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チャールズ3世はいかにして英国を再び偉大にできるか

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06 May 2023 12:05:45 GMT9
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2016年の話だ。私はロンドンについての本を書き上げたばかりだった。英国の首都に約10年間住んでいた経験を反映した本だ。本の中で、私は18世紀のイギリス人サミュエル・ジョンソン氏が書いた、以下の手紙の内容は正しかったと結論付けた。「人がロンドンに疲れたとき、その人は人生に疲れているのだ。ロンドンには、人生で得られるすべてのものがあるのだから」

だが、それはその時のことで、今は違う。英国のEU離脱が投票で決まってから7年が経ち、むしろロンドンと英国の方がくたびれている。

今となっては、ブレグジットキャンペーンの多くが嘘に基づいてたことが明白になり、賛成票を投じた者の多くは「買い物後の後悔」に悩まされている。最新の世論調査によると、英国人のわずか33%がEU離脱を正しいと思っている一方で、55%は今となっては悲惨な過ちだったと思っている。

2016年の国民投票後、何が起きたのかを考えると、誰が国民を責められるだろうか。新型コロナウイルスの流行とウクライナでの戦争が、やむを得ず英国経済を損なってしまったことは事実だが、どの国もその悪影響を受けている。他国は大幅に回復したものの、今後2年間、英国経済はG7の中で最悪のパフォーマンスだろうとOECDは予測する。そして先月、英国銀行のチーフエコノミストは、英国民は以前より貧しくなったことを、ただ受け入れなくてはならないだろうと語った。

一方で、ダウニング街10番地(首相官邸)の回転ドアは、国内政治の安定に貢献しているとは言えない。テリーザ・メイ氏は2019年、ブレグジットを実現できなかったとして退任を告げられ、ボリス・ジョンソン氏が後を継いだ。議論を呼んだ3年間と「パーティーゲート」を経て、ジョンソン氏はリズ・トラス氏に席を譲った。トラス氏の、幸運とも言える短い45日間の在任期間は、英国政治史上最も短いもので、スーパーのレタスの賞味期限に例えられたことが印象的だった。現職のリシ・スナク氏は、少なくとも平穏を取り戻させたが、4日夜の地方選結果が示唆していることは、おそらく2024年10月に行われる次の総選挙で、スナク氏も退任させられる可能性が高いということだ。

イギリスの国内政治が混乱している今こそ、人気と実力を兼ね備えた君主に代表されるソフトパワー、歴史、伝統という切り札を発揮する絶好の機会だ。

ファイサル・アッバス

国際的には、もちろん、イギリス帝国がなくなって久しい。そののちに成立したコモンウェルスの加盟国のうち、特にオーストラリアとカリブ海諸国は、外国にルーツを持つ元首が生まれることにますます抵抗を示している。自慢のアメリカとの、「特別な関係」は、現職大統領の気分次第のようにも思われる。英国がEUを離脱してから、多数の国は英国のことを、欧州大陸沖の隔離された島だと見做し始めている。

先行き不安だと思うだろうか…まあ、その通りだ。しかし、その必要はない。7日のチャールズ3世戴冠式に向け、各国首脳がロンドンに集結する。果たして新国王は(表現を借りるが)「英国を再び偉大にする」ために必要なものを持っているのだろうか。

英国民はきっとそう思っているように見える。ほとんどの政治指導者の支持率は、在任期間が長ければ長いほど下落する傾向にあるが、チャールズ国王の支持率は逆方向に動いている。3月の世論調査によると、英国民の39%は良い国王になってくれると考えているが、今週行われた同じ世論調査では、62%に上昇していた。

イギリスの国内政治が混乱している今こそ、人気と実力を兼ね備えた君主に代表されるソフトパワー、歴史、伝統という切り札を発揮する絶好の機会だ。

国のイメージに関する国際的な第一人者であるサイモン・アンホルト氏よりも、国の「ブランド」について精通した人物はいないだろう。そしてアンホルト氏は率直だ。アンホルト氏は昨年11月のインタビューで、実力のある君主は納税者にとってお値打ち品なのだとアラブニュースに話した。「そうした君主が、純粋なブランド価値として国のイメージに実際に還元するものは、数十億規模になります。人々は君主が大好きです。君主国に住んでいない人は特にそうです。君主がいなければ、英国は今よりもとても面白味のない国になっていたことでしょう」

ではチャールズ国王はどのような違いを生み出せるだろうか。まずは、環境保護に向けた生涯を通じた情熱がある。リズ・トラス氏は首相としては長続きしなかったかもしれないが、11月にエジプトで開催されるCOP27気候変動会議に、新国王を出席するのを妨げるためには、十分な任期だった。当時、私が書いたことは思慮に欠けていた。今年の末にドバイで開催されるCOP28は、新国王が参加してそれを是正する良い機会であり、それだけにとどまる必要はない。サウジ・グリーン・イニシアティブと中東グリーン・イニシアティブは、国王の環境に対する信頼と、王位継承者であったときに築いてきた中東との持続的な関係を、英国にとって有利に活用するためのもう一つの機会になる。

君主がいなければ、英国は今よりもとても面白味のない国になっていたことでしょう

サイモン・アンホルト

また、湾岸諸国との幅広い繋がりも期待される分野だ。英国と欧州の貿易政策の専門家であるポール・マクグレード氏が1月にアラブニュースに語ったように、英国がブレグジット以降、世界各国との自由貿易協定に苦労している一方で、湾岸協力理事会(GCC)の扉は開かれているのだ。「湾岸諸国は、エネルギーだけでなく、湾岸諸国が代表する市場、投資、パートナーシップの構築のため、これまで以上に重要な存在となります」とマクグレード氏はいう。

GCCの重要性が高まってきていることをようやく理解し始めたEUは、湾岸諸国への初めての特使としてルイジ・ディマイオ氏を指名した。イタリアの元外相には失礼だが、チャールズ国王は目をつぶっていても、イギリスのためにもっといい仕事ができるはずだ。  

サイモン・アンホルトはこう述べている。「このデータは、人々が国を賞賛する第一の理由は、その国が人類と地球に貢献していると考えるからであることを明確に示している」。そのような役割を体現するのに、チャールズ国王ほどふさわしい人物はいないだろう。

Twitter:@FaisalJAbbas

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