カルバラ:アミン・サラー氏は、イラクのユーフラテス川のほとりで小麦を栽培していたが、長引く干ばつを受け、ナジャフの過酷な砂漠の奥深くで思いがけない新農地を開拓するに至った。
彼の農地では太陽が照りつける大地から100メートル以上掘り下げた井戸とつながったスプリンクラーから水やりをしており、川の水を畑に流し込む昔ながらの方法に頼っていた頃に比べ、今では2倍の収穫量になっているという。
伝統的な白いローブをまとい、反射性のサングラスをかけたサラー氏は、畑を歩きながら「今年は黄金の年、黄金の季節です」と話し、費用と水の使用量が抑えられ、収穫の量・質がともに向上するという利点を指摘した。
イラク政府は、この公的な支援により、小麦の栽培面積は昨年の約400万ドゥナム(40万ヘクタール)に対し、今年は約850万ドゥナム(85万ヘクタール)に倍増したとしている。
農業省のモハマド・アルクザイ報道官によると、この結果、小麦の収穫量は約400万トンとここ数年で最大となった。これは、ほぼ毎食パンを食べるイラク国民4300万人の需要の80%に相当する。このような農法の転換は、必要に迫られてのことである。というのも、何千年前に文明が興ったイラクの2つの主要河川が、降雨量の減少、浪費、上流のダムなどにより、その流量の半分以上を失ってしまった。
国連が気候変動に対して世界で最も脆弱な5か国のうちの1つであると発表し、気候変動による移住がすでに始まっているイラクでは、砂漠に井戸を掘り水源を確保することが即座の緩和策になるかもしれない。しかし、井戸に大きく頼れば、砂漠の帯水層が枯渇する恐れがあると、農業専門家や環境保護団体は警告している。一部の農家では、すでに水位の低下が見られていることが指摘されている。
イラクには11万以上の井戸があるが、水の浪費を防ぐ最新のシステムを備えているのは、ほんの一部、約1万に過ぎないと、農業技術者でナジャフ農業局元局長のカリム・ビラル氏は言う。
コンサルタント会社ナメア・グループの公共政策ディレクターで、イラクの農業を研究するハディ・ファタッラー氏は、次のように述べる。 「砂漠の井戸に頼るのは、とても追い詰められた状況です。
何千年分もの水を蓄えた帯水層から水を引くのですから、このような使い方をすれば数年で消滅してしまうでしょう」
イラクは農業の近代化に力を入れ、水に関しては近隣諸国と外交を通して河川の流量を増やし、戦争からの復興を終えていない農業地域を活性化させるべきだと、ファタッラー氏は述べた。
アルクザイ報道官によると、政府は持続可能な利用に重点を置き、点滴かんがいシステム やスプリンクラーシステムの設置を支援しているという。
砂漠の井戸への移行は大規模な機関でも導入されている。イマーム・フセイン聖廟を管理する機関は現在、聖廟から55キロメートル離れた砂漠で400ヘクタール相当の小麦を栽培しており、その規模は2019年の100ヘクタールから増加している。
「砂漠を緑のオアシスに変えました」と、聖廟で農業を担当する関係者のカフタン・アワズ氏は宣言したが、彼は昨シーズンから水位が12~15メートル低下していることを指摘した。
彼の背後には、緑色の米国製ハーベスターが、大きな円を描くように栽培された小麦を引き寄せ、処理された穀物を待機しているトラックに積み込みんでいる。トラックに積まれた穀物は政府のサイロに運ばれる。
そこから、穀物の大半は政府が運営する世界最大級の食糧プログラムに投入され、大多数の家庭に毎月配給される。
しかし、政府の意向とは反対に、プログラムは圧力を受けている。2021年と2022年の干ばつによる作物の不作と、ロシアのウクライナ侵攻による食料価格の高騰が原因だ。
「政府は痛みを大幅に軽減しようとしている」とファタッラー氏は言う。
「しかし、これは気候変動への適応策とはなりえません。モルヒネのようなものです」と語った。
ロイター