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イランとアフガニスタンの緊張が突然高まったのは何故か

 ザランジのアフガニスタン・イラン国境を横断する橋の入口ゲートで歩哨に立つタリバン戦闘員たち。(AFP)
ザランジのアフガニスタン・イラン国境を横断する橋の入口ゲートで歩哨に立つタリバン戦闘員たち。(AFP)
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29 May 2023 12:05:08 GMT9
29 May 2023 12:05:08 GMT9
  • イランがタリバンにヘルマンド川の水利権を侵害しないよう警告した数週間後の土曜日に、国境で衝突が発生した
  • 「脆い状態」のアフガニスタンは軍事的対立を避けたい意向である可能性が高く、中国政府も緊張緩和を勧める見込みだと専門家らは考えている

パルウィズ・カロハイル

カブール:先週末、イラン、アフガニスタン間の国境検問所付近で発生した激しい銃撃戦により少なくとも3人が死亡、数人が負傷し、両国間の緊張が高まった。この衝突は、両国が共同利用している水資源についての過熱した権利主張に端を発している。

イランとアフガニスタンの国境警備隊間の戦闘状態は日曜日には鎮静化し、緊張緩和のための協議が開始されたとの報道があった。今回イランのサスリ国境検問所で発生したような銃撃戦に始まりその後周辺地域の大国がそれぞれの背後について戦闘が本格化するといった紛争を行う余裕は、この地域の諸国、特にアフガニスタンにはないと、専門家らは述べている。

イランのイブラヒム・ライシ大統領が、アフガニスタンのタリバンに対して、両国が共有するヘルマンド川の水資源について、1973年に署名された二国間条約で定められているイランの有する水利権を侵害しないよう警告を発した数週間後に好戦的な雰囲気が強まった。

アフガニスタンからイラン東部の乾燥地域へと流れる全長1,000km以上に及ぶヘルマンド川の水資源は、アフガニスタン政権が発電と農地の灌漑のためにダム建設を決定したことで、イラン政権にとっては懸念の対象となっていた。

バクシャバード・ダムに佇むタリバン当局者。(AFP)

イランでは、近年、水不足問題が深刻化している。イラン全土の97%で程度の差はあるものの何らかの干ばつが発生しているとイラン気象局が推定した2021年には、農民による抗議活動が頻発した。

ヘルマンド川の水資源の共有について、5月18日に、アフガニスタンのアミール・ハーン・ムッタキー外務大臣代行とイランのホセイン・アミラブドラヒアン外務大臣の間で話し合いが行われた。

ムッタキー外務大臣代行は、土曜日にカブールで、イラン大使のハッサン・カゼミ・コム氏とも会談を行い、水資源問題を含む両国間関係について話し合った。

「外務大臣代行は、両国間の問題は相互の対話と理解を通じてより良く解決され得ることを指摘しました」と、アフガニスタン外務省の副報道官はツイッターで述べた。

ムッタキー外務大臣代行は、週初めに、タリバンは1973年の条約を「遵守し続ける」と述べつつ、「アフガニスタンと、この地域の長期化している干ばつを無視するべきではない」と付け加えた。

アフガニスタンのアミール・ハーン・ムッタキー外務大臣代行と協議中のイランのホセイン・アミラブドラヒアン外務大臣。(AFP)

アフガニスタンの干ばつは3年目となり、国際救済委員会が発表した2023年緊急ウォッチリストの第3位となった。気候変動がアフガニスタンの危機を深刻化、複雑化していることがこのランク入りにより浮彫りにされた。

イランのシースターンとバルチスターン地域の住民に向けて、ムッタキー外務大臣代行はアフガニスタン全土が「皆さんの苦痛を皆さんと同じように感じています」と述べた。

5月22日発表の声明で、ムッタキー外務大臣代行は、「私は、イラン政府に、水という生死を分ける問題を政治問題化しないように呼びかけています。こうした問題は、メディアでの発言ではなく、理解と直接の対話を通して解決することが最善です」と述べた。

「直近の2年間、アフガニスタン・イスラム首長国は管理可能な問題の解決手順を実行してきました。しかし、人間の能力を越えた(気候変動を原因とする)不可抗力が存在することを理解する必要があります。そして、それに応じた解決策を見つけなければなりません」

しかし、数日の内に、水資源の分配をめぐる両国間の緊張は極限まで高まった。タリバン当局者は、アフガニスタンのニームルーズ州とイランのシースターン・バ・バルチスターン州が接する国境沿いで、イランが最初に発砲したと非難の声を上げた。

ザランジのアフガニスタン・イラン国境を横断する橋の入口ゲートで歩哨に立つタリバン戦闘員たち。(AFP)

「今日、ニームルーズ州でイラン国境警備隊がアフガニスタンに向けて発砲し、これに反撃しました」と、アフガニスタン内務省のアブドゥル・ナフィ・タコール報道官が土曜日夜発表の声明で述べた。

タコール報道官は、この銃撃戦により両国1人ずつの2人が死亡したと明らかにし、「現在では、事態は既に収拾されています。アフガニスタン・イスラム首長国はこうした衝突を容認しません」と付け加えた。

イラン側は、最初の発砲はタリバンだったと非難し、国営のIRNA通信は、警察副長官のカセム・レザエイ将軍の言葉を引用し「いわれのない攻撃」と批判した。IRNAは、また、イラン側は「大きな損害と犠牲者」を出したと述べた。

IRNA通信によると、イラン国境警備隊員2人が死亡、民間人2人が負傷したという。同通信は、土曜夜までに状況は鎮静化したとも報じている。

「アフガニスタン・イスラム首長国は、いかなる問題に対しても対話こそが合理的な解決方法だと考えています」とアフガニスタン防衛省のイナヤトゥラ・フワリズミ報道官は声明の中で述べた。

マウラ・ムハンマド・ヤクブ防衛大臣代行

「非建設的な方策や戦争の理由付けは両国のいずれにとっても利益になりません」

水利権をめぐってのアフガニスタンとイランの緊張の高まりは、2021年にタリバンがアフガニスタンを支配下に置いて以来、両政権の間での見解の不一致が蓄積する中で発生している。これまでの両国間の不協和音には、国境線上各所での衝突やアフガニスタン難民への不当な扱いの報道などがある。

イラン政府は、公式にはタリバン政権を承認していないが、このアフガニスタンの新しい統治者との関係は保持している。

イランは、数十年間にわたって、戦争で荒廃したアフガニスタンから逃れた避難民を受け入れてきた。そして、2021年以降は、西側に戻るアフガニスタン人が増加している。

国連難民高等弁務官事務所の2022年のデータによると、イランでは、アフガニスタンのパスポートを持った60万人近くの人々が生活し、78万人のアフガニスタン人が難民として登録されており、210万人のアフガニスタン人が不法滞在しているという。

ハムーン湿地帯の風景。(AFP)

難民をめぐる緊張があやうく暴力的衝突に発展しかけたことは何度もある、今年1月にも、難民への不当な扱いの報道がソーシャルメディアで広範に拡散し、タリバン当局者がアフガン難民がイランで直面する困難についてイラン政府に懸念を伝えたことがあった。

人権監視団体のアムネスティ・インターナショナルが昨年8月に発表した報告書によると、イランの治安部隊は少なくとも11人のアフガン人を「不法に殺害」している。同報告書には、イランによるアフガニスタン人の強制送還や拷問についての記述もある。

ジュネーブ在住のアフガニスタン人アナリストのトレク・ファルハディ氏によると、隣国との軋轢が激しくなった場合でも、アフガニスタンは交渉によって問題を解決しようと務める可能性が高いという。

「タリバンはイランとの敵対を避けるはずです」と、ファルハディ氏はアラブニュースに伝えたコメントの中で述べた。「アフガニスタンは40年間の戦争後脆くなってしまっています…アフガニスタンは近隣諸国と協議を通じて問題解決に至る方が良いことを歴史が示しています」

アフガニスタンとイランの間で理由は何であれ紛争が発生した場合、この地域は強い影響を被るとファルハディ氏は語り、中国の地政学的役割やそのタリバン政権との繋がりも関与し始め得ると付け加えた。

イラン政権同様、中国政府もタリバンを公式には承認していない。しかし、中国政権はタリバンの代表団の訪問を歓迎し、多様な協議を行い、駐カブール大使館も維持している。

「中国政府はアフガニスタンの鉱物資源を確保したいと考えており、また、イランの石油とガスもアフガニスタンを通じて入手することを望んでいます」と、ファルハディ氏は述べた。

「中国政府は、アフガニスタンが得た新たな安定を乱すような展開を欲していません。そのため、中国政府はタリバンにイランへの戦争行為を激化させないよう助言するはずです」

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