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アメリカが出した殺戮の許可証

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10 Dec 2023 05:12:32 GMT9
10 Dec 2023 05:12:32 GMT9

アラビア語には「言い訳が罪そのものより見苦しいとき」という意味の有名なことわざがある。これは、アメリカが12月8日に、国連安保理でガザでの即時停戦を求める決議案に唯一反対したことを正当化した際の状況にまさに当てはまるものだ。

アメリカのロバート・ウッド国連大使代行は安保理に対し、決議案は「現実離れしている」と述べ、アメリカとイスラエル両政府が表明してきた、停戦はハマスを利することになるという立場を繰り返した。

だが、実際に「現実離れ」しているのはこのアメリカの立場だけである。とりわけ、米国務省が非常事態条項を発動して、議会を通さずに戦車用砲弾をイスラエルに売ることを承認したことと考え合わせた場合にはである。

だが、さらに「現実離れ」しているのは、停戦の結果ハマスがより強大になるという議論である。

ファイサル・J・アッバス 編集長 

皮肉なことに、拒否権行使も非常事態条項発動も、アントニー・ブリンケン米国国務長官が、ガザ攻撃により多数の民間人が犠牲になっていることに対し「民間人を保護するという意図と現実の結果」の間に乖離があるとして公にイスラエルを批判した後で起きている。イスラエルに対して追加で1億ドル以上に相当する戦車用弾薬1万4,000発分を供給した同じ米国務省が、このような発言をなぜできるのだろうか。

だが、さらに「現実離れ」しているのは、停戦の結果ハマスがより強大になるという議論である。

まず、仮にアメリカとイスラエルがハマスの強大化を防ぐことに真剣に取り組むのであれば、彼らは16年前にハマスの最大の支援者とも言うべきベンヤミン・ネタニヤフ・イスラエル首相が「ハマスをテロ組織からパートナーに格上げ」するのを止めることでそうすべきだったのだ。「タイムズ・オブ・イスラエル」紙は最近、このような表現でネタニヤフ氏が長年行ってきた、ヨルダン川西岸地区の正統なパレスチナ自治政府を弱体化させるとともにガザのハマスに力を与えることでパレスチナの分裂を促進する政策を厳しく批判した。

次に、そのほとんどが民間人、女性と子供である1万7,700人以上の犠牲者を出した戦争を続けたからといって、ハマスを弱体化できるとは思えない。

念のために言っておくが、私はハマスを支持しているのではない。繰り返すが、民間人を殺害し、意図的に攻撃の対象とすることは決して正当化されない。10月7日も、その前も、その後もだ。

だが、この戦争によってハマスにはより同情が集まり、似たような集団が生まれるだけである。その理由は単純で、これまでに証明されているように、住民の間に多大な死傷者と避難民を出し、民間のインフラに未曽有の損害を与えることなしに、ハマスのようなグループを根絶するというイスラエルの目標を達成することは不可能なのだ。

したがって、即時停戦を求める決議案に拒否権を行使した唯一の国になったことで、アメリカは事実上、イスラエルに殺戮の許可証を与えたのだ。言うまでもなく、これはアメリカが公言する価値やこれまでの立場、例えばウクライナ侵攻をめぐるロシア批判に真っ向から対立する行為だ。

ゆえに、高名なPBSの司会者、ニック・シフリン氏が大胆にもサウジアラビア外相、ファイサル・ビン・ファルハーン王子に、サウジはガザ問題に関して、本音と建前を使い分けているのではないかと質したのは、ほとんど失笑を誘うものであった。偽善があるとしたら、それはアメリカ政府の方だということは現在明らかである。どちらかといえば、シフリン氏は同じ質問を自国の政府に投げかけるべきだったろう。

今回の拒否権発動により、ガザでもその外でも、過激派の新たな世代が生まれるだろう。

ファイサル・J・アッバス 編集長 

さらに、このアメリカが発行する殺しの許可証は、イスラエルによるパレスチナ人殺戮に適用されるだけではない。今回の拒否権発動により、ガザでもその外でも、過激派の新たな世代が生まれるだろう。

したがって、戦闘を停止し、パレスチナ国家の樹立を可能にする2国家解決に向けた確固とした道筋を作らなければならない。

停戦により、これらすべてに着手できる。この停戦という言葉は「残念なことに、禁句と見なされている」とファイサル王子はPBSに対し述べ、これは理解しがたいことだと付け加えた。正気の人間なら、理解できる者はいないだろう!

ファイサル・J・アッバスはアラブニュースの編集長。

X: @FaisalJAbbas

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