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ガザにおける今回の戦闘激化が提起した疑問

2023年10月8日、パレスチナ武装勢力がガザ市からイスラエルに向けて発射したロケット弾。(AFP)
2023年10月8日、パレスチナ武装勢力がガザ市からイスラエルに向けて発射したロケット弾。(AFP)
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10 Oct 2023 12:10:20 GMT9
10 Oct 2023 12:10:20 GMT9

また始まった。イスラエル国内でのハマスによる驚くべき攻撃を受け、2005年以降6回目となる、イスラエルによるガザへの軍事作戦が本格化している。軍事作戦の再開は驚くことではない。それは避けられなかった。ガザは何も変わっていなかったのだから。衝撃的だったのは、ハマスがこれほど劇的で血なまぐさい作戦を試み、成功させたことだ。

危機は進行中であり、詳細がほとんど確認されていない状態であるため、初期評価にはリスクが伴う。7日未明にガザで起きたハマスの攻撃は、多くの疑問を投げかけた。これまでのところ、はっきりした答えはほとんどない。

ハマスがこのようなかつてない規模の奇襲攻撃を仕掛けたのはなぜか。なぜこのような大胆で無謀な行動にでたのか。ハマスは何を達成したいのか。民間人を殺すことが彼らの大義にとってプラスになるのか。民間人を標的にすることは戦争犯罪である。ハマスがイスラエルの子どもたちをガザに連れ去ったこともあったようだ。ハマスによれば、それはアル・アクサに対するイスラエルの脅威を阻止し、囚人を釈放させるためだという。それは事実なのだろうか。それとも他の問題が関係しているのだろうか。誰がこの決定を下したのか。そしてハマス指導部のどこがこの極秘作戦を知り、承認したのか。イランやその他の第三国がハマスに働きかけているのだろうか。パレスチナ市民が今後耐えなければならない恐怖について、少しでも考えた者はハマスの中にいたのだろうか。

イスラエルはどう動くのか。またしてもガザへの長期的な砲撃や地上侵攻が行われるのだろうか。イスラエル史上もっとも過激な現政権は、その軍事行動の際、さらに残忍になるのだろうか。イスラエルは、ガザ地区の完全かつ直接的な軍事再占領を目指すのだろうか。イスラエルは占領国ではあったが、ほとんどの場合、休戦ラインや海、空からガザを支配してきた。これは、ガザ地区内にイスラエル軍が戻ってくることを意味するが、それはほとんどの人にとって歓迎されないシナリオだ。どのような作戦が実施されるにせよ、最後には首が飛ぶことになり、その中にはベンヤミン・ネタニヤフ首相の失脚も含まれるだろう。

パレスチナ自治政府に何かできるのか、あるいは何かするつもりはあるのだろうか。多くの選択肢があるのだろうか。あるとしても、これは自国民を救うための解決策も戦略も持ち合わせていないマフムード・アッバス大統領の弱みを露呈させただけだ。一部の人々はそれを誤った判断だと見なすかもしれないが、パレスチナ人の多くは、ハマスが何かをしようとしていると見るだろう。

どのような事態が予測されるだろうか。これは短期的な戦闘激化で終わりそうもない。イスラエルは、2014年にヨルダン川西岸で10代のイスラエル人3人が誘拐されたときのように、危険な地上侵攻を選ぶかもしれない。ハマスは、可能な限り、イスラエルにロケット弾を撃ち続けるだろう。暴力はおそらくガザだけにとどまらない。すでに東エルサレムのシュアファトキャンプ内で衝突が表面化していることが報じられている。ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人は、検問所に閉じ込められながら生き延びなければならない。一方、入植者たちは、より多くの土地と水を奪うという長期的な戦略目標に向け、さらに多くのパレスチナ人が村や先祖代々の土地から逃げ出さざるを得ないような、強制的な環境を作り出そうとしている。

ハマスとイスラエルの間で、先週の状況に戻るための短期的な取引が行われる可能性はあるだろうか。その可能性はきわめて低い。イスラエル国内に向けては、イスラエルの情報・安全保障における1973年以来最大の失敗に対応する姿を見せなければならないことをネタニヤフ首相はわかっている。このことは安全保障体制全体を揺るがすだろう。ハマスの中には、イスラエルの捕虜を確保することが自分たちのカードになる、保険になると考えている者もいるかもしれない。しかしこれは非常に疑わしい。少なくとも、イスラエル軍がハマスの能力に甚大なダメージを与え、教訓を与えたと彼らが見なすまでは。

長期的な解決策を見出すことを優先し、リーダーたちが責任のなすりあいをやめてくれるといいのだが。

クリス・ドイル

しかし、長期的な視点において最大の問題は、国際社会がどのように対応するかである。イスラエルとハマスが対立するたびに採用されてきた伝統的な脚本に従えば、両国民の期待を裏切ることになる。サウンドバイトやスローガンは戦略の代わりにはならない。たしかにイスラエルには自衛権がある。しかし、パレスチナ人にも同じ権利があるという声は聞かれるだろうか。国際社会はイスラエルに、自衛には限界があり、民間人への積極的な攻撃はその範囲を超えるものであることを思い起こさせるだろうか。そして、冷静さを取り戻すことが大事だという金言が聞かれることはあるのだろうか。占領下での生活は侵略であり、決して穏やかではない。

国際社会は明確に発言し、断固として行動する必要がある。ハマスはすでに制裁を受け、孤立している。ガザに住む200万人以上の人々に対する、イスラエルとエジプトによる16年にわたる封鎖を終わらせる取り組みはどうだろうか。これは民族全体に対する集団的懲罰であり、戦争犯罪である。パレスチナ人を野外刑務所に閉じ込め、貿易も旅行も普通の生活もできないようにするのは紛争のもとである。パレスチナ人は、動物でさえ口にすべきでないほどひどい水の、過密スラムに住んでいる。ガザの人々を人間として見るときだ。このような封鎖が子供たちにどのような影響を与えるか、この地獄のような場所を一度もでたことがない80万人の子供たちには外の世界がどんなものかという概念もないというのがどういうことか、私たちは考えるべきだ。ヨルダン川西岸地区におけるイスラエルの違法行為を無視してきた結果でもある。

国際社会が何もしなければ、私たちは多数の人命の損失と人々の生活の破壊を目にすることになる。すでに両国民の死者数は3桁に達しており、イスラエルの軍事作戦が続けば、パレスチナ人の死者数は刻一刻と増えていくだろう。また、ヒズボラは今のところ関与していないが、北方戦線にまで対立が広がる危険性もある。

長期的な解決策を見出すことを優先し、リーダーたちが責任のなすりあいをやめてくれるといいのだが。これらの解決策は、すべての人々にとって得るものがなくてはならない。それは、ガザの人々が自由に息をできるようになり、抑圧や占領から解放された新しい生活を夢見ることができるようになることだ。適正かつ合法的な経済生活の繁栄を認めるということだ。そして、ガザのパレスチナ人とヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の交流を妨げる封鎖を終わらせることだ。

それはまた、ガザ周辺のコミュニティーに住むイスラエル市民が、ロケット弾や迫撃砲による攻撃や、今回のようにコミュニティに侵入してくる武装戦闘員による攻撃から解放され、安全に暮らせることでもある。

そのいずれも、明確で実行可能な政治的プロセスなしには実現しない。米政権は今年、イスラエルによる行動の多くに対し、より力強く発言してきたが、それは当然のことである。しかし、パレスチナ人の苦境に対処するための政治的なプロジェクトは何も進展させていない。

アメリカがイスラエルとサウジアラビアの正常化合意を推進する中、サウジアラビアはパレスチナ問題に対する真の解決策を放棄するよう圧力を受けてきた。サウジアラビアがこれに対抗し続けているのは正しい判断だ。

これらの出来事からあらためてわかるのは、この紛争の核心にあるのはパレスチナ人の未来だということである。あるイスラエル人コメンテーターが言うように、「ガザの生活が地獄である間は、イスラエルが楽園になることはない」のだ。この問題を公正かつ合理的な方法で解決しなければ、世界中のいかなる国交正常化交渉も、イスラエル人とパレスチナ人に平和と安全をもたらすことはない。

クリス・ドイル氏は、ロンドンを拠点とするアラブ・イギリス理解協議会の会長である。エクセター大学でアラビア語とイスラム研究を専攻し、最上級の優等学位で卒業した後、1993年から同協議会で勤務している。アラブ諸国への議会代表団を数多く組織し、同行してきた。
X: @Doylech

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