


ロンドン:リビアで死者と行方不明者をそれぞれ数千人出した豪雨は、長年の混乱と分裂によって崩壊を続けてきたこの国にとって、新たに大きな痛手となった。
今回の洪水は、この国の現代史の中で最も致命的な環境災害となった。長年の戦争と中央政府の不在により、国内のインフラは老朽化したままで、豪雨に対して脆弱になっていた。国連によると、現在リビアはいまだ気候変動戦略を策定していない唯一の国となっている。
この北アフリカの国は、2011年にNATOの支援を受けたアラブの春の蜂起によって、独裁支配者ムアンマル・カダフィが打倒されて以来、対立する政権間で分断され、民兵組織の紛争に悩まされてきた。
同国東部のデルナ市は、2つのダムが決壊した後、広範囲にわたって川沿いの建物が押し流されて消失し、今回の洪水で最も大きな被害を受けた。
洪水発生後のビデオには、この港湾都市に残った高層建築物や横転した車から勢いよく水が流れ、その後、埋葬のために回収された遺体が、毛布を掛けられ歩道に並べられている様子が映っている。住民らによると、危険を示す唯一の兆候はダムが割れる大きな音で、警報システムも避難計画もなかったという。
ここからは、なぜ今回の豪雨がこれほど破壊的だったのか、そして最も支援を必要としている人々に援助を届けるうえで、どのような障害が存在するのかに注目する:
2つの政府、2人の首相
2014年以降、リビアは2つの敵対する政府に分裂しており、それぞれの政府は海外の支援国と現地の多数の武装勢力によって支えられている。
トリポリでは、アブドルハミド・ドベイバ首相が国際的に認められたリビア政府を率いている。一方、ベンガジでは、敵対する東部政権をオサマ・ハマド首相が率いており、有力な軍司令官ハリファ・ハフタルがこの政権を支援している。
両政府ならびに東部司令官は、洪水被害地域での救助活動を支援すると個別に約束しているが、これまで協力が成功した実績はない。
2021年に予定されていた選挙が実施されなかったなど、国際的な圧力にもかかわらず、敵対する議会は長年統一できていない。
2020年の時点では、両政府間で全面戦争が行われていた。ハフタル司令官の軍は、首都占領を目指した1年にわたる軍事作戦でトリポリを包囲し、数千人を殺害したが失敗に終わった。そして2022年には、元東部政権の指導者であったファティ・バサガがトリポリに政権を樹立しようとしたが、対立する民兵組織間の衝突により撤退を余儀なくされた。
地域および世界の大国の支援が分断をより深いものにしている。ハフタル軍はエジプト、ロシア、ヨルダン、アラブ首長国連邦の支援を受けており、西部政権はトルコ、カタール、イタリアの支援を受けている。
UAE、エジプト、トルコは、いずれも現地での救助活動を支援している。しかし火曜日の時点で、救助部隊はデルナに到達できていない。
国際危機グループのリビア担当上級アナリストのクラウディア・ガッツィーニ氏は、この港湾都市につながる道路の多くが豪雨で寸断されており、問題は部分的にロジスティクスにあると語る。しかし、政治的対立も影響している。
「救助チームを派遣する国際的な取り組みは、トリポリに本拠を置く政府を経由する必要がある」とガッツィーニ氏は語った。つまり、最も被害を受けた地域内での援助の許可には、敵対する政府当局の承認が必要となるのだ。
彼女は、ベンガジ政府が単独でこの問題に対処できるかどうか懐疑的だと話した。
増大する不安と不満
今回の洪水は、この国の無法状態から生まれた一連の問題の後に発生した。
先月、リビアとイスラエルの外相が秘密裏に会談を行ったというニュースが流れた後、リビア全土で抗議活動が勃発した。このデモはドベイバ首相の辞任を求める運動に変わった。
8月初めには、首都で敵対する2つの民兵組織の間に散発的な戦闘が発生して、少なくとも45人が死亡し、危険な武装集団がリビア全土に及ぼしている影響を再認識させられた。
リビアは、紛争や貧困から逃れ、ヨーロッパでより良い生活を求める中東やアフリカの移民にとって、主要な中継地となっている。民兵組織や人身売買業者はリビアの不安定な情勢につけ込み、エジプト、アルジェリア、スーダンを含む6か国から国境を越えて移民を密入国させている。
一方、リビアの豊富な石油埋蔵量は、ほとんど国民の助けになっていない。リビアの最も価値のある輸出品である原油は、封鎖や企業にとっての安全上の脅威といった理由から、生産量が微量にまで落ち込むことさえある。また、石油の収益の配分が主要な意見の相違点となっている。
見放された都市の物語
デルナ市の大部分は、リビアがイタリアの占領下にあった20世紀前半に建設された。風光明媚な海辺の白い家屋やヤシ園が有名であった。
しかし、2011年のカダフィ氏追放の余波で、この都市は過激派グループの拠点と化し、エジプト軍の空爆を受け、その後ハフタル派の軍隊に包囲された。そして、2019年にハフタル軍によって占領された。
国内東部の他の都市と同様、革命以降あまり再建や投資が行われていない。
1970年代半ばにユーゴスラビアの企業によって建設され、今回崩壊したワディ・デルナ・ダムをはじめ、近代的なインフラのほとんどはカダフィ政権時代に作られた。
ロンドンに本拠を置く英国王立防衛安全保障研究所のリビア専門准研究員のジャレル・ハルチャウイ氏によると、ハフタル氏はデルナ市とその住民に疑惑の目を向けており、過度の独立を認めることに消極的だという。例えば昨年、デルナ市の大規模な再建計画は、デルナ出身者ではなく、ベンガジなどから来た外部の人間によって主導された。
「残念なことに、この不信感は、これからの災害の後始末に悲惨な結果をもたらす可能性があります」とハルチャウイ氏は語った。
AP