• ネタニヤフ氏の発表後、数万人のイスラエル市民が抗議のために街頭に繰り出した
• ネタニヤフ政権は抜本的司法改革の中核を議会での採決へと推し進めようとしている

エルサレム：26日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は電撃的に国防相を解任した。その前日、国防相は首相に対し、国内を激しく二分し、軍隊内でも不満が高まっている抜本的司法改革計画の中止を要求していた。解任の発表を受け、数万人規模の市民が抗議のためにテルアビブの街頭に繰り出し、高速道路を封鎖した。

抜本的司法改革計画は大規模抗議デモを引き起こし、軍や経済界の指導者を怒らせ、同盟国の懸念を招いているが、今回の解任は、ネタニヤフ氏が今週、同計画を推し進めるシグナルになっている。

ヨアブ・ガラント国防相は、与党リクード党の幹部として、この計画に反対を表明した最初の人物になる。

首相府は手短な声明で、ネタニヤフ首相がガラント氏を解任したと発表した。その後、ネタニヤフ氏は、「私たちはみな、拒否反応に力強く立ち向かわなければならない」とツイートした。

ネタニヤフ氏の発表後、数万人のイスラエル市民が抗議のために街頭に繰り出し、テルアビブの大動脈を封鎖し、アヤロン高速道路を青と白のイスラエル国旗の海に変え、道路の中央で巨大なかがり火をたいた。

ベエルシェバ、ハイファ、エルサレムでデモが行われ、ネタニヤフ氏の自宅の外には数千人の市民が集結した。

イスラエルのアサフ・ザミール駐ニューヨーク総領事は26日、今回の解任に抗議して辞任すると表明した。

同氏はツイッターで、「これ以上この政府を代表し続けることはできない。私の義務はイスラエルが世界の民主主義と自由の灯火であり続けるようにすることだと信じている」と述べた。

この計画をめぐる軍内部の混乱を理由に、元上級大将のガラント氏が、論争の的になっている同法案を来月の独立記念日後まで一時停止することを求めてから1日も経たないうちに、今回の決定が下された。

ガラント氏は、社会の分断が軍の士気を低下させ、地域全体にわたるイスラエルの敵を鼓舞していると懸念を表明していた。「我々の強さの源泉が蝕まれていく様子が確認できる」と同氏は述べている。

他のリクード党員数名もガラント氏に続く可能性を示唆していたが、26日に急速に党内が一本化し、ガラント氏解任の流れができた。

ネタニヤフ政権のガリット・ディスタル・アトバリャン広報外交相は、同首相がガラント氏を首相府に呼び、「これ以上信頼できないので解任する」と告げたと述べた。

ガラント氏は発表後ほどなく、「イスラエル国家の安全保障はこれまで常に私の人生のミッションであったし、それは今後も変わらない」とツイートした。

野党指導者のヤイール・ラピード氏は、ガラント氏の解任は「国家安全保障を損ない、国防当局者全員の警告を無視するものだ」と述べた。

「イスラエル首相はイスラエル国家の安全保障にとっての脅威だ」と、ラピード氏はツイッターに書き込んでいる。
後任には、治安機関シンベトで長官を務めたアヴィ・ディヒター氏が就任すると予想されている。ディヒター氏はガラント氏に同調することを匂わせていると報じられていたが、26日に首相支持を表明した。

ネタニヤフ政権は、改革の中核である、すべての司法任官の最終決定権を連立政権に付与する法案について、今週中に議会での採決へと推し進めようとしている。また、最高裁判所の判決を単純過半数で覆す権限を国会に付与し、法律の司法審査を制限する法律の成立も目指している。

ネタニヤフ首相とその同盟勢力は、この計画によって司法府と行政府のバランスが回復し、彼らがみなすところのリベラルなシンパシーを持つ介入主義者的な裁判所が抑制されると主張している。

一方、批判的な人々は、一連の法律がイスラエルの民主制度から均衡と抑制を排除し、連立政権に権力を集中させることになると主張している。汚職容疑で裁判中のネタニヤフ首相には利益相反がある、とも表明している。

過去3カ月間に、何万人もの市民が街頭に繰り出し、この計画に反対するデモを行った。イスラエルの75年の歴史の中で最大のデモになっている。

活気あるイスラエルのハイテク産業のリーダーたちは、投資家はこの変更を嫌がって遠ざかっていくと語り、治安当局の元最高責任者たちはこの計画に反対の声を上げ、米国やドイツなどの主要同盟国も懸念を表明している。

この数週間、イスラエルの多数派ユダヤ人の間で最も人気があり、尊敬されている機関である、イスラエル軍の内部でも不満が高まっている。この数週間、戦闘機パイロットを含むイスラエルの予備役兵の間で、自発的な任務から離脱すると息巻く人が増えている。

イスラエル軍は、占領下にあるヨルダン川西岸地区での戦闘の急増、レバノンの過激派組織ヒズボラによる脅威、宿敵イランによる達成間近の核兵器開発問題に直面している。

この数週間、イスラエルとヨルダン川西岸地区占領地における暴力は、長らく見ないほどに激化している。

大きな影響力を持つイスラエルのシンクタンク、国家安全保障研究所のマヌエル・トライテンベルク所長は、「ネタニヤフ氏は国防相を解任することはできるが、ガラント氏から聞かされた警告を解任することはできない」と述べている。

一方、イスラエルのグッドガバナンス団体は26日、汚職で裁判を受けている間にネタニヤフ氏が司法問題を取り扱うのを防ぐことを目指す利益相反協定に、同氏が違反した容疑で、最高裁判所に処罰を求めた。

抜本的司法改革に激しく反対するイスラエルのクオリティー・ガバメント運動は、同裁判所に対し、ネタニヤフ氏に法律に従うよう強制し、従わないのであれば制裁として罰金か拘禁刑を科すよう求めた。ネタニヤフ氏は法の上に立つ存在ではない、と同団体は表明している。

同団体のエリアド・シュラガ代表は、「裁判所と法律の規定に従わない首相は特権階級で無政府主義者だ」と述べ、ネタニヤフ氏とその同盟勢力が抜本的司法改革に反対するデモ隊に対して放った言辞を繰り返した。「首相は法の前に頭を下げ、法律の規定に従うことを強いられるだろう」

ネタニヤフ首相は、請求は棄却されるべきであると応答し、最高裁判所には介入する根拠がないと述べた。

汚職で裁判中のネタニヤフ氏の奉職適格性を巡る判決で最高裁が認めており、同氏が拘束される利益相反協定に基づいて、司法長官は同氏が政権の抜本的司法改革計画を自ら取り扱うことを禁じている。代わりに、ネタニヤフ首相の腹心であるヤリブ・レビン法務大臣が抜本的改革を主導している。

だが、国会が現職首相の解任を困難にする法律を成立させたことを受け、23日にネタニヤフ氏は司法長官の決定という枷を外されたと述べ、危機に踏み込んで国家の「亀裂を修復」すると誓った。この宣言に対し、ガリ・バハラフ・ミアラ司法長官は、ネタニヤフ氏はこの論争に参加することで利益相反協定に違反することになると警告を発した。

エルサレムのシンクタンク、イスラエル民主主義研究所のガイ・ルーリー研究員は、「法と政治の両面での急激な進展によって、イスラエルは海図なき領域へと突入し、憲法危機が急速に芽生えようとしている」と指摘した。

「異なる統治機関の権威と正統性の源泉をめぐって見解の相違が存在するという意味で、私たちは憲法危機の入り口に立っている」と同氏は述べた。

ネタニヤフ氏は、富裕層の仲間やメディア界の有力者が関わる3つの異なる事案で、詐欺、背任、収賄の容疑で裁判を受けている。同氏は不正行為を否定し、抜本的司法改革を通じて裁きから逃れる道を確保しようとしているとの批判を撥ねつけている。 

AP