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サウジアラビアの新聞は救われることができるのか?

オカーズ新聞を読んでいるサウジアラビア人 (SPA)
オカーズ新聞を読んでいるサウジアラビア人 (SPA)
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04 Apr 2022 02:04:55 GMT9
04 Apr 2022 02:04:55 GMT9

タレク・アル・アフマド

ロンドン : サウジアラビアの機関紙『ウンム・アルクラー』の創刊100周年を記念した豪華なイベントが開催された。同国のメディア担当相代理であるマージド・アル・カサビー博士は、高官や学者、そしてもちろん多くのジャーナリストを含む聴衆に対して、大臣による5つの新しいイニシアティブの立ち上げを発表した。

イニシアティブの内容は次の通り。『サウジアラビア・メディア国立公文書館』と『サウジアラビア・メディア博物館』の設立、2年ごとの『ウンム・アルクラー・メディア・フォーラム』の開催、サウジ電気通信会社(STC)と共同で将来のメディアに関する革新的なアイデアを生み出すための『メディアソン(Mediathon)』の開始、そして最後に最も重要な、デジタル変革のための『サウジ新聞機関支援・実現プログラム』の第2段階の推進、である。

サウジアラビアの新聞社を支援するプログラムの発表は、参加した多くのジャーナリストにとってこの夜のハイライトであった。反応は二つに別れた。何年も待ち望んだ計画に安堵する者、過去数年のメディア相のほとんどが試みた任務がまた失敗するのではないかと懐疑的な者、である。

「もし誰かがサウジの新聞を救えるとしたら、それは間違いなくアル・カサビー氏だ」と、イベントに参加したあるジャーナリストはアラブニュースに語っている。

ウンム・アルクラー紙の100周年を記念するイベントで、王国のメディア担当相代理マージド・アル・カサビー博士は聴衆に向け、大臣による5つの新しいイニシアティブの立ち上げを発表した。(SPA)

アル・カサビー氏は2020年から王国の商業相と兼任してその職務に就いている。就任時、最初の発言の1つは同省の同僚に告げたものであった。「あなたの業績は満足のいくものではない」

その数ヵ月後、彼は地元の新聞社の編集者とバーチャルで会談した。彼らの財政難を聞き、救済策の可能性を検討することを約束する段取りをした。

アル・カサビー氏は、王宮の官僚の中でもベテランで、信頼と影響力のある人物として有名である。多くの部下や職員は彼を「大臣の中の大臣」と呼ぶほどだ。商業とメディアを担当するほか、いくつかの委員会を率い、政府関連の重要な仕事を何十件もこなしている。

しかしながら、2015年に原油価格が暴落し、政府と企業の広告や購読料に悪影響が出て以来、サウジの新聞を救うというテーマは、王国内で論争の的になっている。

地元の日刊紙の主な収入源は打撃を受けた。その結果、当時の世界的なトレンド――デジタル革命の影響により、ほぼすべての国で新聞社が毎日のように閉鎖されていた――に沿って、業界は衰退を加速させたのである。

それ以来、メディア関連の大臣が就任するたびに、業界を救うためのイニシアティブを導入しようとしてきた。しかしどれも成功せず、王国の新聞のいくつかは、従業員の解雇、給与の遅延や削減、印刷の完全停止を余儀なくされている。

多くの人のイメージとは異なり、政府系のウンム・アルクラー紙を除けば、王国の他の新聞はすべて民間企業であり、政府からの財政援助は受けていない。

要するにこれは、リヤドを拠点とするアルジャジーラ紙の長年の編集長であるハリド・アル・マリク氏が2021年10月に発表したコラムで物議を醸したように、サウジアラビアには「近い将来、ジャーナリズムもジャーナリズム機関もなくなる日」が来る危険があるということなのだ。

サウジアラビアにあるジャーナリズム組合に最も近い存在であるサウジ・ジャーナリスト協会(SAJ)の理事長でもあるアル・マリク氏は、政府は彼が「サウジの新聞を救うためのロードマップ」と表現するものを見つけることに躊躇していると批判している。

「我々は新聞社設立への支援が来るという希望を失ったことはないし、これからも失うことはない」と書いた。「サルマン国王とムハンマド・ビン・サルマン皇太子が、我々のジャーナリズムの死を受け入れることはない……あるいは記者やコラムニストが、もはや一国も生き残っていない世界の報道機関の危機を考慮した上でなお、メディアシーンから姿を消すことはないと信じる」と続けている。

政府機関は、メディアが無償で賞賛してくれるときだけメディアの役割を評価す。しかし、批判的になれば、新聞広告を拒否し、訴訟で権限を制限し、問い合わせにも返答しない始末だ。

メッカ・ニュースペーパー、モワファク・アル・ノワイサル編集長

アル・マリク氏や他の著名な新聞編集者たちが政府の救済を繰り返し要求したことに対して、元メディア相で外交官のアブドゥルアジズ・コジャ氏は、広く認知されているテレビのインタビューで、ジャーナリストに「物乞いをやめる」ように求めた。

コジャ氏の考えは、政府顧問の別の一派を代表するものである。つまり、大多数の新聞は民間企業であるため、自由市場のルールが適用されなければならず、利益を上げることができないのであれば、単に市場から撤退すればよいというものだ。

このような意見は、過去数年間のサウジメディア企業の不始末がなければ、今日の新聞はもっと良く、もっと柔軟な立場にあっただろう、という事実が後押ししている。

サウジの新聞業界では通常、「経営者」という言葉は、財務、商業、管理上の決定を行うCEOやゼネラルマネージャーを指し、編集者は編集上の決定に限定され、リーチと影響力に責任を持つ。

『メッカ・ニュースペーパー』の編集長であるモワファク・アル・ノワイサル氏によると、よくある問題は、CEOがメディアの経験やジャーナリズムの要件を全く理解せずに入社することが多いということだという。

「新聞社を囲う壁は低い。誰でも壁を登って裏庭にゴミを捨てることができる」と、彼は昨年2月、この件に関するコラムに書いている。

このコラムでアル・ノワイサル氏は、過去10年間に利益を上げていた王国の新聞社が無一文になった理由の一部を説明しようとした。

彼は、2012年以前の30年間、サウジの新聞は「年間7〜8桁の利益をもたらす大きな広告のパイ」によって全盛期を迎えていたと説明した。

彼は、多色刷りや光沢紙などの「化粧品的な投資」と表現するような、誤った判断や内容以外のあらゆるものへの無駄な出費について、企業の経営陣を非難している。

アル・ノワイサル氏の同僚の多くは、サウジアラビアの新聞社の経営陣に対する彼の皮肉な見方に同意しており、彼らが新聞を破壊する主な原因であると主張している。

「経営トップが世界最大の石油企業アラムコ社に匹敵する給与とボーナスを受け取っているという、メディア企業の現実を反映するよく知られた事例が存在する」と、SAJのメンバーの、ある長年の編集者は言う。

「サウジアラビアのメディア企業では、役員やCEOなどCxOレベルの幹部が不均衡な高給取りであることは、昔も今も共通の問題である。なぜなら、これらの経営陣は編集者やジャーナリストの予算を真っ先に削減する一方で、戦略や経営に関するコンサルティング会社には底なしの金をつぎ込むからだ」と、彼は付け加えている。

ほとんどの場合、これらのコンサルタントは、うまくいかないリサイクル戦略を取締役会に納得させるために使われている。アラブニュースが取材したSAJの会員は、最も恐れていることは、こうしたコンサルタントやメディア企業の上級幹部が、“業界を救うため”にメディア省の顧問になることだと説明した。

「コンサルタントに大金をつぎ込んだ末に行き着くのは、新聞を救う戦略ではなく、見栄えのするソーシャルメディア戦略なのだ」と彼は付け加えた。

「言い換えれば、新聞社は経営コンサルタントや自社の役員に法外な報酬を払って、今日の新聞社の問題を生み出した元凶であるFacebook、Twitter、Googleのような企業に儲けさせるだけの戦略を作っているのだ」

このような議論は、政府内の消極的な派閥に、新聞業界を救うという名目で介入する力を与えるだけだ。メディア企業のトップにこのような経営者がいると、どんなに資金を注ぎ込んでも投資の成果は単に目先の対処療法に限られ、数年後に問題が再浮上することを恐れるからだ。

アル・ノワイサル氏にとって、この問題はもっと複雑だ。そもそも、政府であれ民間であれ、自分たちが何を言っているのか、また、ほぼすべてのサウジの新聞がすでにウェブサイト、ソーシャルメディアアカウント、ビデオ、ポッドキャストを持っているのに、新聞業界にとって「デジタル変革」が何を意味するのかを理解している人が十分にいるとは思えないのである。

彼は、「デジタル変革(デジタルトランスフォーメーション/DX)という言葉自体は10年前に出てきたが、誰も注目しなかった。しかし、英国が進めている改革で再び話題になったとき、公的な要求となった」と書き、現在のメディアシーンで実際にその意味を理解している人は少ないと主張している。

「編集長、部長、役員、オーナー、政府関係者、実務家、学者など、メディアに関わる100人の関係者にデジタル変革の概念について尋ねたら、そのうちの10人の間でさえコンセンサスを得られないことはほぼ確実だ」と、彼は2月の記事で結論付けている。

では、サウジアラビアの新聞社のデジタル変革を支援し、実現するためのメディア省の構想は、実際にはどのようなものなのだろうか。

アラブニュースはメディア省の公式報道官であるアブドラ・アル・マグロース博士に連絡を試みたが、コメントも説明も得られなかった。

「メディア省または政府広報センターからもっと説明があればと願う」とアル・ノワイサル氏はアラブニュースに語り、自身も新聞編集者としてこのプログラムの詳細について何も知らないのは驚くべきことだと付け加えた。

「例えば、この構想はプログラムの第2段階であることを示している。しかしここで私は、第2段階へ移行するというが、第1段階で完了した成果物がどのようなものなのか、という疑問を抑えられない」

しかし、アラブニュースのファイサル・J・アッバス編集長は、ジャーナリストの権利と責任、情報公開法の合意、法的枠組みや政府のメディアガイドラインの更新を議論する前にデジタル変革を議論することは、「馬車を馬の前に置く」ことに等しいと考えている。

「その実、私たちはコンテンツ産業に身を置いている。デジタル変革やプラットフォームについて多くを語ることはできるが、これらはすべて目的に対する手段である。私たちがメディア省や政府全体から切実に求められているのは、視聴者にとってより有意義で有用なコンテンツを制作できるよう、より多くのアクセスと透明性を確保することである」と続けている。

重要なのは、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が最近行ったアトランティック誌のインタビューで、王国のメディアはもっと政府に挑戦してほしいというシグナルを発したことだ。

「私は、サウジアラビアのメディアは、政府の仕事、政府の計画、何でも批判するべきだと考えている。なぜなら、それが健全だからだ」と、皇太子は米誌に語っていた。

しかし、サウジアラビアでジャーナリズムが復活するためには、かなりの後押しが必要なようだ。アラブニュースが取材したジャーナリストの多くは、資金も重要だが、より重要なものがあると述べている。それは、メディアとその仕組みを理解する政府高官と、メディア企業の経営に実際に携わった経験のあるメディア企業幹部との組み合わせだ。

私たちがメディア省や政府全体から切実に求められているのは、視聴者にとってより有意義で有用なコンテンツを制作できるよう、より多くのアクセスと透明性を確保することである。

アラブニュース、ファイサル・J・アッバス編集長

アル・ノワイサル氏は3月19日にも『我が国の省庁は、皇太子殿下と同様にメディアを信頼しているのか』というタイトルのコラムを書いている。

その中で彼は、ほとんどの政府機関が「無償で賞賛してくれる時だけ、メディアの役割を評価する」と詳しく述べている。しかし、ジャーナリストが仕事をし、批判的であると、これらの政府機関は「新聞広告を拒否し、訴訟で権限を制限し、問い合わせに返答せず、政府広報センターの定型文を押し付けるだけ」という始末だ。

アッバス編集長はこう付け加える。「正直なところ、情報へのアクセスなしには、本当に成功した報道機関を作ることはできない」

「ウィキリークスやバズフィード、あるいはクレイグスリストのような大手サイトの成功を見れば、デジタル変換やデザイン、アプリケーションではなく、コンテンツがすべてであることがわかるはずだ」

「もちろん、債務の返済やメディア企業の再編は必要であり、業界はM&Aも検討すべきかもしれないだろう。しかしこれも、国営サウジ通信に掲載されたのと同じ内容をコピー&ペーストするような、見た目は違えど中身な同じプラットフォームばかりになるのであれば、もう悩む必要はないだろう」

一方、他のジャーナリストはアラブニュースに対し、同省の構想の一部が博物館の建設であることは良いことだと語った。彼は終わりのないTwitterフィードをスクロールしながらこう語った。「デジタル変革のためのこの新しい大臣の構想がうまくいかなければ、サウジアラビアのすべての新聞ブランドは、そこに行き着くことになるだろうから」

  • タレク・アル・アフマド氏はアラブニュース調査・研究ユニットの責任者を務めている。このテーマに関する2つのレポート「デジタル変革の神話」と「報道の救済」の共著者。
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