
ドバイ: 世界が「国際麻薬乱用・不正取引防止デー」を迎える中、カプタゴン取引の研究を指揮するキャロライン・ローズ氏は、バッシャール・アサド政権は5月にジェッダで開かれたアラブ連盟首脳会議で他アラブ諸国に対して支援・協力の姿勢をみせたものの、国に多大な収益をもたらす麻薬ビジネスを手放しはしないのではないかと分析している。
ニューラインズ戦略政策研究所の所長である同氏はアラブニュースの時事問題トーク番組「フランクリー・スピーキング」に登場し、シリアのカプタゴン産業は政権の「大きな収入源」であるのみならず、「アサド政権が内戦を通じて頼りにしてきた、政権支配地域内における極めて繊細な権力構造を保護する」役割を担ってもいると指摘した。
同氏はカプタゴン取引に深く関わる「マーヘル・アサドなど」の「大物」の多くは「ほかならぬバッシャール・アサド氏の親類、またはシリアの非常に深い、非常に影響力のある治安組織のメンバー」であり、「シリア政権の権力および国全体にまたがる統治能力の維持に何らかの形で関わっています」と説明した。
5月8日にサウジアラビア・ヨルダン・エジプトによるシリア国内での合同空爆でカプタゴンの麻薬王メルヒ・アル・ラムタン氏が殺害された影響について同氏は、アル・ラムタン氏は「(シリア)南部における取引および密輸に強い影響力を持っていた」が、生産について重要な役割があったわけではなく、「政権が協力的な姿勢を示すために切り捨てても痛くない小物」に過ぎなかった、と述べた。
同氏は「アル・ラムタン氏は切り捨てられたが、他に切り捨てられなかった重要人物が大勢います」と指摘し、この動きは「シリア政権がカプタゴン取引撲滅に対する誠意をみせるいい機会」だった、と述べた。
合同空爆は、シリアがヨルダンおよびイラクとの国境沿いにおける麻薬取引の撲滅を支援すると約束した1週間後に行われた。シリア、エジプト、イラク、サウジアラビアおよびヨルダンの外務大臣は5月初め、アンマンで会合を開き、12年にもわたって続くシリア内戦の政治的解決に向けた計画策定について議論した。
アル・ラムタン氏殺害の重要性についてローズ氏は、「カプタゴン取引において重要性を増している」シリア南部において、故アル・ラムタン氏は「主に地元の部族や、何十年も不正取引に関与してきた密売人からなるとても大きい密売人のネットワークを仕切っていた」と指摘した。
アル・ラムタン氏は「カプタゴン取引をシリア国外に拡大しようとした当事者でした」と同氏は加え、シリア南部の密売人らが「アラビア湾岸諸国の輸出先への道となる」新しいルートを探していたことを強調した。
ローズ氏は、アル・ラムタン氏の死は「シリア政権と深い癒着がないならば背中を狙われていると思え」という「メッセージとして多くの密売人に伝わった」と考えている。
このため同氏は、これから「結果としてこれまでよりずっと巧妙で洗練されたカプタゴン生産・密輸方法」が出てくることに世界は備えているが、それは必ずしも特に米国で「死亡者数・致死率の大幅な増加を伴った」オピオイドの流行に匹敵するものではないと考えている。
カプタゴンについて、「現状の致死率は必ずしもオピオイドの流行時ほどではないため、同列に語るつもりはありません」と同氏は述べた。
2017年、米国保健社会福祉省がオピオイド危機について公衆衛生上の緊急事態を宣言した。報告によれば、1999年から2019年の間に、76万人以上が薬物過剰摂取によって死亡し、2020年には、薬物過剰摂取による死亡件数全体のおよそ75%がオピオイドによるものだった。
しかし、ローズ氏は多様で広範囲にわたるカプタゴン密輸能力に言及し、「洗練されていて高度な密輸手口について言えば、その点間違いなくカプタゴンも引けを取らないでしょう」と加えた。
同氏は続けて述べる。「これまでに果物や野菜、機械を用いた手口がありました。デザイナーズバッグ、学校の机、時にはドローン技術までもがカプタゴンの密輸に用いられていました。海路で密輸されるカプタゴンだけでなく、陸路の国境検問所で押収されるカプタゴンについても同様です」
「密売人は取引上の様々な変化だけでなく法執行機関の捜査能力も注視しており、目的地の新しい市場にカプタゴンを輸送する新しい方法を巧みに編み出し、その過程で輸送に関する新しい市場の開拓を行っています」
5月、バイデン政権はシリアからのカプタゴン流入を抑制する、議会で可決済みの戦略を発表すると述べた。ここから、シリアの麻薬取引は内戦が勃発した後2011年に始まったにも関わらず、米国はなぜ10年後になってようやく行動を起こしたのか、という疑問が生じてくる。
ローズ氏によれば、シリアのカプタゴン取引を抑制する戦略は「元々は前年のNDAA(米国国防権限法)修正案」で、「可決を得るのに2年かかった」という。
同氏は続けて「カプタゴンが問題として、そして中東地域の危機として認識されるまでにかなりの時間がかかりました。カプタゴン取引に政権が関わっている証拠を積み重ねるのにも、米国がこれを必ずしも中東にあるただの闇市の話ではなく、安全保障上および地政学上の重大な意味を持つものであることに気づくのにもかなりの時間がかかりました」
「典型的な官僚的形式主義の結果であるとも言えるでしょう。特に米国の立法制度の下では、こうした発議が可決されるのは非常に長い時間がかかります」
中東におけるカプタゴンの蔓延とその世界的な広がりについてローズ氏は、比較的安価で取引されるカプタゴンは主に、トラウマを抑圧する、生産性を向上させる、多幸感を引き起こすなど「様々な用途」があるために極めて人気が高い、と述べた。
同氏は、カプタゴンは湾岸諸国の様々な層に人気で、娯楽目的で使う人もいれば、「生産性を向上させて試験勉強する大学生の間」でも人気だと指摘する。「中東では、タクシー運転手やタンクローリー運転手、トラック運転手、またセカンドシフトを探している労働者などが服用しています」
「特に輸出先となっているサウジアラビアなどの国で、カプタゴンについて公にもっとよく知られるべき重大な事実は、カプタゴン錠の中身が何なのかもはや分からないということです」と同氏は述べた。
この点について同氏はこう語った。「1960年代から1980年代まではエチレンでしたが、実に2000年代初頭から、実際に行われたごく少数の化学分析の一つをもとに様々なカプタゴンの化学式が出てくるようになりました」
「カプタゴンは画一的でなくなったことで、生産者はカプタゴンを好きなように作るようになったのです。これは極めて重大な公衆衛生上の懸念を引き起こすもので、引き起こしてしかるべきです」
ローズ氏によればサウジアラビアは、「金回りのいい若者が大勢いる」といった主に富と人口構成からなる理由で、カプタゴン取引のネットワークの「儲けを出すのに格好の」市場であるという。
アラブニュースによる新しいドキュメンタリー「アブ・ヒラライン: サウジのカプタゴン取り締まり」は、サウジアラビアのカプタゴンとの戦いを深掘りする。カプタゴンの産地、生産法、取引を捜査しながら、国内での消費状況について調べていく。