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ドバイで開催される国連気候変動会議に射す一条の特別な希望の光

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02 Oct 2023 12:10:47 GMT9
02 Oct 2023 12:10:47 GMT9

地球温暖化が世界にもたらす存続の危機を考慮すると、気候変動に関する議論には往々にして暗澹たる気持ちにさせられる。しかし、2023年の国連気候変動会議(COP28)まで後2ヶ月となった今週、国際エネルギー機関(IEA)が発表した議題設定報告書から希望に満ちた明るい特別な光が放たれた。

最重要な発見は、予想外にも、画期的なパリ協定を堅持し続けるための小さな「機会の窓」が残されていることだった。これは、クリーン電力の生成と利用が目覚ましい成長を遂げた結果だ。具体的には、太陽光発電の容量と電気自動車の販売台数が、2015年にパリで合意された世界の気温上昇を産業革命以前の水準から摂氏1.5度以内に抑制するという2050年までの目標の達成に向けてIEAが算出した基準値にほぼ合致する形で増加しているのである。今年は、世界の多くの地域で気温が記録的な水準にまで上昇し、世界の平均気温は既に産業革命以前の平均よりも約摂氏1.1度高くなっている。

IEAは、太陽光発電容量と電気自動車の販売台数増加により、現在から2030年までの排出削減量の約3分の1が賄われると予測している。他方、技術革新によって新たな可能性が切り開かれ、コスト削減も進んでいる。

ここで含意されている進歩は、IEAの2021年の報告書との比較によって明示され得る。わずか2年前、IEAは、将来の排出量削減の50%を占める可能性のある技術がまだ市場に登場していないという事実を強調していた。今年の報告書では、この50%が35%にまで低下したことが明かされている。これは、再生可能エネルギー技術の急速な発展の証左である。

とはいえ、疑いようのないことではあるが、IEAは「1.5度目標」を達成するためには2020年代後半にさらに強力な対策が必要になるだろうと述べている。IEAは、ウクライナ紛争によるエネルギー危機と共に、化石燃料への投資増加による悪影響や新型コロナ禍からの経済回復による「断固として高い排出量」がもたらす悪影響について警告を発した。

IEAによると、再生可能エネルギーの全世界での総生産量を3倍以上に増加させることや、電気自動車やヒートポンプの利用を大幅に増やすこと、エネルギー部門におけるメタンの75%削減、エネルギー効率の年間向上率を2倍にすることといったいくつもの改善が必要とされているという。

こうしたハードルがどれほど高いかを示す指標の1つは、今年のエネルギー効率への世界的な投資が既に過去最高の6,000億米ドルに達すると予想されていることである。目標達成に向けて、IEAは最新の報告書を用いて、「ネット・ゼロ・ロードマップ」を発表した。これは、先進国と発展途上国の双方にとって重要な要素を有する多面的なアプローチである。

ドバイで開催されるCOP28気候サミットは、気候変動への対応において極めて重要な意味を持つ。

アンドリュー・ハモンド

IEAは、先進工業国に対しては、可能な限り多くの国が2050年の期限よりも5年早い2045年にネットゼロ目標を達成するよう要請している。そうすることで、より長い移行のための時間枠を発展途上国に提供することができるようになるのである。

「1.5度目標」とは相容れないため、石炭やガス、石油関連の新プロジェクトは不必要であるとIEAは明言している。しかし、すでに開始されているプロジェクトに対してはある程度の投資が必要となる。

とはいえ、重要な事は、クリーンエネルギー革命が急速に進捗していることである。化石燃料の需要はまもなくピークに達し、その後、2030年頃には25パーセント減少し、今世紀半ばには80パーセント減少すると予想されている。

IEAは、この壮大な大望を実現するためには、クリーンエネルギーへの投資を今年の約1兆8,000億ドルから2030年代の初めまでに年間約4兆5,000億ドルに増やす必要があると述べている。先進国がエネルギー転換を進める一方で、発展途上国は一層速いペースでこの取り組みに着手していくべきだとIEAは強調した。

最新のエネルギー源の利用がすべての発展途上国にとって可能となるようにするためには、約450億米ドルの投資が必要となる。これは、具体的な規模感としては、全世界のエネルギーへの年間の投資総額の約1%相当の金額である。

クリーンエネルギーの利用の早急な増加が世界各国で実現できない場合には、炭素回収や貯蔵技術の改善などが必要となるとIEAは警告している。しかし、これらは未だ大規模には実証されていない。こうしたシナリオでは、今世紀後半には、毎年約50億トンの二酸化炭素を大気から除去する必要があるとIEAは述べている。

再生可能エネルギーの総生産量を3倍以上に増加させることなど、主要目標達成への機運が世界的に高まっていることから、ドバイで開催されるCOP28気候サミットは気候変動への対応において極めて重要な意味を持つとIEAは述べ、すべての国に今後半世紀にさらに高い目標を掲げ成果を上げるよう今サミットの開催機関中に全力を傾注するよう呼びかけた。

IEAは、当然ながら、最大の課題は、本質的に、経済的なものではなく政治の領域にある見込みが高い事を強調している。そのため、IEAの議題設定報告書は、現在、米国や中国を含む世界中の国家間で強力な国際協力が極めて重要であり、この喫緊の課題の規模を勘案すると、気候外交を地政学から分離することが必要なのだと述べている。

IEAがこの点を強調することは正しい。2015年のパリ協定の前身は、その1年前の中国政権と米政権の間での気候変動に関する二国間での取り決めであったことは、往々にして、見過ごされがちである。米国のバラク・オバマ大統領と中国の習近平国家主席の関係が、時として緊張の走るものではあったものの、比較的平穏だった時期に米中はこの合意に至ったのだ。

こうした状勢や経緯をすべて考慮してみると、世界は歴史的な転換点にあるのだと言い得る。IEAの議題設定報告書はいくつもの歓迎すべきニュースを伝えているが、実際に目標に至るための次のステップはさらに困難なものとなるであろう。目標の達成には、ロシアのウクライナ侵攻後の地政学的緊張の緩和が必須であり、そのためには見識のある卓越した外交が必要なのである。

  • アンドリュー・ハモンド氏はロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのLSE IDEASのアソシエイト。

 

 

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