
フザー:地元の人はそれを「スイカサラダ」と呼ぶ。しかし、ガザ地区南部で一年の今頃に好んで食べられるこのグルメは、名前からの印象とは裏腹に全く甘くないしサッパリしてもいない。
作るのに数時間かかる熱くて塩味のこの料理は「ラシマ」「アジャール」「クルサ」など様々な呼び方がある。スイカが入っているが、その味はほとんど分からない。
料理の伝統を誇るガザ地区において、ラシマへの反応は驚くほど分かれている。南部の住民はこの料理が大好きだ。しかし僅か数キロメートル(マイル)北に行くと、素手で作るから不潔だといって避けられる。
ラシマが食べられるのは1年のうち2ヶ月だけだ。まだ小さくて熟れていないうちに収穫したスイカを火で炙って皮を剥き、そのやわらかい果肉を炙ったナス、薄切りしたトマト、レモン、ニンニク、タマネギ、オリーブオイルと混ぜる。それを焚き火の灰の中で焼いた特別な生地と一緒に食べるのだ。
「アジャール」(アラビア語で「熟れていない」という意味)は小さくて熟れていないスイカから来ている。「クルサ」は厚い生地を意味する言葉だ。「ラシマ」(「汚い」という意味)は大きな土の器で出されるドロドロの料理であることから来ている。
多くの人が言うには、この料理の起源は100年以上前、同地区に隣接するエジプトのシナイ砂漠にいたアラブのベドウィン部族にある。
パレスチナの伝統的な料理だと主張する人もいるが、それを裏付ける証拠はほとんどない。この料理が好んで食べられているのはシナイ半島との境界に近いガザ地区南部だけだ。それより北ではほとんど知られていない。
フザーに住むアモナ・アブ・ルジラさん(70)は、どちらの説にも一理あると話す。彼女は、スイカの季節になると両親や祖父が家の外でこの料理を作っていたのを覚えているという。「ベドウィンにルーツがあるパレスチナの伝統的な料理ですよ」
さらに北に行くと彼女に賛同する人はほとんどいないだろう。この料理のことを知っている人も、通常は材料を素手で混ぜ合わせるその作り方が不潔で嫌だと言う。
先日、ある友人同士のグループがイスラエルとガザ地区の境界線に隣接した庭に集まった。彼らは野菜をさいの目切りにして、それらの材料を火で炙った。火が消えると野菜は焦げており、厚い生地が灰の中に埋められていた。
失業中の会計士アブデルカリム・アル・サタリさん(33)はラシマを混ぜ始めた。生地を細かく刻み、全ての材料を大きな器に入れ、それを全て拳で押し潰した。彼は見物人の目を気にして黒い料理用手袋をしていた。
「季節が来るたびにラシマを作ってくれと頼まれます。もう20回くらい作りました」と彼は話す。
ソーシャルメディアコンテンツのクリエイターであるモハメド・アボルジェラさんはこの料理のマイナスイメージを払拭するために、小さな土の鉢に入れて、ガザ市で通りがかった人たちに無作為に試食してもらった。
その様子を撮影した約2分間の動画の中では、回答している人たちのほとんどはこの料理について聞いたことがないと言っているが、試食した人は全員気に入ったようだ。
この動画には1000件以上のコメントが集まった。その多くは、味には興味があるが作り方が嫌だという北部住民を困惑させるものだった。
ガザ市に住む女性ナダ・アッザムさんは、「特に一部の男性の作り方は目に心地よいものではありません」と言う。
彼女はラシマを食べたことがないという。しかし、女性たちが「清潔な料理方法」で作る動画を見た彼女は、今度食べてみると約束した。