アブダビ:海洋科学者のハマド・アル・ジャイラニ氏は、アブダビ近郊の島の沖合に浮かぶ船の上で、海水の入った箱に詰められたサンゴ礁の苗床から採取したサンゴを手で触り、色が失われていないことを確認しながら注意深く観察している。
かつて白化したサンゴが、今では大きく、健康な状態になり、元のサンゴ礁に戻る準備が整った。再び元気に育つことが期待されている。
環境庁アブダビのサンゴ再生プログラムに参加しているアル・ジャイラニ氏は、「非常に小さな断片から、私の拳ほどの大きさにまでサンゴを成長させようと試みています。一部はすでにそこまで成長しています」と語った。
苗床には、強い潮の流れ、適度な日光、透明な海水というサンゴが回復するのに最適な条件が揃っている。アル・ジャイラニ氏は、サンゴの成長を定期的に確認し、有害になりうる海藻や海草をすべて取り除き、魚にサンゴを食べさせることでサンゴを清潔に保ち、サンゴが十分に健康になってから移植している。
アラブ首長国連邦(UAE)沖のサンゴ礁がわずか5年で2度目の白化現象に直面した2021年以降、アブダビ環境庁(EAD)はサンゴの修復と再生に取り組んでいる。UAEは大規模開発と汚染産業が海中の生態系に害をもたらしていると非難を浴びた。EADのプロジェクトは、サンゴ礁とサンゴ礁に依存する海洋生物を保護しようと官民挙げてUAE全国で行われている多くの取り組みのうちの1つである。ある程度の進展はあるものの、専門家らは世界で温暖化が進む中、依然としてサンゴ礁の将来を懸念している。
サンゴの白化現象とは、海水温が上昇し、太陽の照り返しによってサンゴに色を与えている藻類が失われ、サンゴが白く見えるようになることだ。サンゴは白化現象に耐えることができるが、海洋生物を実質的に養うことができなくなり、サンゴに依存している個体群は脅かされている。
EADによると、水温が37℃に達した2017年に、アブダビ周辺を中心としてUAE全体で最大70パーセントのサンゴが消滅したという。しかし、アル・ジャイラニ氏によると、2021年の2回目の白化現象では40~50パーセントのサンゴが生き残ったという。
白化現象が発生したことで「かなりの量のこの地域のサンゴが消滅した」ものの、「実際、サンゴに回復力があることを証明することにもなりました(中略)サンゴはそのような条件に耐えることができるのです」とアル・ジャイラニ氏は語った。
石油、石炭、ガスの燃焼で温室効果ガスが大気中に放出され、それを原因とする人為的な気候変動によって海水温が上昇する中、世界中で白化現象が以前よりも頻繁に発生している。オーストラリアのグレートバリアリーフを筆頭に、世界中のサンゴ礁が大規模な白化現象に見舞われている。
今年後半にUAEの首都で開催される国連気候変動枠組み条約締約国会議では、地球温暖化とその影響の抑制方法についてじっくり議論されることになっている。
UAEは世界有数の産油国であり、一人当たりの温室効果ガス排出量は世界でもトップクラスだ。同国は2050年までに、あらゆる二酸化炭素排出量を削減するか、何らかの形で相殺する「ネットゼロ・カーボン」を公約に掲げているが、この目標にはアナリストから懐疑的な声が上がっている。
しかし、温暖化による白化現象だけが湾岸周辺のサンゴ礁に対する脅威ではない。国連環境計画(UNEP)によると、石油タンカーの頻繁な往来、化石燃料関連の活動、海洋施設、海洋資源の開発などはすべて、海洋生物に大きなストレスを与え、劣化を引き起こしているという。
環境保護活動家らはまた、大規模建築物や大規模な沿岸開発について、UAE、特にドバイを長年批判してきた。
10年以上前に建設が始まり、2008年から中断されているパーム・ジェベル・アリの建設では、約8平方キロメートルのサンゴ礁が破壊されたと報告され、自然保護論者たちの反発を招いた。
「9千万立方メートル以上の堆積物が浚渫され、ドバイ近郊に残っていたサンゴ礁の1つの上に投下されたようなものです」と、UAEのシャルジャにあるホールファカン大学海洋科学部のジョン・ヘンリック・スタール学部長は語った。
このプロジェクトは、ドバイ沖にあるパーム・ジュメイラ(ヤシの木の形をした小さな人工島の集合体)と同じようなものになるはずだった。
現在も海岸線やUAEのいたるところで、環境プロジェクトが続けられている。
開発会社URBは、2040年までにドバイの200平方キロメートルのエリアで10億個の人工サンゴと、80キロメートルに渡るビーチで1億本のマングローブの木を育てたいと発表した。
まだ研究開発の段階だが、このプロジェクトでは、サンゴと同じように藻類を宿すことができる材料をプリントする3D技術を開発したいと考えている。
ドバイのダイビングコミュニティも、サンゴの保護活動を推進している。
ダイビングプログラムのディレクターであるアムル・アンワル氏は、ダイバーのフィンやボートのアンカーで破壊されたサンゴを回収して再び移植する方法を教える、サンゴ修復の認定コースの作成を進めているところだ。
「人々に破壊されたサンゴを見て、そのまま放置してほしくないのです」とアンワル氏は言う。「私たちが提供するトレーニングを通じて、人々は破壊されたサンゴを見つけたら、別の場所に移植し、その成長を見守ることができるようになるでしょう」
しかし、専門家によると、気候変動による海水温の上昇の脅威に対処しない限り、サンゴの白化現象は今後も発生し続け、世界中のサンゴ礁が破壊されていくことになるという。
各国は、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることを公約している。科学者によると、1.5℃を超えると温暖化による地球への影響はさらに悪化し、場合によっては取り返しのつかないことになる可能性があるという。しかし、UAEを含むほとんどの国は、まだその目標の達成には程遠いとアナリストらは言う。
「サンゴ礁を劣化させた根本原因が、もはや脅威でないことを確認する必要があります」と、ホールファカン大学の科学者スタール氏は言う。「そうでなければ、修復努力は無駄になるかもしれません」
AP