エルサレム:先週ヨルダン川西岸地区で19歳のパレスチナ人男性が殺害された事件への関与が疑われたイスラエル人入植者は9日(水曜日)、拘置所から釈放された後、自宅軟禁に移されたとエルサレムの裁判所が発表した。
イスラエルの判事は、急進的なユダヤ人入植者であるエリシャ·ヤレド容疑者の拘留を延長するには証拠が不十分であると述べた。裁判所はまた、19歳のクサイ·マタンさんを射殺した罪に問われている2人目のイスラエル人入植者に対し、先週金曜日にパレスチナの牧畜村ブルカを襲撃した際に負った傷の治療ため、入院しながら勾留を続けるよう命じた。
マタンさんの家族や他のパレスチナ人にとって、ヤレド容疑者の自宅軟禁処分への移行は、占領下のヨルダン川西岸地区でユダヤ人過激派が享受している不処罰の感覚を強調するものだった。
「彼らはとてもおぞましく、不道徳なことをした」と、マタンさんの34歳の叔父、ハマーム氏は語った。「このような攻撃は今後も終わらないだろう」
ヨルダン川西岸地区の都市ラマッラー近郊でおきたマタンさんの殺害はパレスチナ人を激怒させ、人権団体や外国の外交官からの非難を巻き起こした。米国のパレスチナ問題担当事務所は異例の声明で、マタンさん殺害を「テロ攻撃」――この表現は通常、パレスチナ人によるイスラエル市民への攻撃に対して使われている――と非難し、「完全な説明責任と正義」を求めた。
先週の金曜日、武装したイスラエル人入植者の暴徒がヨルダン川西岸地区の村に押し入り、少なくとも2台の車に放火、通りに群がっていたパレスチナ人に発砲した。マタンさんが殺され、他の4人のパレスチナ人が負傷した。イスラエル軍は、パレスチナ人とイスラエル人入植者の口論がエスカレートし、イスラエル人入植者が発砲し、パレスチナ人が石や花火を投げつけた後にマタンさんが撃たれたと発表した。
この出来事は、ここ数ヶ月ヨルダン川西岸地区とイスラエルを襲っている激しい暴力の急増に拍車をかけた。
水曜日、マタンさんの家族は、ヤレド容疑者を自宅軟禁にするという裁判所の決定は、彼らの正義に対するわずかな期待さえ削り取ったと語った。
「彼らは無実の若者の首を撃って家に帰った。これは占領のすべてを物語っている」とマタンさんの叔父は語った。
マタンさんは「シャイでユーモアがあった」と、ハマーム氏は付け加えた。マタンさんは高校を中退してラマッラーの香辛料店で働きながら、家族を養っていた。最近は結婚の約束もしていた。「国全体が悲しんでいる」と彼は言った。
警察は、2人のイスラエル人入植者(ヤレドとイェヒエル·インドール両容疑者)を、死を引き起こし、司法を妨害し、民族主義的動機による放火攻撃を行った罪で告発した。被告側は正当防衛だと主張している。
ヤレド容疑者は、ニットのスカルキャップをかぶり、長い髪を束ね(正統派ユダヤ教徒にみられるパヨット)、緑色のTシャツを着て、法廷に入ると笑みを浮かべた。動画で同容疑者は、拍手する支持者たちに囲まれながら、歌い踊りながら階段を下りていった。
ヤレド容疑者は、イスラエル国家安全保障省のイタマル·ベングビール大臣が率いる極右政党「ユダヤの力」の議員のスポークスマンを務めていたこともあり、この事件はイスラエル国内でも物議を醸している。
超国家主義の入植者リーダーであるベングビール氏は、反アラブ的なレトリックと行動で知られていおり、昨年末に ベンヤミン·ネタニヤフ首相を政権に押し上げ、現在もこの右派政権に圧力をかけ続けている。
ここ数ヶ月、急進的なユダヤ人入植者のグループがパレスチナの町や村への攻撃を強め、市民を襲い、財産を破壊している。ネタニヤフ政権は、パレスチナ人に対する強硬路線をとり、ヨルダン川西岸地区をより強く支配することを宣言している。
「パレスチナ人の殺害から自分や他人を守るユダヤ人は、殺人の容疑者ではなく、私の全面的な支持を受ける英雄だ」と、ベングビール氏は今週、ヤレドとイェヒエル両容疑者の逮捕についてツイッターに書き込んだ。
イスラエルは1967年の中東戦争でヨルダン川西岸地区、東エルサレム、ガザ地区を占領した。パレスチナ人は、将来の国家建設のためにこれらの領土を求めている。
人権団体は、入植者事業がヨルダン川西岸地区における深い権力不均衡を引き起こしていると指摘している。パレスチナ人は軍事法廷で起訴され、極めて高い有罪判決を受けるが、イスラエル人は民事法廷で起訴される。
イスラエルの人権団体イエシュ·ディーン(Yesh Din)は、2005年以来、イスラエル市民がパレスチナ市民に対して行ったとされる暴力、財産犯罪、パレスチナ人の土地の強奪、その他の犯罪に関する1500件以上の捜査のうち、起訴に至ったのはわずか7%だったと、2月に報告している。
AP