エファレム・ コッセイフィ、ロバート・エドワーズ
ニューヨーク/ボゴタ、コロンビア:人道支援のニーズの高まりとウクライナへの支援の集中により、世界の他の差し迫った危機、特にシリア、アフガニスタン、エチオピアなどの国における情勢悪化に支援機関が対処するための資金が大きく不足している。
国連によると、世界の紛争地帯や被災地域で活動する人道支援機関は、2022年には2億人以上を支援するために487億ドルを必要としている。しかし、今年になって8ヶ月が経過した今、その目標額の三分の一しか調達できていない。
このように調達目標が未達となっている一因としては、同時多発する戦争、気候変動による大災害、金融危機、新型コロナパンデミックの残存する影響などによって、現在の世界において相当な数の人々が支援を必要としていることが挙げられる。
しかし、人道支援の財源不足のもう一つの主要な要因は、ウクライナにおける戦争だ。2月にロシアが侵攻を開始して以来、ウクライナへの支援が欧米各国政府による対外支援政策の中心となっているのだ。
国連は今年、侵攻によって難民になったり影響を受けたりしたウクライナ人を支援するために、60億ドル以上の資金提供を呼びかけた。最初の呼びかけでは目標額を上回る資金が集まり、2回目も目標に到達しつつある。
それとは対照的に、中東のイラク、シリア、イエメン、アフリカのコンゴ民主共和国、エチオピア、南スーダン、南アジアのアフガニスタン、バングラデシュ、ミャンマー、ラテンアメリカのコロンビア、ハイチ、ベネズエラなどの、危機に直面する世界の他の地域における支援プログラムは、必要な資金のうちほんの一部しか調達できておらず、支援の取り組みが遅れている。
国連人道問題調整事務所(OCHA)のジョイス・ムスヤ人道問題担当事務次長補兼緊急援助副調整官は、8月29日に国連安全保障理事会で行われたシリア情勢に関するブリーフィングにおいて、「慢性的な資金不足がもたらす不可逆的な損害について大変懸念している」と述べた。
「命を救う支援において妥協が行われ、生活や不可欠なサービスへの投資が削減される恐れがある。資金不足は、学校に通えなくなる子供の増加、栄養失調率の上昇、保護介入の減少などの深刻な結果をもたらす」
同事務次長補は、シリアにおける自分の任務に関連して、「我々が今行動しなければ、シリアの子供たち一世代が失われてしまう恐れがある」と述べた。
実際、シリアにおけるプロジェクトや近隣諸国が受け入れているシリア難民を支援するプロジェクトのための予算は大幅に削減されている。近年のシリア北部(アレッポ北部の田園地帯やクルド人が掌握する北東部など)での暴力行為の増加、依然として続く難民危機、人道支援ニーズの高まりにもかかわらずである。しかもこれらは全て、政治プロセスの行き詰まりや、体制がもたらした破綻に近い経済状況の中でのことだ。
観測筋の中には、人道支援資金の大半を提供している欧米の資金提供国を「二重規範」あるいは「あからさまな人種差別」とまで言って非難する者もいる。それらの国は、そのほとんどが自分たちと同じ白人でキリスト教徒でヨーロッパ人であるウクライナの人々を支援するプロジェクトには資金提供を惜しまない一方で、中東、アフリカ、南アジア、ラテンアメリカにおけるプロジェクトにおいて非常に必要とされている資金は出していないというのだ。
フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は7月の記者会見で、「バングラデシュやコロンビアなどで行っている十数のプロジェクトにおける資金不足を大変危惧している」と述べた。「人道支援が必要なのはウクライナだけではないというメッセージを繰り返し強調することが重要だ」
WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長は4月、危機に直面する人々への対応に際して人種による二重規範を適用しているとして国際社会を非難し、外交的な波紋を広げた。
エチオピア人である同事務局長は、人道危機で生活を脅かされる人々が黒人か白人かによって扱われ方が違うと指摘し、ウクライナに対する注意のほんの「一部」しか他に向けられていないと述べた。
さらに、ウクライナでの戦争により多くの注意が向けられる一方で、エチオピア北部のティグライ地域など、それ以外の場所におけるニーズは真剣に受け止められていないと語った。2020年11月に始まったティグライの紛争では、数千人が死亡し数百万人が難民となった。
同事務局長は記者会見で記者団に対し、「世界は本当に黒人と白人の命に対して等しい注意を向けているだろうか」と述べた。「ウクライナに注意を向けることはもちろん大事だ。世界全体に影響を与えるものだからだ」
「しかし、ウクライナへの注意のほんの一部さえもティグライ、イエメン、アフガニスタン、シリアなどには向けられていない。遠慮なく率直に言う必要があるが、世界は人類を平等に扱っていない。一部が他より良い扱いを受けている。このことを言うと心が痛む。実際に目にすることだからだ。非常に受け入れがたいが現実に起こっていることだ」
近隣の欧州諸国が受け入れている600万人のウクライナ人にとっては言うまでもなく、欧米の資金提供国にとってウクライナでの戦争は、自国の国益に直接影響するため明確な地政学的緊急性を有しているが、支援の政治化についての懸念も高まっている。
国連のマーティン・グリフィス人道問題担当事務次長兼緊急援助調整官は、人種や国をめぐってウクライナを優遇するような組織的な二重規範の存在を否定しているが、危機に直面する世界の他の地域に提供される資金が限られていることを懸念していると認めている。
同事務次長はアラブニュースに対し、「国際的な注意の視野が限られているという考えは新しいものではない。ウクライナだけがそういう注意を向けられているという指摘はあたらない。我々にとって極めて重大な危機であることは確かだが」と語る。
「国際社会の注意のサイクルは最新の話題に極めて限定される。ウクライナがその位置を占めていることは理解できることだ。それが二重規範だとは思わない。もっともなことだ」
「資金については危惧している。ウクライナに人道支援を提供する加盟国がイエメンやシリアやアフガニスタンなどに提供する資金が少なくなるのではないかとずっと心配していたのだ。そうだとはっきり示す証拠は今のところはない」
「確かに、ウクライナ侵攻が始まってから数週間は、資金提供者の大半はウクライナ以外の紛争地への支援のために以前から持っていた資金を守っていた。しかし、時間が経つにつれてそれが崩れ始めた」
「それが二重規範だとは決して思わない。ただ、ウクライナ以外への注意が十分か、十分に優先されているかについては心配している」
アントニオ・グテーレス国連事務総長の報道官を務めるステファン・ドゥジャリク氏は、ウクライナへの支援と比べてそれ以外の場所への支援が意図的に軽視されていることはないと主張する。
同氏はアラブニュースに対し、「事務総長はマルチタスクを行う必要がある。ウクライナに注力しているからといって、他の危機に対処していないわけではない」と語る。
「ほぼ毎日、他の人道危機の話をしていると思う。そして常に資金不足に注意を促そうと努めている。資金不足は全ての人々にとっての悲劇だからだ。イラクやシリアの難民キャンプにいる人々だけではない。イエメンやアフリカの角では、資金が入ってこないため配給を削減せざるを得なかった時期があったことも知っている」
「全世界で資金がないわけではない。資金があることは分かっている(…)皆が何とかして資金を調達しようと努力している。人道危機に対処するための資金が必要なのだ」
「人道支援を訴えて、10%、20%、30%の資金が提供されたとしても、人々に食料や住居や医療サービスを提供するには十分ではない」
資金提供国が資金援助の優先順位を付ける際に二重規範を用いていると非難することはできるかとアラブニュースが尋ねたところ、ドゥジャリク氏は、「提供者の動機やプロセスについては何も言えない」と答えた。
「一部の加盟国は極めて多額の資金を提供している。もっと資金を提供できるのではと思う国もある。それは単なる事実だ。民間部門に多額の資金があることも知っている。各種財団にも。世界に資金がないわけではないのだ」
「文字通り飢餓に直面している人々を資金不足が直撃しているのだ。資金提供者には互いに競合するニーズがあることは理解している。自分に直接の影響がある危機に支援を集中するほうが大事だと思う提供者がいるのも理解できる。彼らのウクライナの人々への寄付には感謝している。助けを必要としている全ての人が助けを得るべきだ。我々は全ての人が助けられることを望んでいるだけだ」
2019年に国連が人道支援プログラムの資金として278億ドルの提供を呼びかけた時は、目標額を100億ドル以上下回った。2020年には、目標額が386億ドルに上がり、不足額は194億ドルとなった。
2021年には資金調達は少し改善したが、2022年には目標額が再び上げられ487億ドルとなった。これは、年が始まる前の国連の予想より約80億ドル多い額だ。集まるのはこの目標額のやっと半分ほどになりそうだが、その代償を払わされるのは世界で最も弱い立場にいる人々だ。