爆発事故への捜査の遅れにより、司法が権力者たちの玩具に過ぎないことはすでに実証済みである。権力者は法的な取り組みを嬉々として妨害し、手続きを好きなだけ遅らせることができるのだ」と、ニュースキャスターで政治評論家のバリア・アラムディン氏は最近のアラブニュースの論説の中で述べている。

ビタール判事の指揮による捜査は、大審院の判決により2021年12月に最初の停止措置を受けた。3人の元閣僚がビタール氏に対する裁判所命令を提出し、イランの支援を受けるヒズボラなど、調査に反対するグループは同氏が偏向していると非難していた。

ビタール判事は、解任されたファディ・サワン判事に続く2人目の捜査責任者である。2020年12月、サワン判事はハッサン・ディアブ前首相(爆発の余波で辞任)と3人の元閣僚を爆発事故に関する過失で起訴していた。

しかし、サワン判事は政治的な圧力により任を解かれ、事故の調査は中断された。

後任のビタール氏もディアブ氏を召喚して尋問し、閣僚を務めた議員の免責特権の解除を議会に求めたが、実現しなかった。内務省も逮捕状の執行を拒否し、ビタール氏による事故の説明責任への追求はさらに弱体化した。

2021年10月、内戦の傷跡が残るベイルートのタユネ地区で、ヒズボラおよびナビーフ・ビッリー氏率いるシーア派政党、アマル運動がビタール判事を調査から外すよう求める抗議デモを組織した。

2021年10月14日、ベイルートで行われたタレク・ビタール判事の排除を求める集会で、判事の写真を使ったビラを掲げるヒズボラとアマル運動の支持者。(AFP)

しかし、抗議デモはすぐに悲惨な事態に発展した。銃を持った正体不明の男たちがデモの群衆に発砲し、民間人7人が死亡、数十人が負傷したのである。この1975年~1990年の内戦の時代を髣髴とさせる惨劇を引き起こした犯人グループは、キリスト教右派政党、レバノン軍団のメンバーではないかと疑われている。

こうした緊張と障害に満ちた状況の中で、1月23日、ビタール判事が13カ月ぶりに調査を再開し、治安当局の高官やガッサン・オウェイダット検事総長を含む8人の容疑者を新たに告発したことは、多くの人々を驚かせた。

ビタール判事が起訴した8人には、ディアブ前首相、ガジ・ザイター国会議員、ノハド・マクヌーク前内相、アッバス・イブラヒム少将、ジャン・カワジ元軍司令官、トニー・サリバ少将が含まれる。

これに対し、オウェイダット検事総長はビタール判事に渡航禁止令を出し、判事の「扇動」と「権限なき行動」を非難し、「司法に反抗した」として告発した。また、公判に先立ち勾留されていた17人の被疑者の釈放も命じた。

1月28日、ベイルートでガッサン・オウェイダット検事総長の解任と起訴を要求するレバノン人の抗議デモ。(AFP)

アラムディン氏はコラム記事の中で、「レバノンの司法は、判事同士が互いに報復的な告発を行い、恣意的に拘禁者の釈放命令が出される中、嘲笑の対象になってしまっている」と指摘している。

「高官を告発したからといって、ビタール判事が制御不能な人間だということにはならない。むしろそれは、指導部全体が内部で共謀し腐敗しており、責任を取るべきだ、という判断を示すものだ」

行政と司法の争いにより、レバノンのすでに崩壊しつつある体制はさらに試されることになる。ただ、金融危機と政治的麻痺に見舞われ、通貨は暴落し、何千人もの専門家や若者が国外に流出しているため、多くは期待できない。

カーネギー国際平和財団・中東プログラムのブログ「ディワン」の編集者で、「Ghosts of Martyrs Square」(殉教者広場の亡霊)の著者マイケル・ヤング氏は、ビタール判事による事故の適切な調査が許可されることはないと見ている。

「このプロセスには2つの段階があることを理解しなければならない」と、ヤング氏はアラブニュースに語った。「ビタール判事が誰かを呼ぼうとしても、彼が調査したい人々を強制的にインタビューに応じさせることは、不可能ではないにせよ、非常に難しいと思われる」

「内務省が何もしないのだから、警察も何もしない。司法警察をコントロールしているのはオウェイダット検事総長で、彼はいかなる決定の実行も命じないと明言している」

「ビタールがまともに仕事をすることは不可能になるだろうと私は思っている。彼の調査は事実上、行き止まりになってしまう」

ビタール氏がなぜ今になって調査を再開したのか、その理由は不明である。しかし、生存者や遺族にとっては、彼の復帰はかすかな希望となっている。

「ビタール判事が仕事を再開する時が来ました。真実はいつかは明らかにされるべきで、ガッサン・オウェイダット検事総長がビタール判事に抵抗したことは、判事の真相究明への意志をいっそう強めるものだと思います」と、爆発で父ガッサン・ハスルティさんを失ったタチアナ・ハスルティさんはアラブニュースに語った。

1月28日、ベイルートでの集会でガッサン・オウェイダット検事総長の解任と2020年の爆発事故の問責を要求する抗議者たち。(AFP)

「私はビタール判事を、個人としてというより、この犯罪の調査を担当し、真実の解明と法の支配の堅持に取り組んでくれている判事として、信じています。彼は、政治家や高官を召喚することで、我々レバノン人が長い間変えられていない、不処罰の文化に挑戦しているのです」

2021年2月に初めて主任調査官に任命されたビタール判事は、多くのレバノン人から公平で誠実な裁判官と見られている。

ビタール氏は、レバノン北部出身の49歳のキリスト教徒である。公の場に出ることも、マスコミに話すこともほとんどなく、党派による色分けが根付いているレバノンでは珍しく、政治的所属を持たず、クリーンな評判を保っていることで知られている。

「ビタール氏は、腐敗した支配層にとって不愉快な存在だ。なぜなら彼は彼らのルールに従わないからだ」と、アラムディン氏はアラブニュースの論説の中で述べている。「ビタール氏は、影響力があるという印象を持たれないよう社交の場への招待を断り、利便を求める者からの電話にも応じないのだ」

影響力のあるキリスト教マロン派のビシャーラ・アル・ライ総主教は最近の説教でビタール判事への支持を表明し、判事に対し、「容認できない」司法界と政界の反発に屈せず、「自分の仕事を続ける」よう促している。

キリスト教マロン派のビシャーラ・アル・ライ総主教 。(AFP)

「司法機関の会議では、裁判官や検察官が高等司法評議会とその長に反抗し、会議への出席を控えるなど、定足数を欠く事態が起きている」と総主教は述べた。

「我々は、どんなに時間が経とうと、どれだけ支配者が代わろうと、あの爆発事故に関する犯罪を処罰せずに済ませることを認めはしない」

国内最大のキリスト教コミュニティの長であるアル・ライ総主教は、ビタール判事に対し、真相解明に協力する可能性のある国際機関の援助と支援を求めるべきだとも呼びかけた。

また、ヒューマン・ライツ・ウォッチとアムネスティ・インターナショナルは、国連人権理事会に対し、ベイルート港爆発事故に関する「公平な事実調査団を組織する決議を早急に行うよう」要請を行っている。

「レバノン当局は、この爆発事件に関する国内調査を繰り返し妨害してきた」と、両団体は共同声明で述べている。

レバノンの不安定な政治情勢では、爆発事故の生存者と遺族に正義がもたらされる可能性は低いと思われる。

「私たちには最初から、政治家たちが、1年以上前のタユネ地区での事件で見られたような、宗派間対立の危険を冒してまで調査を進めることを望んでいないことは分かっていた」と、ディワン編集長のヤング氏はアラブニュースに語った。

「彼らは法の支配を実行しようとしない。今日のレバノンでは、とにかく法の支配が欠落している。彼らは法の支配がないことの結果など気にも留めていないのだろう」

一方、爆発で父親を失ったハスルティさんは、自身の悲しみと怒りをソーシャルメディアで訴えてきた。彼女は、レバノンの政治家や当局者たちが何をしようとも、希望を捨てはしないと言う。

「真実は支配階級のエリートにとっては恐ろしいもので、だからこそ私たちは最後まで真実を追い求めなければ」と彼女は言った。「彼らは、家族や普通の人々が今持ち始めている力を、恐れているのです」

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