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しかしパレスチナの大義はどうなる?

パレスチナの旗。占領下のヨルダン川西岸地区中心部。(ファイル/AFP)
パレスチナの旗。占領下のヨルダン川西岸地区中心部。(ファイル/AFP)
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01 Oct 2023 01:10:23 GMT9
01 Oct 2023 01:10:23 GMT9

サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下は先日のFOXニュースによるインタビューの中で、パレスチナ・イスラエル問題について4つの事をはっきりさせた。

1:パレスチナ人の生活を改善することになる解決策に関連した交渉は確かに続いている。

2:サウジはイスラエルとの国交正常化に向け少しずつ近づいている。

3:バイデン政権がそのイニシアティブを取っている。

4:サウジ・イスラエル交渉が中断されたというのは事実ではない。

この明確な発言は、憶測が数ヶ月続いた末に出てきたものである。多くの国際政策アナリストは、パレスチナ指導部が受け入れている解決策を犠牲にしてサウジアラビアが長年主張してきた正当な要求によって混乱させられていたようだ。その要求とは、サウジと米国の安全保障協定の文書化、サウジの平和的原子力開発計画の支援、サウジへの武器売却に関するこれまでの制限の撤廃である。また、多くの専門家が見落としているのは、米国に対するこれらの要求はサウジ・イスラエル国交正常化交渉の当然の結果ということだ。この交渉がなければいずれの要求も不可能だっただろう。いかなる米政権にとっても、イスラエルとの国交がない国に対してこのような取り決めを承認することはほぼ不可能な任務であるはずだからだ。

言うまでもなく、各国には自国の利益に重点を置きそれを追求する権利がある。今論じている問題の場合、パレスチナの観点を考慮に入れることを(実は誰からも強制されずに)主張している地域大国があるという状況だ。地域の他の国々は係争地の承認と引き換えに同様の国交正常化合意を追求することにやぶさかでない。モロッコやドナルド・トランプ時代の西サハラ承認の場合がそうであったようにだ。より極端な例だと、レバノンはヒズボラに支配されているにもかかわらず、海洋ガス田に関する権利を認める見返りとしてイスラエルとの海上国境合意の締結に成功した(イスラエル国家を正式には承認していないにもかかわらずだ)。

しかし、イスラエルと合意を結んだアラブ諸国はいずれも、サウジアラビアほどの重み、重要性、影響力を持っていない。そこで冷笑家が直ちに提起するであろう避けては通れない疑問は、「パレスチナの大義はどうなる?」というものだ。この重要な原則をサウジアラビアは売り渡したことになるのだろうか。よろしい、それに対しては皇太子殿下自身が最も上手く答えている。「我々にとってパレスチナ問題は非常に重要だ。それを解決する必要がある(…)パレスチナ人の生活を楽にするような場所に至ることを望んでいる」。しかし、懐疑派や戦争屋はいつだって問題をややこしくするために必要なことなら何でもする。だから私の意見に注意を払わなくて結構である。行動は常に言葉よりも雄弁だからだ。

狂気の定義の一つは、同じことを何度も繰り返しながら違う結果を期待することだ。

ファイサル・J・アッバス | 編集長

2002年にアラブ和平イニシアティブを提案したのはサウジアラビアであったことを忘れてはならない。皇太子殿下の発言は、それ以降の和平に向けたいかなる試みからも逸脱していない。結局のところ、サウジアラビアは(他の国と同様に)パレスチナ人やイスラエル人の代わりに交渉や決定を行うことはできない。和平とその条件は彼らのみによって合意されなければならないのだ。

サウジアラビアにできること、(そして私の理解では)過去2年間に行ってきたことは、両当事者にとって和平を戦争より魅力的な提案にするためのイニシアティブへの取り組みだ。実際、サウジ外務省のチームが一体となって、EUやアラブ連盟などの真剣な関係者と共に、アラブ和平イニシアティブのバージョン2.0を描くことに取り組んできた。もし和平が実現可能ならば、この地域はどのような姿になるだろうか。また、両当事者にその価値を理解してもらうためのリソースを、我々はいかに共同出資できるだろうか。

私の理解では、イスラエルやその他の近隣諸国への輸出を通してパレスチナ経済を活性化させる方法を含め、想像できる限りの細部が検討されている。もっと言えば、これはジャレッド・クシュナー氏の計画から学ばれた教訓かもしれないとも言える。確かに、クシュナー氏は結局パレスチナよりもイスラエルに多くを与えることになったのであって、もし同氏のチームがパレスチナ自治政府(PA)を疎外しなければもっと良い仕事ができたはずだとも言えるのだ(それでもPAはわざわざ姿を現すことができたかもしれない)。しかしいずれにせよ、同氏のチームはパレスチナ経済を支えパレスチナ人に機会を与える方法についての考えを初めて提供したのだ。

ナーイフ・ビン・バンダル・アル・スダイリ駐ヨルダン・サウジ大使をエルサレム総領事に任命する、アル・アクサモスクの礼拝者へのあらゆる脅迫に対する非難を続ける、両当事者に見返り(サウジで行われる国際サミットへの出席を一部のイスラエル閣僚に認めることなど)を提示し続けるなどの手段によって、サウジアラビアは現実的かつ検証可能な和平の枠組みの実現に向けて最善を尽くしている。おそらくそれがサウジに実現可能な最大限だろう。

今後数週間あるいは数ヶ月で奇跡は起こるだろうか。サウジビジョン2030とその過去6年間の成果から学ぶことがあるとすれば、それは「絶対にないとは決して言わないこと」だ。

イスラエル史上最も右寄りの政府との和平などあり得るのだろうか。それに対する最良の答えは、今週のアラブニュース「フランクリー・スピーキング」に登場したラビのマーク・シュナイアー氏の発言にある。「このような交渉や譲歩では往々にして、真の和平となるものに信頼性、正当性、真正性を与える右寄りの人々が必要となる」

結局のところ、1979年のエジプト・イスラエル平和条約は当時イスラエル首相だったメナヘム・ベギン氏(頑固なシオニストであり、イスラエル建国に至る時期に残虐行為を働いた残忍な民兵組織「イルグン」の元指導者)によって承認・締結され、現在まで続いている。ベギン首相はエジプトのアンワル・サダト大統領と共にノーベル平和賞まで受賞した。それに、テロとのつながりからロンドンでは長年憎まれていたアイルランド共和国指導者のジェリー・アダムス氏とマーティン・マクギネス氏が最終的に1998年のベルファスト合意を通して北アイルランドに和平をもたらすうえで重要な役割を果たすことになるなどと誰が考えただろうか。

しかし、ハマスが再び合意の妨害を決定したらどうなるのか。その場合に我々が言えるのは、狂気の定義の一つは同じことを何度も繰り返しながら違う結果を期待することだ、ということだけだ。過去70年間の出来事は、パレスチナの大義は地歩を得るのではなく失ってきたということを示唆している。

  • ファイサル・J・アッバスはアラブニュースの編集長。X: @FaisalJAbbas
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