
ポール・イドン
エルビル、イラク・クルディスタン:年が変わってまだ2ヶ月弱だというのに、イスラエルとイランの間で続いている密かな紛争に関しては、2023年は既に多事な年となっている。
イスラエルは19日未明、シリアの首都ダマスカスに対して空爆を実施した。この空爆で5人が死亡し、いくつかの建物が損壊した。
ロイターが欧米の情報機関員2人の話として伝えたところによると、この空爆はイランの強力なイスラム革命防衛隊(IRGC)が運営する物流拠点を標的としたものだった。
シリアの首都中心部におけるこの空爆は、1月に起こった2つの特筆すべき事件に続くものだった。
1月28日夜、イラン中部の都市イスファハーンにある軍事施設を標的としたドローン攻撃が実施された。
間をおかず、翌日夜にはイラクからシリアに入ったイランのトラック車列を標的とした空爆が行われた。
専門家は、これらの秘密作戦の背後にはイスラエルがいる可能性が非常に高いと見ている。
イスラエルは過去10年間、IRGCが先進兵器をレバノンのヒズボラをはじめとする地域の代理民兵組織に渡すのを阻止するために、空爆作戦を実施してきた。
イスラエルはまた、IRGCがシリアに軍事拠点を築くのを防ごうとしてきた。
実際、イラクとシリアの国境にあるアル・カーイム国境検問所は1月29日の空爆が行われた場所であり、頻繁にそのような空爆の標的となっている。
イラン国内のドローンやミサイルの製造施設や同国の核開発計画に対する一連の秘密攻撃や破壊行為の背後にもイスラエルがいると考えられている。
イスラエルはさらに、モフセン・ファフリザデ氏をはじめとするイランの上級核科学者らの暗殺への関与が最も疑われる国だ。
同氏は2020年11月にテヘラン近郊の路上で襲撃され殺害された。その際には衛星を使って操作された自動銃が用いられたとされる。
2023年に入って空爆が立て続けに実施されているという事実は、地政学的優先事項が変わりつつある現在、イスラエルがこういった並行的な軍事作戦を加速・強化していることの現れである可能性がある。
2015年のイラン核合意(正式名称は包括的共同行動計画)は、制裁緩和と引き換えにイランによるウラン濃縮を制限しようとしたものであったが、バイデン政権やその欧州の同盟国による最大限の努力も空しく、消滅したも同然になっている。
核開発計画は抑制には程遠い。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長によると、イランは「数発の」核兵器を製造しようと思えばできるレベルにまでウラン濃縮を進めている。
グロッシー事務局長と欧州議会議員らは1月24日、「一つ言えることは、彼らが現時点で核兵器数発分の核物質を既に備蓄済みだということだ。一発分ではない」と述べた。「濃縮度60%のウランが70キログラム(155ポンド)(…)存在している。核兵器を持っているわけではないから、まだ核拡散ではないが」
また、濃縮レベルはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が2012年に警告したレベルを「とっくに上回っている」と指摘した。
ネタニヤフ首相が2012年の国連で、マンガ風の爆弾の絵が描かれたボードを持って、イランが核兵器を製造するために必要なウラン濃縮度について説明したのは有名な話だ。
このような背景と、ネタニヤフ首相が極右勢力との不安定な新連立を率いて政権に返り咲いたことを考えると、今後数週間から数ヶ月のうちにイランや地域全体においてさらなる攻撃が実施される可能性が非常に高い。
「ワシントン近東政策研究所」の防衛・安全保障アナリストでアソシエイトフェローのファルジン・ナディミ氏はアラブニュースに対し次のように語る。「私に言わせれば、どちらの攻撃もイランがシリアやヒズボラを(完全に)兵器化すること、そして核兵器製造能力を獲得することを防ぐためにイスラエルが長期的に行ってきた阻止作戦の延長線上にある」
「タイミングは偶然かもしれないが、イスファハーンで攻撃を受けた製造施設が何らかの形でヒズボラの誘導爆弾やイランの核開発のための部品製造に関与しているとしても驚きではない」
「このような攻撃はこれまでもイスラエルの政権の政策だった。現政権や将来の政権にとっても優先事項であり続けるだろう」
ナディミ氏は、こういった攻撃は「規模と頻度を」増していく可能性が高いと予想する。「イラン体制は今後、あらゆる攻撃的な抑止計画を加速するとみられる」からだ。
「エスカレーションのリスクいつでも存在する」ものの、2023年にイスラエルとイランの間で全面戦争が起こるかどうかは分からないという。ただ、「2025年までに本気の交戦が行われる可能性はある」と同氏は見る。
「ニューラインズ研究所」の戦略・イノベーション担当シニアディレクターであるニコラス・ヘラス氏は、イランが核兵器製造に動けば軍事衝突が不可避になると見る。
同氏はアラブニュースに対し次のように語る。「イランとイスラエル・米国の間で地域規模の戦争が勃発する前夜に近づきつつある」
「イスラエルは米国からの支持を得て、イランに対し、核兵器製造が決定された場合はイラン国内で戦争を起こす軍事的選択肢を確保しているという明確なシグナルを送っている」
「今になってみれば、米国の計算が変わったこと、そしてイランの核兵器製造を止められるのは戦争を起こすという信憑性のある脅しだけだというネタニヤフ首相は正しいかもしれないという認識が高まっていることは明らかだ」
イスラエルの行動は、レバノン、シリア、ガザ地区の代理組織を兵器化しようとするイランの試みを阻止するためのより広範な取り組みの一環だ。
ヘラス氏は語る。「ヨルダン川西岸地区で不透明な状況が続く中、またネタニヤフ首相の連立パートナーがパレスチナ人の土地の併合を要求する中、同首相は国内の政治的同盟者の注意をイランに向け直そうとしている」
「ネタニヤフ首相はイランとその兵器開発計画、特にAIや先進ミサイルを、イスラエルに対する戦略的脅威と見ている」
独立系の中東アナリストであるカイル・オートン氏は、直近の一連の空爆はイスラエルとイランの間の低レベル戦争という「新常態」の一部であり、シリア空爆作戦の延長線上にあると見る。
同氏はアラブニュースに対し、「イスファハーンにおけるイスラエルの作戦は主に象徴的なものであり、イスラエルの新政権が主に国内の人々に向けた宣言であるように見える」と語る。「手に入る証拠からは大きな被害がなかったことが示唆されるので、破壊による混乱は最小限だろう」
また、イスラエルの作戦がイランやその代理組織に対して深刻な損害や永続的な損害を与えている可能性を疑問視し、イスラエルはシリアにおいて同じ標的を複数回攻撃しており無視できるほどの効果しか上げていないと指摘する。
「イスラエルによる攻撃は物理的なインフラに集中しており、IRGC関係者や核開発計画の科学スタッフが標的となることは時々しかない。つまり、イラン体制は簡単に被害を復旧できるということだ」
イスラエルはイランの情報機関に広く潜入しており、IRGCの国外作戦を無力化したりイラン国内で幅広いリーチを確立したりしているが、「戦略的レベルでは」地歩を失い続けているとオートン氏は指摘する。
同氏の見方では、イランは既にシリアにおいて足場を確立しており、一掃するのは不可能だ。また、「シリアにおいてイランを攻撃することをロシアは止められないのではなく『許可している』のだとイスラエルが信じ続けていること」にも感心しないという。
同氏はこのことを「危険な思い込み」と表現し、その波及効果がイスラエルの欧米との政治的関係を損なってきたと指摘する。イスラエルは「ロシアに関するこのような『理解』を、ウクライナをほとんど支援しないことの言い訳として使っている」からだ。
イランのシリアにおける足場は、イスラエルに脅威を与えている唯一の場所ではない。2月10日、アラビア海でイランのものとみられるドローンが、イスラエル人が所有する商業タンカーを攻撃した。
イスラエルの億万長者イアル・オファー氏が所有するこのリベリア船籍の石油タンカーに対する攻撃は、軽微な損害しか与えなかったものの、「影の戦争」の観測筋はイラン側からの攻撃と見ている。
オートン氏は語る。「イランはイラク、レバノン、ガザ地区、イエメンにおいても支配力を持ち続けており、バーレーン、アフガニスタン、西アフリカにおいては(イスラム)革命の前哨基地の脅威を高めている」
そのため、イスラエルは事実上「イランと3つの国境を接している」ことになるという。
IRGCはレバノン、シリア、ガザ地区において代理組織に供与する兵器システムの質と量を強化してもいる。
例えば、IRGCは誘導爆弾計画の一環として、レバノンにおいてヒズボラが所有する大量のミサイルをアップグレードして、特定の標的を正確に攻撃できる能力を与えている。
その結果、これらの代理組織はイランの核開発施設への空爆に対する報復として、イスラエルに「壊滅的な損害を与える」可能性があるとオートン氏は言う。
「このことはある時点で、イスラエルがそのような攻撃の実施を考えることさえ阻止するのに十分な抑止力になるかもしれない」
「イランの核兵器獲得をイスラエルが軍事的に阻止できる時点はおそらく既に過ぎてしまったということは認めざるを得ない。イランは正式には核開発の閾値を超えていない。すなわち核実験は実施していない。技術的な理由よりは政治的な理由からだ」
一方、イランは引き続き「イラク国内の米軍への圧力を高め、地域および世界におけるイスラエルの資産を攻撃するための秘密作戦」を行いつづけるだろうとヘラス氏は言う。