メネクセ・トキャイ
アンカラ:28日、現職のレジェップ・タイップ・エルドアン大統領がさらに5年の任期を勝ち取ったことで、トルコの外交方針についてはおそらく明らかにしてよい。つまり、長く務めてきたエルドアン大統領がこれまで支持してきた戦略を継続することになる。
German Marshall Fund of the USのアンカラ事務所長オズグル・ウンルヒサイジクリ氏によると、エルドアン大統領の主たる優先事項は、ロシアやアラブ湾岸諸国から必要な多額の資金を継続して確保する一方で、欧米からの投資も呼び込むことができるように欧米との摩擦を避けることであろう。
同氏はアラブニュースに対し、「トルコは欧州とも米国とも外交関係はいずれも順調に進むとは期待できないが、少なくとも安定させることは可能だ。なぜなら、エルドアン大統領と西側の相手国の双方が、この安定した関係から恩恵を受けることができるからだ」と語った。
「欧州と米国から寄せられた祝賀メッセージが、西側もこの安定した関係を望んでいることを示唆している」
ジョー・バイデン米大統領は、エルドアン大統領の再選を祝福し、次のようにツイートした。「NATO加盟国として、二国間問題や共通のグローバルな課題について引き続き連携して取り組んでいくことを期待しています」
ウンルヒサイジクリ氏によると、エルドアン大統領は3期目早々に、厳しい決断を下す必要もあるという。
「これまでトルコの選挙を理由に抑制的だった米国は今後、対ロシア制裁やNATO拡大について、さらに強く自国の主張を押し出すことになるだろう。これらの問題に対するエルドアン大統領の決断や、F16戦闘機購入のトルコの新たな要請に対する米国の変化によって、トルコと米国の関係はどのような方向にも傾くおそれがある」と述べている。
ドナルド・トランプ政権は、トルコがロシア製の地対空ミサイルシステム「S400」を配備したことをめぐり、2019年、米国の第5世代戦闘機F35の計画からトルコを排除した。
専門家はまた、エルドアン大統領が勝利したことで、トルコは国際法を順守しながらトルコ監督下の一帯に数十万ものシリア難民を送還するという、現在行われている取り組みを継続するだろうと強調している。
米政府からは疑いの目を向けられているが、シリアのバッシャール・アサド大統領との関係正常化の取り組みも継続すると予想される。これは、エルドアン大統領、そしてトルコ議会の新しい超国家主義や反移民主義の盟友が、シリアとの関係回復を、トルコのシリア難民を本国送還する唯一の解決法と考えているからである。
エルドアン大統領の新たな盟友、シナン・オガン氏は最初の選挙で第3の大統領候補として立候補したが、その後、決選投票ではエルドアン大統領を支持した。同氏は選挙期間中、必要に応じて武力による難民の本国送還を検討すると発言していた。
4CF The Futures Literacy Companyのアナリストで、クラクフに拠点を置くInstitute for Turkiye Studiesの創設者でもあるカロル・ボシレフスキ氏は、短期的には経済外交の政策においてトルコの外交や意思決定には継続性があると予想している。
ボシレフスキ氏はアラブニュースに対し、「エルドアン大統領はあいまいな外交政策を続ける可能性が高い。トルコは西側の同盟国に対して、トルコは依然として同盟国であるという根拠を示しながら、同時に、NATO内の結束を損なうようなことがあっても、断固として自国の利益を追求する可能性が高い。よって、エルドアン大統領が最終的にスウェーデンのNATO加盟に同意しても、私は驚かない」と語った。
28日の選挙で支持を受け、政治・外交の戦略で柔軟性を取り戻したエルドアン大統領は、有権者から大きな反発を受ける恐れもなく、いくつかの点で方向転換をすることも予想される。
テロリストをかくまっているとしてスウェーデンを非難しているエルドアン大統領が、長期にわたりスウェーデンのNATO加盟を拒否しているため、トルコ政府から加盟についての同意は得られていない。このスウェーデンのNATO加盟は、エルドアン大統領とバイデン大統領が協議することになっている、今年7月に開催される次回のNATO首脳会議前に、米国からF16戦闘機購入の約束を取り付けるための切り札としても利用されるかもしれない。
トルコがスウェーデンのNATO加盟を認めることになれば、米政権が議会の承認を経てF16戦闘機の売却を進める上でプラスになるだろう。
しかし、トルコ政府はシリアのクルド人民兵組織である「クルド人民防衛隊(YPG)」をトルコの非合法組織「クルディスタン労働者党」の関係団体とみなしているため、米国によるYPGへの支援に対して感じるエルドアン大統領の不安は、3期目においても変わることはないと思われる。
スレイマン・ソイル内務大臣は26日、選挙後、「トルコで親米の方針を追求するならば、いかなる者も裏切り者のレッテルを貼られることになる」と述べ、選挙後に米政府と取引関係になった場合どうなるかについて示唆した。
ボシレフス氏によると、エルドアン大統領の勝利は、トルコのユーロアジア主義者の層が保安機構において自らを強化する別の機会になるのかもしれないという。
「5年後を見据えた場合、トルコと西側との関係にさらに大きな影を落とすことになる重大な機会かもしれない」と同氏は述べた。
選挙後の動きにおけるもう一つの軸は、選挙一色から落ち着いたトルコに対する西側同盟国の立ち位置だろう。
「米国が、対ロシア制裁など自国の利益にとって不可欠と思われる分野で、トルコへの圧力を強める決定をしても、私は驚かないだろう」と同氏は述べた。
「エルドアン大統領がこうした圧力の可能性に対しどのように対応するかは、トルコと西側との関係性を決める、ひとつの要因になるだろう」と付け加えた。
トルコとロシアの関係については、両国大統領の個人的な親密さに支えられながら、トルコ政府はロシア政府と現在の政治・経済の関係を継続し、エネルギー分野での協力関係も深めると予想されている。
ロシアやアラブ湾岸諸国との緊密な関係も、トルコ経済を欧米市場からもっと独立させたいというエルドアン大統領の目標達成に効果があるだろう。トルコ政府は欧米の対ロシア制裁には加わっていないが、ウクライナ政府への軍事支援は続けている。
200億ドル規模のトルコ初の原子力発電所は、最初の25年間、建設したロシアのエネルギー企業ロスアトム社が所有することになっており、先日、バーチャルで落成式が行われた。そして、世界最大の原子力発電所建設のプロジェクトだったことから、ロシアのプーチン大統領は、この原発がトルコとロシアとの関係性を深めたと述べた。
また、ロシアはトルコの総選挙に先立ち、5月上旬、トルコの天然ガス代金の一部支払いを先延ばしにした。
トルコ経済が夏場に浮揚するためには、ロシアから多くの観光客を呼び込むことも必要だが、その一方で、エルドアン大統領は、トルコの次の選挙である来年3月予定の地方選挙前にも選挙モードを演出しなければならない。
「プーチン大統領は、ロシアとトルコの緊密な関係が自分の利益に不可欠であることをよく分かっており、特にロシアによるウクライナ侵攻後、トルコとの緊密な関係を良好に保つために多大な努力を続けるだろう」とボシレフス氏は述べた。
「天然ガスのハブ(拠点)になるというトルコの夢を育てることは、トルコを大国にしたいエルドアン大統領の物語に資するのである」