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宇宙法の不備は、「ワイルド・ウェスト」の態度を助長する

宇宙法における不備は、宇宙で何が許されるかということに関して、「ワイルド・ウェスト(西部開拓時代)」のような態度を助長している。(ロイター)
宇宙法における不備は、宇宙で何が許されるかということに関して、「ワイルド・ウェスト(西部開拓時代)」のような態度を助長している。(ロイター)
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15 Jan 2024 01:01:18 GMT9
15 Jan 2024 01:01:18 GMT9

故ジョン・F・ケネディ大統領は、宇宙開発においてリーダーシップを発揮することを望み、こう述べた。「我々はこの10年で月に行くことを選んだ。そして、他の目標も選んだ。なぜなら、それらは簡単なことではなく、困難なことだからだ」

宇宙は難しい。先週私たちは、月面を目指した民間セクターによる歴史的ミッションが、打ち上げ成功後に失敗に終わるのを目の当たりにして、その難しさを学んだ。

このミッションは、NASAの「アルテミス計画」の一環であり、宇宙機関の科学実験のペイロードを搭載していた。ミッションは、2つの歴史的偉業を達成することを目指していた。1つは、1972年のアポロ計画以来50年余り振りに米国が月に降り立つこと、もう1つは民間企業による初の月面着陸だ。

月着陸船は月の南極にソフトランディングする定だった。しかし、軌道への打ち上げに成功した後、ペレグリンは推進システムに問題を起こした。同社は「推進剤漏れ」によって着陸は実現しなかったとXに投稿した。

しかし、NASAと民間セクターは再び挑戦する。2月には、イーロン・マスク氏が率いるスペースXの「ファルコン9」ロケットで2度目の月面着陸ミッションを実施する。インテュイティブ・マシーンズのために米国宇宙機関のペイロードを運ぶこのミッションは、2月22日に月面着陸を目指している。成功すれば、先日のULA打ち上げ失敗後、初の民間企業による月面着陸となる。

これらの2つのミッションは、NASAが宇宙探査に新たなアプローチをとっていることを示している。NASAのビル・ネルソン長官は先週の記者会見で、「私たちは探査の黄金時代を生きている」と述べ、「今回私たちが月に戻るのは、学び、生き、創造し、発明できるようにするためであり、最終的には火星に行けるようにするためだ」と語った。そして、この新たなアプローチでは、民間企業や国際的なパートナーとの協力が重視されている。

NASAにとって安全が最優先事項であることを強調しながら、彼はアルテミス計画のスケジュール「更新」を発表した。メディアはこれを「遅延」と呼んでいる。

「アルテミスII」は、着陸せずに月を周回する有人ミッションで、2025年9月まで延期された。一方、「アルテミスIII」は現在2026年に予定されており、月の南極に着陸する初の女性と有色人種を含む宇宙飛行士が搭乗する。「アルテミスIV」は2028年を予定しているとネルソン氏は述べた。

NASA関係者は、カプセルの熱シールドと「生命維持装置の電子機器」に関連する技術的な問題を挙げ、どのミッションも打ち上げ前にこれらを研究し、修正する必要があるとし、宇宙へ行くことがいかに難しいかを示した。NASAのジム・フリー副長官は記者団に対し、「私達は、準備がきたときに打ち上げを行う」と述べた。

NASAのアルテミス計画における課題や遅延にもかかわらず、宇宙探査に新たな時代が到来している。宇宙の商業化は始まっており、後戻りはできない。元国連宇宙部(UNOOSA)局長のシモネッタ・ディ・ピッポ氏の著書『SPACE ECONOMY』によれば、宇宙経済は「2030年までに74%成長し、6420億ドルに達する」と予測されている。

今回失敗したミッションも、時をおかずに成功するだろう。宇宙経済、そして宇宙において民間セクターが役割を果たす時代が始まった。政府は当初、全人類のためのインスピレーションと探査のために宇宙を目指したが、今や政府や多様および民間セクターの関係者は探査だけでなく、経済的・商業的利益や、近い将来、月や小惑星など他の地球型天体の資源を採取することを目標として、意欲を燃やしている。

宇宙を舞台にした新時代が人類にとって新たな、そして有望な章を開くとき、宇宙大国が正しく行動することが重要だ。なぜなら、宇宙は米国防総省関係者が3つのCと呼ぶ「混雑(Congested)、対立(Contested)、競争(Competitive)」に直面しているからだ。

NATOの広報紙『Legal Gazette』 によれば、80カ国が軌道上に衛星を登録し、11カ国が打ち上げ能力を有しているという。UNOOSAは、2023年6月の時点で宇宙にある個々の衛星の数を1万1330基としており、これは2022年1月から37.94%の増加である。

宇宙に存在する衛星の数は急増している。コンサルティング会社のクイルティ・スペース(Quilty Space)は、2030年までに新たに2万2000基の衛星が打ち上げられると予測しており、マスク氏のスペースXは4万基の打ち上げを望んでいる。宇宙に衛星が増えるということは、衝突の危険性やデブリの増加を意味する。

欧州宇宙機関(ESA)は、軌道上には1億7000万個のデブリがあると推定している。その中に古くなって廃棄された衛星や、対衛星実験で破壊された破片もあれば、1mmほどの小さな破片もある。しかし、砂粒ほどのデブリでも時速1万7000マイルで移動し、他の衛星や国際宇宙ステーション、その他の将来の宇宙活動に大きなダメージを与える可能性がある。

宇宙に関する新しい国際条約がない中で、各国は独自の宇宙法でその不備を埋めようとしている。

アマル・ムダラリ博士

このため、専門家たちは無政府状態を警告し、解決策が見つからなければ、宇宙は大惨事を招きかねない墓場になりつつあると嘆いている。多くの国々がデブリの監視と除去に取り組んでいるが、技術はまだ発展途上であり、課題はあまりにも大きい。

宇宙はまた、大国間の対立の中で争われている。多くの宇宙大国は、すでに宇宙を戦争や作戦の領域と呼び、宇宙軍を設立している。

しかし、本当の競争は月とその資源をめぐって行われるだろう。月には、ヘリウム3などのエネルギー生産に不可欠な物質や、地球上のクリーンエネルギーに不可欠な物質、エネルギー転換に役立つ物質が豊富に存在すると考えられている。小惑星はさらに豊富で、金やその他のレアアースを含んでいる。レアアースをめぐる競争は、宇宙での紛争を引き起こす可能性がある。

ディ・ピッポ氏はその著書の中で、小惑星からの資源採取が地球経済に与える悪影響について語っている。彼女は、金属を豊富に含む小惑星から金やプラチナが採れれば、世界経済がたちまち破壊されると予測する専門家を挙げている。彼女はまた、「小惑星からの、相当な量の物質の採掘」が行われた場合、「金の価格は50%急落し、深刻な地政学的結果をもたらすだろう」と結論づけたシミュレーションを引用している。

このような宇宙開発競争、そして商業セクターの宇宙開発への参入は、宇宙ガバナンスが弱く、宇宙法のマグナ・カルタである国連宇宙条約が時代遅れになっている中で起きている。

宇宙法における不備は、宇宙で何が許されるかということに関して、「ワイルド・ウェスト(西部開拓時代)」のような態度を助長している。さらに、宇宙を利用する国々は、存在する法律や条約を自国の利益に合わせて、さまざまに解釈している。宇宙開発における新たな発展、特に民間セクターの参入を考慮した宇宙に関する国際条約の新設や更新がない中、ルクセンブルクからUAE、日本から米国までの国々が、批判を招きつつも可能な解決策を提示している。

2015年、米議会は小惑星や月から採取した物質などの宇宙資源を所有する権利を米企業に与える「商業宇宙打ち上げ競争法」を可決した。

前大統領ドナルド・トランプ氏は、米国が宇宙条約にコミットしているとしつつも、宇宙を「地球全体の国際公共財(グローバル・コモンズ)と見なさない」とする大統領令を発令した。彼は国務長官に、1979年の月協定を「慣習国際法として解釈しようとする、あらゆる試みに反対する」米政府の取り組みを指揮するよう指示した。

この協定は、月とその天然資源を「人類の遺産」と呼び、その資源の所有を禁じているものであり、主要な宇宙大国はこれを支持していない。

宇宙条約もまた、月やその他の天体を含む「宇宙空間の探査」を「全人類の領域」とみなしている。その第2条では、宇宙空間は「主権の主張、使用または占領の手段、またはその他のいかなる手段によっても、国家による所有の対象とならない」と断言している。

アルテミス協定では、加盟国が遵守しなければならない独自の原則があり、宇宙条約へのコミットメントを確認しながらも、「宇宙資源の抽出は、本来、宇宙条約第2条に基づく国家的な所有に該当するものではない」と明言している。

アルテミス協定は、「有害な干渉を避ける」ために月面に「安全地帯」を設定することについて述べている。中国とロシアはこれらの設定を批判しており、専門家たちは、宇宙条約第1条が宇宙空間を「天体のすべての領域に自由にアクセスできるものとする」と定めていることを指摘している。彼らは、月やその他の天体における主権に関する疑問を提起しているのだ。

先週のULAによる打ち上げの際、宇宙の未来についての洞察が得られた。ネイティブアメリカンたちが、月へDNAと人間の遺骨を運ぶペイロードに抗議した。それが、彼らの信念に反する月の冒涜を意味すると主張したのだ。月は彼らにとって神聖なものである。

米国メディアによると、ULAは4人の大統領とその他のDNAおよび約200人の遺骨を搭載しており、一部は月に、その他は宇宙空間に運ぶ予定だったという。NASAは、このミッションは民間企業が請け負ったものであり、民間企業が月に運ぶものに対して責任は負わないと主張した。

実は、この主張は正確ではない。宇宙条約第6条は、条約締約国は「月、その他の天体を含む宇宙空間における国家的活動については、その活動が政府機関によって行われるものであるか非政府団体によって行われるものであるかを問わず、国際的責任を負うものとする」と明確に定めている。

新たなガイドラインや法律、国際条約が無いまま民間企業が宇宙開発に参入すれば、パンドラの箱は開かれ、今度は天空に新たな紛争の領域が展開されることになるだろう。

  • 元レバノン国連大使のアマル・ムダラリ博士は、グローバル問題のコンサルタントである。
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