Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

レバノンに必要なのは新たな政治体制だ

ヒズボラが選んだ大統領候補スレイマン・フランジェ氏は、フランス大統領からも支持されている。(ロイター)
ヒズボラが選んだ大統領候補スレイマン・フランジェ氏は、フランス大統領からも支持されている。(ロイター)
Short Url:
07 Apr 2023 05:04:19 GMT9
07 Apr 2023 05:04:19 GMT9

レバノンにとって、昔ながらの方策が唯一の道なのだろうか。エリゼ宮にいるエマニュエル・マクロン仏大統領と中東諸国は、このように考えている。レバノンの次期大統領としてスレイマン・フランジェ氏を支持し、支援することを選んだのは、主にこのためだ。フランジェ氏はヒズボラが選んだ候補でもある。大統領職の空白期間は6カ月目に突入している。そしてレバノンでは、それが実のところ何を意味するにせよ、国の制度的なプロセスが麻痺してしまっているのだ。

マクロン大統領の目的は、フランス外交の外交的勝利とも解釈されるような解決策を実現できるようにすることである。確かに、フランスはレバノンの問題を解決し、レバノンの人々を支援するために、約束と支援を表明している。残念ながら、レバノンやレバントの政策は、世界のリーダーを屈服させる癖がある。レバノンの地方政治への外国人の関与について外国人から問われた際、私は「グローバルリーダーとして登場しても、すぐに無意味で、往々にして人為的な細目に迷い込む、単なるムフタール(地方行政のトップの意)になりかねない」と答えた。

事実、現在の解決策では、たとえフランジェ氏が国会で議決されたとしても、応急処置にしかならない。国政に変化はなく、ただ借金が増え、苦境が深まるばかりだ。一般に、自分が穴を掘っていたらまず掘るのを止めろ、敵が穴を掘っていたら止めるな、とよく言われる。フランジェ氏の大統領就任は、長期的に見れば、レバノンが自ら穴を掘り続けていることになる。

フランスとしては、この解決策が唯一可能な解決策であり、大統領府に代議制度を取り戻すために、この解決策を推進している。フランスから見れば、この空席によって、レバノンのキリスト教徒が政治的な発言力を失うという懸念も生じている。そして、今回の選挙を認めることで、こうした悩みが解消されることになる。フランジェ氏を選ぶことは、政治的な秩序を再構築する方法として、シリアのバッシャール・アサド大統領との友好関係にも関わるものだ。そして、ヒズボラの完全な支配下にあったアウン大統領から、シリアとイランの間の均衡を保つフランジェ氏に移行することである。キリスト教徒とレバノン国民の政治的勝利についてお話ししよう。

フランスは、レバノン大統領制に安易な解決策を見出すことに注力すべきではない。むしろ、新たなレバノンの誕生を支援すべきなのだ。

ハーリド・アブー・ザフル

自らが軍事的に制圧しているにもかかわらず、一定の秩序が必要であり、その秩序を達成する能力がもはやないため、ヒズボラもこのバランスを取り戻す措置に熱心である。これはヒズボラの目的を継続的にサポートするための新たな起爆剤である。しかし、可決されるような代わりの候補者はいるのだろうか。フランスは、ヒズボラが最終的な意思決定者であり、どの政治ブロックからも支配できない候補者を受け入れることはないだろうと分かっている。そして、ゲブラン・バジル氏はつい最近まで、誰からも嫌われている存在だった。今では、エミール・ラフード氏やミシェル・スレイマン氏と同じ経歴を持つ、シリア占領時代を想起させるレバノン軍総司令官ジョセフ・アウン氏を挙げる人も出てきた。これは、この地域におけるアサド大統領の復活と相通じるものがある。

それで、一時しのぎの解決策として一番いいのがフランジェ氏なのかもしれない。しかし、1つだけ知っておくべきであり、理解すべきことは、ヒズボラとその同盟国がこの実現のために交わした約束は、まったく無価値であるということである。そして、彼らは必要性を感じるか、自分たちの利益のためになるなら、すべてを覆すだろう。したがって、昔ながらの方策で行くのではなく、新たな政治体制を議論すべきではないだろうか。

確かに、現在の体制は破綻している。なぜ続けるのだろうか。なぜ今、新しいものを作らないのだろうか。なぜ、新たなレバノンを作らないのだろうか。連邦制の議論が多くの人に戦慄をもたらすことは間違いないが、現在、彼らはどのような保護を受けているのだろうか。お言葉を返すようだが、キリスト教徒は安全だと感じているのだろうか。スンニ派は?あるいは、ヒズボラの圧制下にあるシーア派も?答えは「ノー」であり、「ノー」の繰り返しである。

だからこそ、フランスはレバノン大統領制に安易な解決策を見出すことに注力すべきではないのだ。その代わりに、新たなレバノンの誕生を支援すべきなのだ。たとえマクロン大統領がそうした任務に失敗したとしても、少なくとも新しい希望をもたらすことになる。残念ながら、フランジェ氏が大統領では無理だろう。レバノンは空席を埋める必要はなく、連邦制によって生まれ変わる必要があるのである。

反対派が分離独立を恐れるのであれば、連邦制を機能させるように尽力すればよい。私は単純に考えている。現在の政治体制は他国への恐怖の上に成り立っており、そのおかげで民兵が見かじめ料で取引できるのだ。これは制度化された不正利得の政治にほかならない。また、相互に取引して利益を得ることを可能としている。汚い取引型の政治である。これを変えるには、すべてのコミュニティが安心して暮らせるようにし、地域の代議制度や意思決定へと移行していくしかない。そうすれば、民兵同士の取引はなくなる。そして、これこそが連邦制によってもたらされるものなのだ。ヒズボラでさえも、それが相応しいと思うだろう。

また、この変革の結果、新たな内戦が起こると主張する人もいる。彼らは、「知らぬ神より馴染みの鬼」という考え方を説いている。私は、実際には一時しのぎの解決策は内戦につながると確信している。それを回避するためには、重大な変化が必要だ。レバノンは症状だけを治療して、本当の病気を治療しない昔ながらの一時しのぎの解決策を採用する可能性が高い。フランジェ氏がバアブダ宮殿にたどり着き政権を樹立したとしても、それは何ら変わりはない。レバノンはゆっくりと衰退し続け、私たちはやがて大統領職の空席だけでなく、もっと深刻な事態を懸念しなければならなくなるだろう。

  • ハーリド・アブー・ザフル氏は、宇宙に焦点を絞った投資シンジケーション・プラットフォームであるバービケインの創設者である。メディア・テック企業ユーラビアのCEO。アル・ワタン・アル・アラビ誌の編集者でもある。
特に人気
オススメ

return to top